第39話 仕事をもらった
新部署、2日目。
九門は課長に呼ばれた。
小さめのミーティングルーム、ふんぞり返って座る課長。
「今日からしばらくWEBニュースを担当してもらうことにした」
「WEBニュース……」
「書いたことある?」
「はい、名古屋の編集部で何本か」
本当は100本以上書いているが、一旦小さめに返事。
「あー、そういうのは経験になんないから」
「は、はい…」
課長、さらに大股開きに。
「地方の奴らって、雑誌と同じアタマで書いちゃうじゃん。あれ意味ねえのよ。WEBにはWEBの手法があるからよ。SEOとか、知ってる?」
「はい、少しは…」
「まあいいや、とりあえず何本か書いてみてくれよ。俺が読んでやるから」
「分かりました。何本書けばいいですか?」
「あ? どうせ何本も書けやしねえだろ、一本書いたら持ってこい」
そう言って、課長は資料的なものをバラバラっと机に出した。この中からいいネタを探して書け、ということだろう。
「んじゃあ、頼むぞ」
「はい……」
とりあえず仕事がもらえた。
やることがなかった昨日とは違う。
しかしあの人、なんであんな喋り方なんだ?
その後、九門はネタの候補を絞り、構成を考えた。資料の情報だけじゃ面白味に欠けると考え、広報に電話をした。
「はい、はい、そうです。ありがとうございます。あ、その写真もらえますか?」
電話でも礼を言うときはお辞儀をする九門。昔からのクセだ。
電話を切ると、隣の課長が声をかけてきた。
「何してんの、お前?」
「え…? いや、先方に追加の情報や素材をもらおうと思って」
「は?」
「……。」
課長、「は?」の顔のまま、
「なんで?」
「あ、そうしたほうが、いい記事になると思ったんで」
「はあ……、しかも電話かよ」
「あの、何かマズかったですか……」
「いや、いいよ。とりあえず一本書いてくれ」
「分かりました」
カタカタカタカタカタカタ……。
キーボードを叩く九門。構成はアタマの中にあるので、一気に原稿が進んでいく。
途中、追加でもらった情報と写真を入れ、さらに原稿を進める。
課長、ニヤニヤ。
「打つのは速えんだな、地方の奴でも」
「……!?」
なんなんだろう、この人。
約1時間半後、九門は原稿を仕上げ、課長にメールで送った。そしてそれを口頭で告げた。
「いまメールしましたので、確認お願いします」
「ああ、わかった。読んだら呼ぶから」
「はい」
ここから待ち時間。九門は、例の入門書を取り出し、読み始めた。同時に、熊田さんにメール。
「htmlの勉強をしたいので、自由に弄っていいページとか用意してもらえませんか?」
熊田さんからは、すぐに返事が来た。
「こちらどうぞ、管理画面の本アップボタンを押さなければ公開されないので、好きなだけ弄っていいですよ」
「ありがとうございます!」
ビックリマーク付きの返事をして、九門はさっそくhtmlソースを書き始めた。
ふーん、こうやればリンクになるのか。
なるほど、これで色を変えるのか。
はいはい、カラーコードは16進数になっているわけね。
で全部ゼロだとクロか。
全部f(16)にするとシロになるのは、つまり光の三原色だからだな。
ああ、これがディレクトリってやつか。
デスクトップにフォルダを作ってファイルを整理する時と似たようなもんだな。
そういやフォルダの上のところって、階層みたいな表示なってるもんな。
よし、いままで見てきたものといま知ったものが繋がった。
カラーパレットから色を選べば、カラーコードはすぐに出せる。コードの数字の意味など知らなくてもいいのかもしれないが、九門はこういうことを「知る」のが好きだった。どんどんハマっていく。
昨日は全然分からなかったけど、面白いじゃないか。
せっかく時間があることだし、いまのうちに勉強しておこう。
が「時間がある」にもほどがあった。2時間たっても3時間たっても課長から声はかからない。時折こちらから声をかけてみるが「後で呼ぶって言っただろ」で終わり。
なに、この放置プレイ。
結局、その日は課長から声はかからなかった。課長は先に帰った。一方、九門の勉強は随分進んだ。
2日目が終わった。
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