第23話 久朗の部屋の片づけ、及び夕食

 その日、家に帰ると母さんのふみから、相談を持ち掛けられた。





久朗くろうの部屋を片付けるのを、手伝ってほしい」とのことである。


 元々久朗は片付けが下手で、見るに見かねて掃除することがたまにあったが……また散らかってしまっているらしい。


 了承し、久朗の部屋に入ることにした。





 部屋の扉を開けると……うん、確かにこれはひどい。


 歩くための最低限のところと、ベッドの上を除いてものが散乱しており、見るからに雑然とした印象を与える。


 ベッドでマンガを読んでいた久朗が、こちらに気づいたようだ。





「どうした、結城ゆうき?」


「この散らかった部屋を片付けるように、母さんにお願いされたんだ。協力してくれるよね?」





 いくら散らかっているからといって、勝手に片づけて物を捨てるわけにはいかないと思う。


 そのため、久朗の許可を取ることにした。





「歩く場所はあるから、これで十分な気がするのだが……」


 久朗が少し、渋い顔をする。





「歩けるからって、これはないよ……そもそもこれは何?」


 床に置いてあった、ゲームのパッケージを手に取る。





 ゲーム……普通のゲームならば僕も、とやかく言わないのだけれども……明らかに「えっちな」ゲームのパッケージだ。


 思わず少し、顔が赤くなる。





「いったいどうやって、こんなものを手に入れたのさ!」


 僕たちはまだ、購入できないはずなのに……。





「まあ、そのあたりは色々と伝手つてがあってな」


 久朗は悪びれることもなく、そうのたまった。





「大体、おかしいと思わないか? 人間の性欲は思春期に最も高まるにも関わらず、その時期に十分な性欲を発散するためのものが手に入らない――結果、性犯罪や避妊をしない性行為、妊娠中絶などにつながっていると私は思うのだが」





 久朗の言っていることにも、一理はあると思う。





「でも、今の法律ではダメだとなっているからね」


「結城はまじめすぎるぞ。もう少し柔軟な発想をしたほうがいいのではないか?」





 久朗がいい加減すぎるような気がするんだけれども……。





 久朗の部屋の本棚に、散らかっている本を戻す。


 本棚の上の段にはCDやDVDなどが入っていて、更に一番上のところにはアニメのフィギュアが並んでいる。


 なかなかオタクな趣味にはまっているようで、数も多い。





「あ、機動戦姫きどうせんきヴォーカリオンのフィギュア、全キャラクターがそろっているんだ」


「大好きなアニメだからな――マンガ版もそろっているから、今度結城も読むか?」





 そういう普通のマンガならば、僕も大歓迎だ。


 ……それとは別に、同人誌を納めた棚があり、そちらにはピンク色のオーラが漂っているところが少し気になるけれども……。





 一時間くらいかけて部屋を片付けて、ある程度すっきりした。





「どうせだから、結城の部屋も片付けるか」


 恐らく久朗は、僕の部屋の家探しをするつもりなのだろう。





「いいよ。久朗の部屋に比べたら、ずっと片付いているから」


 僕の部屋には、久朗に見られて困るようなものはない。


 なので安心して、部屋に招き入れた。





「ふむ……なんて片付けがいのない部屋だ。既にほとんど片付いているではないか」


 久朗ががっかりするが、きっちり片付いた部屋の方が、住んでいて気持ちいいと思う。





「おや、これは……ビーレジェンドリーの新商品か?」


 久朗が目を付けたのは、プロテインの袋だ。





「明日への種もみ味……ほう。結城も少し、チャレンジ精神が出てきたようだな」


「前に久朗にもらったプロテインが美味しかったので、いつもとは違う味に挑戦してみることにしたんだ」





 このプロテインには、世紀末を題材としたアニメのキャラクターが描かれている。


 ほかのプロテインとは見た目が違うので、すぐに分かったようだ。





「味は結構美味しかったよ。香ばしい風味がまるで麦のシリアルに牛乳を入れたものみたいで、絶品だった」


「それは私も興味があるな。今度試してもいいか?」





 久朗のお願いに、喜んで承諾する。


 このメーカーはほかにも色々な味を出しているので、それも試してみようかな? と思った。





「今度はカゼイン&ホエイの、いちごミルク味を飲んでみようと思っているんだ」


「夜寝る前に飲むタイプのプロテインだな……なんだ結城、そこまでして筋肉質になりたいのか?」





 久朗がちゃかす。





「少しでも筋肉をつけて、男らしい体になりたいからね」


「いや、結城は今のままが最高だと思うのだが――おい、いきなり木刀を構えるのはやめろ!」





 うう……早く筋肉をつけて、女と間違われる現状から卒業したい。





「結城、部屋の片づけありがとう。夕飯ができているわよ」


 文が僕たちに声をかけた。





 今日の夕食は、「鶏のソテー、チーズ乗せ」だ。


 鶏のもも肉を塩コショウでソテーして、醤油と日本酒、味の素で味付けする。


 そして火を止めた後にスライスチーズをのせて蓋をして、余熱でチーズがとろけたら完成という料理だ。


 添えられているレタスはあらかじめレンジで火を通すことで、ソースとの絡みがよくなり、より美味しくなる。





「「いただきます!」」


 僕たちが同時に声を出した。





 鶏肉のプリッとした食感と、とろけたチーズの風味が合わさって、相変わらず絶品だ。


 文は「困ったときの定番料理」だといっていたが、正直毎日でもいいくらい、お気に入りのメニュー。


 片付けで疲れた僕たちにとって、最高のごちそうだ。





「たくさん作ったから、遠慮なく食べてね」





 言葉に甘えて、どんどん箸を進める。


 しっかり食べて、早く女と間違われる状況から卒業しないと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る