第17話 めあ救出作戦 後編

 戦況は、圧倒的にこちらにとって不利な状況だった。





「ちっ、いくらアプレンティスだとしても、数が多すぎる!」


「相手が連動して、範囲回復が出来ないように動いているのが痛いですね」


「にゃむ、そろそろ弾切れが心配になってきたかも」





 アプレンティスと戦っているあきられん、みかんもかなり苦戦しているようだ。


 そしてこちらは……。





結城ゆうき、こちらもそろそろまずい。エネルギーや弾が尽きかけている」


 久朗くろうですら、余裕がなくなりつつある。





「『パンチング・グローブ』、なの~!!」





 めあは、相手の攻撃をまねた武器で攻撃しているようだ。


 その結果リーチの差は補えているものの、決定打に欠ける状況であるのは間違いない。


 初めて戦闘を経験していることを考慮すると、僕たちの中で一番頑張っていると思う。





「これで決まれ!!――奥義、『飛燕双連撃ひえんそうれんげきかい』!!」





 僕も、切り札を放つ。


 飛燕斬ひえんざんから双連牙そうれんが、更に五月雨さみだれへとつないだうえでとどめの飛燕斬・二式にしきにつなぐ、僕が今できる最大の攻撃だ。


 赤い機体に攻撃が突き刺さり、完全に沈黙させる。


 これでどうにか、めあや久朗の援護に行けそうだけれども……。





「っくぅっ、痛い!」





 強力な奥義は代償を必要とする。


 肉体の限界に近い動きを行ったため、体が悲鳴を上げている。


 またタクティカルフレーム自体も、それまでに受けていたダメージに加え、可動域を超える動作によって更なる負荷がかかり、短時間の強制冷却状態に移行してしまったようだ。


 戦闘中において、これは致命的な隙をさらすことになる。





「すまん結城、一機漏らした!」





 晶が慌てた口調で、こちらに叫ぶ。


 アプレンティスの一体が、拳を構えてこちらに向かってきているのが分かる。





「くそっ、動け!」





 無理やり体を動かし、何とか距離だけは稼ぐことができた。


 元々補助動力を必要としない、マスタースレーブシステムを採用しているからこそできることとはいえ……パワーアシストがない状態なので、さらなる負荷が体にかかる。





「えっ、これは……こちらに向かって高速で移動する反応あり!」


 漣がARゴーグルの状況を確認し、説明する。


 これ以上の増援だったら、完全にアウトだな……。





「にゃ、識別信号確認。……これはまい先生にゃ!」


 みかんが喜色の声を上げた。





 すぐ近くに車が現れ、中から舞先生が飛び出した。





「待たせたわね。……生徒たちを痛めつけた代償は、しっかり払ってもらうわよ!――『フェイズシフト』――!!」





 緑色のタクティカルフレームが、姿を現す。





「『ソルシエール』、見参!」


 舞先生が名乗りを上げた。





「まずは相手をまとめて、ひと塊にするわね――いでよ、『ライトニング・プリズン』!!」


 舞先生の魔法によって、大きな稲妻の檻が作られる。





「敵と味方を識別する術式を組み込んでいるから、みんな離脱して!」





 舞先生の言葉に従って、僕たちは相手から離れる。


 彼女の言葉通り、僕たちがその檻に触れても全く影響がない。


 逆に追いかけてきたアプレンティスは、派手に放電して煙を上げ、沈黙する。





「そして、収束!」


 檻が一気に狭まり、相手の動きを封じる。





「みかんちゃんはバズーカを、ほかの子たちも遠距離攻撃で援護して!」


「にゃ。範囲殲滅はまかせるにゃ!――『ガンパレード・ダンス』!」





 みかんの機体のバックパックに搭載されていたガトリング・ドローンを全機投入し、円の動きで相手を更に中心部に追い込む。


 そこにバズーカ砲、とどめに肩に取り付けられていたミサイルランチャーを乱射するという大技だ。





「結城は休んでいろ! 私たちがけりをつける!」


 久朗の言葉に甘えて、少しだけ休むことにする。


 晶は衝撃波で、漣は札を飛ばして必死に攻撃している中、少し気が引けるけれども……もはや体がいうことを聞かないほど、ボロボロの状態だ。





「いくの~!! 『ミラクル・トイボックス』~!!」





 めあの機体が、空高く手を掲げる。


 すると空中に巨大な箱が現れて、ミサイルが次々と降り注ぐ! 





 あれ? 彼女の機体にはそんな武装、搭載されていなかったはずなのに……これは一体? 


 爆発は妙にアニメチックになっているが、威力の方は十分以上のようだ。





 めあの攻撃の土煙が収まる。


 相手は完全に沈黙したようだ。





「あとは回復だけね――『ヒーリング・サークル』!」


 舞の機体が、僕たちを回復させる。





「協力します。『ヒーリング・サークル』」





 漣の機体も、同じ魔法を放つ。


 僕たちは見た目だけならば、ほぼ無傷の状態まで回復できた。





「ありがとうなの! また、助けられたの~!」


 舞先生の機体に、めあの機体が抱き着く。





「さすがに今回は、やばかったな……俺にも少し、死の影がよぎったぜ!」


 晶がそれに加わる。





「ふうっ……って、待って! まだ一体反応が残っている!」


 舞先生の声に、全員慌てて戦闘態勢をとる。





 木々の合間から手を叩きながら現れたのは、紫色の機体であった。





「素晴らしい。お前たちの戦闘能力、しっかり把握させてもらった」


 機体から、女性の声が聞こえる。





「なにものだ! 今回の黒幕ということは分かっているぞ!」


 久朗が声を荒げる。





「では、名乗らせてもらおう。――わが名は『久遠くおん』。ゾディアックが一員、ふたご座の『マリオネット・マスター』だ」


 芝居がかった口調で、こちらに返事をよこした。





「そしてこの機体は、『ツヴィリング』」


 ドイツ語で、ふたご座を意味する単語である。





「今回は戦うつもりはない――まあ、どうしてもというのならば、つきあってあげてもいいが……その場合地に伏せるのは、そちらの方だろう?」





 悔しいが、彼女の言葉通りだ。


 ダメージ自体は回復したものの、体の痛みが相当きつい。


 いくら舞先生がいるからといって、この状況で戦うのは無謀だと思う。





「あなたたち、何が目的なの!」


 舞先生が、強い口調で問いただす。





「今回はめあの力を確認したかっただけだ――想像以上で、愉悦が止まらないよ」


 おどけたような口調で、彼女はそれに答えた。





「めあ、教団きょうだんには行かないの!」


 どうやらめあを、無理やり拉致しようとしていたというのが今回の真相のようだ。





「今はそれでいい。――いずれ、どちらの方が正しかったのかわかるはずだ」


 紫色の機体が一礼し、優雅に去っていく。





 教団、そしてゾディアック……めあを狙う敵として、僕たちの心に強く刻み込まれた出来事であった。

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