第22話 みかんダイエット計画

 その日、登校した僕たちが目にしたのは……真っ白に燃え尽きている、みかんちゃんの姿であった。





「いったい、どうしたんだ?」


 久朗くろうが尋ねると……ゆるりとこちらに目を動かして、絞り出すような声でみかんが答えた。





「みかん、完全終了のお知らせにゃ……」


 明らかに元気がない。





「いったい何があったの!?」


 僕が心配になって、聞いてみると……?





「体重が、激増していたにゃ……」





 ……まあ、うん。


 いつもあれだけ食べていれば、ある意味当然の結果だと思う。





「みかんは食べすぎなんですよ。少し食べる量を控えたほうがよろしいのでは?」





 れんが厳しく指摘する。


 まあ、普通の人の何倍も食べていて、単に胸だけに脂肪が蓄積するというのは考え難く……今までがおかしかったのだろう。





「あはは。食べる量を調整するのも必要だが、俺と一緒に運動するのもいいと思うぜ」


 あきらがみかんに提案する。





「運動……激しい運動はいやにゃ。ハードな運動で、脱水症状を起こしたことがあるにゃ」


 みかんが震えながら、そう告げた。





「昔はともかく、今は運動中に水を飲ませないなんていう事はないわよ」


 教室に入ったまい先生が、会話に加わった。





「ところで晶さんは、どこで運動しているのかしら?」


 舞先生の問いに対して、晶が答える。





芙士ふじ駅のすぐ近くにある、サンディスポーツクラブという場所だぜ」


「ああ、あそこね……少し会費は高いけれど、悪くない選択だと思うわよ」





 サンディスポーツクラブは、元々は百貨店があった場所にできた施設である。


 会費はほかのスポーツクラブに比べてやや高めの設定ではあるが、施設が充実している点がメリットとして挙げられる。





「みかんも、一度行ってみるといいぜ。会員の俺と一緒ならば確か、千円で体験できたはずだからな」


 晶がそう提案した。





「それって、僕も一緒に行っていいかな?」





 僕が聞いてみる。


 スポーツクラブでの運動にも、前々から興味があったのだ。





「なんだ結城ゆうき、家のトレーニングだけでは物足りなくなったのか?」


 久朗が問いかける。





「家のトレーニングはそれはそれでいいけれども、マシンを使ったものもやってみたくって」


 僕はそれに答えた。





「学校が終わった後でも、行くことができるが……どうする?」


 晶の問いに、「ぜひ!」と僕は答えた。





「どうせならば久朗も一緒に来たらどうだ?」


「いや、やめておこう。私は家の訓練だけで十分だ」





 久朗はあまり、興味を示さないようだ。


 一緒に運動したかったのに……少し、残念。





 その日の勉強が終わり、放課後。


 スポーツクラブに行くことにしたのは、晶とみかん、そして僕の三人だった。


 漣は家の用事があり、同行できないことを詫びていたが……急に決まったことだし、そちらを優先してほしいと思う。





「ここがサンディスポーツクラブだぜ」


 建物の中に入ると……女性ものの水着などが売っている。





「にゃ、プールがあるのかにゃ!?」


 みかんが俄然、興味を示した。





「ふっふっふっ。プールだけではないぜ。なんとみかんが大好きな、大きなお風呂までついているのだ!」


 あえて、みかんには施設の概要を説明していなかったようだ。





 サンディスポーツクラブは、入ってすぐの所に受付があり、靴箱がその先の廊下にずらっと並んでいる。


 更に先には男女のロッカールームがあり、その奥にはパウダールーム、そしてプールと入浴施設(サウナ付き)が存在しているのだ。


 またラウンジの方に行くと、軽食などを食べられる簡素な設備があり、その奥にはマッサージチェアまで備え付けられている。





「プール、お風呂、マッサージチェア……極楽はここにあったのかにゃ~!!」


 みかんのやる気に、火が付いたようだ。





「まあ、まずは二階の機械で、体脂肪などをチェックしてもらおうぜ」


 晶がみかんを促して、ロッカールームに入っていった。


 学校から持ってきた運動着に着替えるようだ。





 僕もロッカールームに入って……うん? 


 なんだか周りの視線が、妙に気になる。


 顔を向けると、慌ててそらす人もいて……少し変だと思いながら、僕は服を脱いだ。





「お客様。女性用のロッカールームは、あちらになります」


 スタッフの人が僕に向かって、注意をする。





 ……僕が男だと説明するのに、結構な時間がかかってしまった。


 いつものこととはいえ、泣きたくなる……。





 二階に行くと、大量のマシン、ストレッチ用のコーナーなどが目に入ってきた。





「遅かったじゃないか、結城! いったい何があったんだ?」


 晶の方は、どうやら男性と間違われなかったようで……少しだけ、恨めしい。





「みゃ、測定した結果……かなり脂肪がたまっているとのことだったにゃ……」


 みかんは既に、測定を終了していたようだ。





 その日はお試しということで、少しだけマシンに触れることにした。


 家にはマシンは備え付けてないため、新鮮な感覚を受ける。


 また、みんなで運動するスタジオという施設もあるようで、かなり興味ありだ。





「みかんは入会するにゃ。お風呂とプールが入り放題、これはみのがせないにゃ」


「僕は……両親と相談してみようと思う。こういうところで運動するのも、悪くないと思うから」





 ただ、ロッカールームですらこんな状況だったので……おそらくお風呂に入ったりしたら、とんでもないことになってしまうだろうな……。


 自分の女顔が、本当に恨めしい。

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