第30話 自分の両親に告げた

 プルルルルル……。


 九門、実家へ1年ぶり(くらいだと思う)のTEL。


 どっちかといえば母親に出てほしい。いや、親父がイヤなわけではないが、なんとなく照れくさい。あ、だったらケータイにかければよかった、と思いながら、呼び出し音を聴く。


「はい、九門です~」


 母親の声だった。


 セーフ。


 九門、ホッとしつつ

「あー、俺だけど」。


「あら? 大地?」


 子供の頃は「大ちゃん」と呼ばれていたが、高校くらいから「大地」になった。というか、九門が「大ちゃんと呼ぶのをやめろ」と指示したのだが。


「どうしたの?」


「あー、ちょっと話があって」

「うん」


「母さん、あのさ」

「うん」


「オレ……、結婚するよ」


「あら……」


「明日相手を連れて行くよ。家行っていい?」


 そして、明らかに笑顔だと分かる声で母から返答。

「はい、どうぞ~。じゃあお寿司でも買っておこうかしらねえ。泊まっていくわよね? 大地の部屋に布団2枚敷けるかしら」


 なんとも予想通りの反応だ。

 ていうか、また寿司かよ。

 いや、いいんだけど、寿司好きだし。


 実家に行く時間を告げ、電話を切った。


「あああああぁぁ~~」

 九門は、しっかり声を出して伸びをした。なんともいえない「ひと仕事終えた」感。


 今晩新幹線で名古屋に戻って、明日は実家。

 ちょっと忙しい。

 でも年末年始ってそんなもの。


 その後、九門は焼きそばを頬張りつつ、自宅から持ってきたノートPCを開いた。


 2日ぶりのことだったが、なんとも久々にブログ管理画面を開く気がする。昨日の1日、そして先ほどの電話、なにかと色々濃すぎた。


 「異世界バスケ」に届いたコメントを眺め、ニヤニヤしたり、少々イラッとしたりしていたそのとき、


「あ!」

 ひとつ思いだし、Gmailを立ち上げる。


 そうだった、あのプロ契約の話をちょっと聞いてみよう。


 カタカタカタカタ……。

 九門は管理会社にメールを送った。


 連絡ありがとうございます。

 プロ契約の件、大変興味があります。

 ぜひ一度話を聞かせていただきたいです。

 よろしくお願いします。


 もうちょっと丁寧に書こうとも思ったが、お金の話にガッついていると思われると恥ずかしい、という謎のプライドが働き、少々ぶっきらぼうな返事にしておいた。


 でも、今日は12月30日。

 返事は年明けちょっと経ってからだろうな。


 九門はノートPCを閉じた。


「あああああああぁぁぁ~~~」

 再びの、伸び。


 これにて、九門を憂鬱にしていた「やること」が一通り片付いたことになる。明日、サクラを実家に連れて行くというイベントが残っているが、とはいえ行く場所は自分の実家だ。今回ほどエキサイティングな行事ではない。


 この日の、ちょっと早めの晩御飯は、すき焼きだった。ジャガイモが入っているのを見て「こういうのは家の個性が出るもんだな」と思いながら、九門は箸を進めた。ジャガイモは美味かった。「今度からウチでやる時は是非入れよう」と思った。


 その後、お土産の「吉備団子」を片手に、九門とサクラは名古屋行きの新幹線に乗るべく、岡山駅へ。そういえば、桃太郎像の前で写真を撮るのを忘れたが、それはまた今度でいい。


「大地くん、遠くまでありがとうな。良いお年を」

「またおいでぇよ~」


「はい、良いお年を」

 改札まで見送りに来てくれたサクラの両親に挨拶し、ホームへ。


 ふたりになると、九門はすぐにサクラに告げた。

「明日、ウチの実家に行くよ」


「え?」


「こういうのは年内に全部やっちゃおう」

「そうじゃな、うん!」


 岡山にいたのはわずか1日半、だが、名古屋駅に着いた瞬間、ドッとこみ上げる「久々に帰ってきた感」。得体のしれぬノスタルジー。


「これって何なんだろうな」

「毎回なるんよね、これ」


 明日は九門の実家。


 九門の「やることリスト」が、一旦の終わりを迎える。

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