第45話 新企画を思いついた

 九門宅、

 コタツに入っている九門。手には、スマホ。

 コタツに入っているサクラ。手には、しろくまアイス。


「大地君、なんか怖い顔しとるで」

「ん?」

「会社のイヤな奴と何かあったん?」


 九門、入っていたらしい眉間のシワを消し、ニコリ。

「何もないよ。大丈夫」


「ふーん」


 九門のスマホに表示されているのは、鬼面ライターのtwitter。


 このアカウントのチカラを使って記事のアクセス数を伸ばす方法は、思った以上の成果を出した。その後、九門の記事は190万PVにまで数字を伸ばした。改めて自分が持つ影響力を体感することとなった。


 でも、これを毎回やるわけにはいかない。

 あまりにも不自然だ。

 

 九門の記事を鬼面ライターが毎度拡散していたら、何かを疑われるのは必至。九門=鬼面ライターだということが、そう「異世界バスケ」の作者だということがバレてしまうかもしれない。


 それは面倒だ、避けたい。

 何か考えなきゃダメだ。

 新しいやり方が必要だ。


 また九門の眉間にシワが発生した。


 サクラは、そのシワが気になった。

「……。」


 九門、コタツから出てソファに寝転がる。頭の後ろで手を組み、天井を見つめながら、自分が持つ武器をもう一度考える。


 膨大なアクセスを持つブログ「雲の筆」がある。

 多くのフォロワーがいる「鬼面ライター」のSNSアカウントがある。

 ブログの中には百万人以上に読まれる「異世界バスケ」の連載がある。


 だが、自分の記事を自分のSNSで広める方法は、そうそういつも使えるものではない。


 再びシワを発生させる九門。

「………。」


「また怖い顔になっとるで」


「……!?」


 顔の変化を指摘したサクラ、ニコリ。

「今度焼肉でも行く?」


「焼肉?」


 そういや、いつかもあったな。

 ヘンな空気を変えるために「焼肉行く?」のやつって。


 サクラは続けた。

「こないだちょっと調べたら、流行っとるお店が近くにあったんよ。人気過ぎて予約せんと入れんらしいけど」


 九門、むくっと起き上がる。

「へえ~、そんなに人気なら行ってみたいな。よっぽど美味いんだろうな」

「テレビで芸能人が勧めとったらしいで。それで人気が出たんじゃって」


 九門、ソファからコタツに戻る。そして、手を伸ばしてサクラのしろくまアイスを一口食べる。

「そういう話って多いよなあ。店長の蕎麦屋も誰かに宣伝されたらもっと繁盛すんのにな」


「大地君が宣伝してあげりゃええが」

「え?」

「大地君も芸能人みたいなもんじゃろ」

「ははは、今度何か書いてあげようか…」


 ん……!?


 九門の動きが止まる。しろくまを乗せたスプーンを口にくわえたまま。


 待てよ。

 何かを流行らせることはできるんだよな、鬼面ライターなら。

 今日、ウチのサイトの記事をあれだけ広めることができたんだから。

 間違いなくパワーはある。

 逆だ、逆を考えるんだ。

 記事じゃなくて、ネタのほうが流行ればどうなる?


 自分は何かを流行らせることができる。

 流行のネタを作れるってことだ。

 で、それを流行らせるのは自分なんだから、つまり自分は「これから何が流行るか、未来に起こるブームを先に知ることができる」とも言えるんじゃないか?


 手持ちの武器の中で一番強いのは間違いなくラノベだ。

 あれを上手く流行の創出に使って。

 そして、そこに常々考えていた、編集者の取材力や企画力をドッキングさせて…。


 これ、行けるんじゃないか? 


「大地君、スプーン返して」


「……?」

「アタシのしろくまが溶けるが」

「あ、悪りい」


「何かいいこと思いついたんじゃろ」

「え?」

「いま、ニヤッとしたで、大地君」

「ははは、焼肉が楽しみだからかな」


「ふーん」


 九門、立ち上がる。

「サクラ、ありがとな」


「ん?」


 九門はノートPCを取り出し、PCデスクに腰掛けた。

「今からちょっと仕事する。ゴメン」


 カタカタカタカタカタカタ……。


 九門、ブログ管理画面を開き、キーボードを一気に叩く。猛烈なスピードで書いているのは「『異世界バスケ』のスピンオフを始める」という宣言の記事だった。


 そのスピンオフは、主人公のもとの姿、つまり、小学生になってタイムスリップする前の26歳の大人だった時のストーリーだという。


 九門はそのスピンオフを「異世界バスケ ZERO」と名付けた。どこかの大作映画で聞いたようなフレーズだが、分かりやすけりゃそれでいい。


 こっちは略したら「イセゼロ」かな。

 あ、バスケの要素がどっか行っちゃった、まあいいや。


 九門は、またニヤッとした。

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