第16話 めあ救出作戦 前編

「もうすぐ犯人たちのいるところにたどり着くぞ、準備はいいか!」


 運転していた永瀬ながせ先生が、僕たちに問いかけた。





「僕たちはいつでも大丈夫です!」


 それに応える。





 めあが乗っていたバスは、山の上にある公園で止まったようだ。


 どうやらそこで、犯人たちとやり取りをしているらしい。





「まずは人質を救出するグループと、犯人たちの注意をひくグループに分かれるぞ」


 久朗くろうが作戦を確認した。





「俺とれん、みかんが人質を救出するグループだな」


 あきらが最終確認を行う。





「犯人たちの注意をひくのは、結城ゆうきと久朗だけで大丈夫ですか?」


 漣が少しだけ、不安そうな顔になる。





「にゃ、チームワークという点でも、妥当な判断だと思う」


 みかんはこの割り当てに、納得しているようだ。





「それでは、作戦開始だ!」


 久朗の言葉に、全員がうなづいた。





 ニュースのアプリや舞先生からの情報によると、犯人グループは特に何も要求していないようだ。


 ますます、めあだけを狙った犯行という可能性が高まる。


 また上空からの撮影を見た限りでは、めあのタクティカルフレーム『イリュジオン』と犯人グループの機体の映像しかなく、人質は乗っていたバスにそのまま囚われているようだ。





「では行くぞ、結城――『フェイズシフト』――!!」


 久朗がタクティカルフレームをまとう。


 僕も同時に行って、犯人たちがいる広場に飛び出した。





「めあ、助けに来た!」


 久朗が声をかける。





 犯人たちは――数が多い!


 ぱっと見でも10体以上の機体で……これを僕たち5人だけで、相手するのか?





「結城、久朗! ありがとうなの!」


 めあがこちらに声をかけた。


 どうやらまだ、ひどいことはされていないようだ。





「役者がそろった――ツヴァイ、ドライ、戦闘モードに移行」


 犯人たちの中でも目立つ赤い機体が、青い機体、黄色い機体に声をかけた。





「行くぞ、結城……のあっ!!」


 犯人たちのところに向かおうとした久朗の『レイヴン』が、いきなり派手にすっ転んだ! 





