第24話 みんなで買い物&勉強

 一週間が終わり、買い物の約束をしていた週末が訪れた。


 今日行くのは「アビタ」という百貨店と、「芙士ふじ中央図書館」だ。


 買い物のついでに、図書館で中間テストの勉強も一緒に行うことにしたため、この行程になっている。





結城ゆうき、準備はいいか?」


 久朗くろうが僕に問いかけた。





「バッチリ! いつでも出かけられるよ」


 僕はそれに応える。





 ちなみに久朗の格好は、上に灰色のジャケット、インナーに白いシャツを着て、濃い紺のスラックスを穿いている。


 僕の方はうすい灰色の軽いダウンジャケットと、灰色のチノパンだ。


 いつバグが発生するか分からないので、普段着でも動きやすさが基本になってしまうのは、ヒーローの職業病といえる。





「待ち合わせは10時に、アビタの正面玄関前だったな」


 久朗が最終確認を行う。





「久朗、一応武器を確認しておいて。また練習用の弾丸は勘弁だから」





 僕が久朗に促し、もう一度チェックを行う。


 今回はしっかりと、実弾が入った短銃を保持しているようだ。





 アビタの正面玄関に、10分前に到着した。





「お、早かったじゃないか!」


 あきらが僕たちに、声をかけた。





 晶は私服も、ユニセックスのものを着用しているようだ。


 少し涼しいため、カーディガンのようなものを身に着けているが、それ以外は僕たちとほとんど同じ格好である。





 少し待つと、れんとみかんもやってきた。





「皆さん、早いのですね」


 漣が僕たちに言葉をかける。





 漣の格好は、クリーム色のカーディガンと長袖のブラウス、そして少し長めのスカートだ。


 上品な感じで、お嬢さまっぽい印象を受ける。





「にゃむ。アビタくらいならば、ジャージでいいと思ったのに」


 みかんがとんでもないことを口にした。





「みかんの服装があまりにもひどかったので、着替えさせていたのです」


 漣が補足する。





 みかんの服は、モコっとしたダウンコートと、濃い茶色のパンツだ。


 防寒性を重視した格好のようである。





「まだ少し肌寒いからな……とはいえ、お店の中でその格好だと、暑くないのか?」


 久朗が問いかける。





「にゃむ。暑いのはわりと平気。寒いほうが苦手」


 みかんがそれに答えた。





 10時になり、お店が開く。


 僕たちはまず、二階にある衣類のコーナーに向かった。





「みんなは何を買うの?」


 僕が問いかける。





「俺は下着類だな……漣とみかんも最初にそれを買うので、とりあえずは別行動しようぜ」


 晶が告げる。





「って、そういえば携帯の番号の交換をしていなかったな。みんなでやっておこうぜ」





 言われてみれば確かに。


 僕たちはまず番号の交換を行ってから、移動することにした。





 僕と久朗が向かったのは、男性物のコーナーだ。


 僕の財布がそろそろボロボロになってしまったため、買い替える必要を感じていたこともあり、まずそれをチェックしようと思ったのだ。





「結城の場合、わりとカード類を持たないからな。シンプルなタイプで問題ないだろう」


 久朗がいくつかチョイスする。





 僕はカードを持つ代わりに、スマートフォンのアプリを使うことが多い。


 逆に久朗はカードが好きなようで、長財布一杯にカードが詰まっている。





 比較的手ごろな値段のものを選び、会計を済ませた。


 そして、もう少し男性物の服を見ていると、久朗が声をかけてきた。





「わりといい服があったぞ。試着コーナーに置いたから、着替えてみてはどうだ?」


 わりと久朗はセンスがいいので、安心して試着コーナーに入ってみると……?





「これって、女物じゃないか!」


 こういういたずらをするのが、久朗の悪い所だ。





「まあ、騙されたと思って着用してみろ――サイズはしっかり合わせてあるからな」





 女性ものなんて、身に着けたくないのだが……少しだけ興味がわいたので、試着してみた。


 男性でも着やすいような、比較的シンプルなものを選んだところがまた、腹立たしい。





「こんな感じだけれども……明らかに変、だよね?」


 僕が試着室から出ると、店員が近づいてきた。





「お客様、大変お似合いですよ。ぜひお買い求めいただけないでしょうか?」





 試着室の鏡で確認すると……自分でも悔しいことに、わりと様になっている。


 久朗がやってきて、僕の格好を見て一言。





「うむ。間違いなく美少女だ。このままミスコンに行っても、いい所まで行くのではないか?」





 止める間もなく写真を撮られ、三人にメールを送信されてしまう。


 三人も買い物が終わったようで、こちらにやってきてしまった。





「うわ……正直、俺が着るよりもずっと似合っているな……」


 晶が思わずといった感じで、口に出す。





「結城さんだと知らかったら、確実に女性だと思うでしょうね」


 漣も似合っていることを、肯定してしまった。





「にゃむ。みかんよりも明らかに美少女。うらやましい」


 みかんはむしろ、少しいじけてしまったようだ。





 服を元のものに戻して、昼食をとる。


 今回はミスドーナッツにすることにした。





「クーポンを持っているから、大量に買ったほうがお得だぞ」


 久朗はそういうところで、抜け目がない。





「甘ったるいものは、あんまり好きじゃないんだよな……オールドファッションなどにしよう」


 晶はドーナツよりも、ホルタのたこ焼きの方に興味があるようだ。





「わたくしは新商品と、ポンデリングにします――飲み物はスーパーの方で調達しましょう」


 漣は比較的、無難な選択肢にしたようだ。





「にゃむ。棚に入っているものをすべて一つずつ」


 みかんがとんでもない注文をしそうになったので、慌てて止め、5つまでに制限をかける。





 久朗は当然新商品を選んだ。


 僕はフレンチクルーラーとポンデリング、そしてチョコレートのドーナツの3個。





 店内にある軽食を取れるコーナーで、一緒にドーナツを口にする。


 こういう甘いものも、たまには悪くない。





 午後は芙士中央図書館で、勉強だ。


 蔵書の数が芙士西図書館とは比べ物にならず、見たことがないような本もたくさん並んでいる。





「食べるとどうも、眠くなるんだよな……ふぁ~」


 晶が少し、眠そうにしている。





「少し段取りを失敗したかもしれませんね。勉強は軽く行って、趣味の本を選ぶなり仮眠するなりしたほうが、いいかもしれません」


 漣がそう提案した。





 ちなみにみかんは既に、机に突っ伏して眠ってしまっている。


 久朗はそれを見ながら、うらやましそうにしていて……勉強どころではなさそうだ。





「僕は少し、勉強を進めることにするよ」


「結城はまじめだな……少しは気を抜くことを覚えたらどうだ?」





 久朗はわりと勉強しなくても、いい成績を取れるからそういう事を言えるんだと思う。


 僕みたいな普通の人は、しっかり勉強しないと如実にテストの点数に反映されるんだから。





 一通りの勉強(一部は仮眠)を終えて、建物を出た。


 久朗は途中から、分厚い六法全書を読みだしていて……一体何をやっていたのやら。





「久朗、あんな本が面白いの?」


「意外と面白いぞ。特に判例に関しては、物語性があって個人的には好きだな」





 興味を持った分野に関しては、久朗も真面目に勉強するようだ。





「とりあえず、予習復習はしっかりしているからな。もし分からないことがあったら、家に帰ってから聞いてくれれば答えられる範囲で教えるぞ」





 久朗の助けに、甘えることにする。


 僕たちは三人と別れて、家に向かうことにした。 

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