「なにやっているんだよ、久朗!」


 僕は叫び声をあげる。





「いや、この桜の花びらが滑ってな……果たして桜の花びらとバナナの皮、いったいどちらの方が滑りやすいのだろうか」


 久朗が立ち上がろうとして、更にこける。


 舞い上がる桜の花びらが、かっこ悪さに拍車をかけている。





「すまん結城、手を取って、立ち上がるのを助けてくれないか?」


「自分で立ち上がれよ! 見ろよ、犯人たちもあまりの展開に、固まってしまっているだろう!?」





「……久朗、かっこわるいの……」


 めあも、あきれてしまっているようだ。





 戦闘が起きようとしていたにもかかわらず、妙に間の抜けた空気が流れる。


 犯人たちもあまりもの間抜けさに、あきれてものも言えない様子だ。





 その時、バスが発進する音がした。





「よっしゃ! 人質の解放は終わったぜ!」


 晶がこちらに声をかける。





「見事な陽動でした」


 漣も感心したように、こちらに呼び掛けた。





「みゃ。バスを見張っていた奴ら、レベル低すぎ。あっさり制圧できた」





 人質の囚われていたバスを三人で制圧し、永瀬先生に運転してもらってこの場を離れるというのが作戦の概要であった。


 そのためわざと久朗は、道化のふりをしていたのだ。





「そうだったの。久朗、ごめんなの」


 めあが事態に気づいたようだ。


 すぐに状況を把握できたようで、基本的に頭がいいのだと思う。





「……ターゲットの脅威レベル上方修正。もう油断せずに、戦闘能力の測定に移行する」


 赤い機体が気を取り直したようで、武器の刀を構えてこちらに向かってきた。





「犯人たちの構成は、黒い『アプレンティス』が12、赤と青、黄色の機体がそれぞれ1です!」


 漣が端的に相手の数を告げる。





「俺たちはアプレンティスを相手にする。二人はきついだろうが、色付きの奴らと戦ってくれ!」


 晶が漣、みかんとともに、アプレンティスたちの方に向かった。





「一対一の状況に持ち込むぞ――めあ、何とか耐え抜いてくれ!」


 久朗は青い機体の方に向かったようだ。





「赤い機体は、僕が相手をする! めあは、黄色い機体の攻撃を耐えることだけに専念して!」





 僕もダークヒーローと戦うのは初めてだけれども、そもそもめあは戦うこと自体が初めてのはず。


 そんな状況でいきなり対人戦……あまりにも状況が悪い。





「分かったの! 何とかがんばるの!」


 めあが、黄色い機体の前に立った。





「まずは……『飛燕斬ひえんざん』!!」


 僕が赤い機体に、牽制の一撃を放つ。





 飛燕斬とは、斬撃を相手に飛ばす必殺技だ。


 基本的には牽制程度の威力しかないものの、連続攻撃が効く上にリーチが非常に長いため、やや離れている今の状況で使用するのに向いた技である。





「回避――失敗。ダメージは軽微」





 掠るような形ではあるものの、赤い機体にヒットする。


 先制攻撃は、僕の方が成功したようだ。


 相手の足が少し鈍る。





「反撃――『双連牙そうれんが』」





 赤い機体が、こちらに向けて技を放つ。


 双連牙という名前の通り、刀を使った連続攻撃だ。


 僕は手に持った刀でそれを受け流す。





「喰らえ、『ビーク・スマッシャー』!」





 久朗も青い機体と戦っている。


 腕部に取り付けられた、くちばしのような器具が飛んでいき、相手に突き刺さる。


 ワイヤーが繋がれており、回収も可能のようだ。





「『ピコピコハンマー』、なの!」





 めあの攻撃は……一瞬見ただけだけれども、大型のピコピコハンマーを振り回している。


 おもちゃみたいな攻撃であるが、当たったときに相手が大きく硬直していることから、何かしらの力が働いているのだと思う。





「『マシンガン・ジャブ』……からの、『ソニック・ブロー』!!」


 晶の連続攻撃が、アプレンティスの一体を破壊する。





「って、殺しちゃったの!?」


「いや、どうやらこいつら、人間ではないようだ!」





 折れた機体の間から見えるのは、デッサン人形のようなものだ。





「これって、ダークヒーローの能力で操られた人形なのか!」


 久朗がちらっとそちらを見て、驚きの声を上げる。





「隙あり――『ダブル・エッジ』」


 青い機体の両手に持たれた刃が、久朗に迫る!





「にゃむ、援護する!」


 みかんの機体から、何かが飛び出してきた。





 飛び出したのは……戦闘用のドローンだ。





「いけ~! 『ガトリング・ドローン』~!!」





 ドローンが青い機体の側面に回り、弾丸をばらまく。


 たまらず吹き飛ばされ、体勢を崩す青い機体。





「とどめだ、『プログレッシブ・エッジ』!」





 久朗のナイフが青い機体に突き刺さり、そのまま切り裂く! 


 心臓のあたりから大きく左肩に向けて、亀裂が入った。


 人間であれば明らかに、致命傷のはずだが……。





「くそ、まだ動けるのか!」


「戦闘能力低下。機体の破棄前提で、作戦続行」





 切り裂かれた部分から見えるのは、マネキンの光沢。





「まさに、操り人形ってわけだ!」





 晶の声に、僕たちも意識を切り替える。


 色付きの機体に乗っている奴らも人間でないのであれば、遠慮する必要はない! 





「『ターン・アンデッド』……ポルターガイスト系の能力ではないようです」


 漣が霊体を浄化させる術を使ったが、効果はないようだ。





「少し、ピンチなの」





 めあの機体が押されている。


 黄色い機体の腕が、まるでマジックハンドのように伸びて攻撃してくるのだ。


 僕たちでもこんな攻撃をする相手だったら、苦戦するかも。





「ちっ、こっちも少しまずい!」





 晶の方も、苦戦している。


 相手が弱いアプレンティスであっても、4倍の数を相手にしているというのはそれだけで、圧倒的に不利な状況なのだ。





「こちらにまとまってください! 治療します!」





 漣が声をかけるが、相手もそうはさせじと集まるのを妨害してくる。





「『双連牙』、からの『五月雨さみだれ』!」





 僕は連続攻撃で、赤い機体を吹き飛ばそうとする。


 何とかめあに加勢しないと……。





「結城、危ない!」





 久朗の叫び声が聞こえた。


 赤い機体が、ダメージを無視してこちらに迫ってくる! 





「『双連牙、二式にしき』」





 勢いを増した二連撃が、僕の機体を襲った。


 ガリガリと削られる装甲。





「……っつう……アプレンティスだったら、ここで終わっていたよ!」





 装甲の半分くらいを削られたという感覚はあるものの、まだ戦闘は可能だ。


 この『オウス』は結構しっかりした装甲になっているようで、正直助かったと思う。





 とはいえ、ダメージは大きい。


 漣が慌てて、単体の回復魔法『ヒーリング』をこちらに飛ばす。


 彼女もまた、アプレンティスからの攻撃をよけながらという状況で……数の暴力という言葉が頭をよぎる。


 このまま押し切られてしまうのだろうか……? 

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