第31話 自分の実家に来た

「クルマ少ないな~」


 助手席のサクラが外を見ながらつぶやく。


「ま、大晦日だからな」

「みんな用事ないんじゃろか」


 岡山のイベントから一夜明け、大晦日。ふたりは、九門のクルマで九門実家へ向かっていた。いまの九門の自宅からは、約1.5時間、ちょっとしたドライブである。


「アタシ、何て言って挨拶したらええの?」

「普通に、初めましてよろしくお願いします、でいいだろ」

「あぁ~、緊張するわぁ」

「ウチはそういう家じゃないよ」


 といいつつ「まあ、サクラの家ほどふんわりしてないかも」とも思った九門。


 辿り着いた九門の実家は、二階建ての一軒家。家屋のサイズは、サクラの実家より少し小さい程度だが、何より違うのは庭の広さ。

 

「名古屋じゃあんなデカイ庭の家はなかなかないよ」

「ふーん、でも大地くんのお家の方がキレイじゃな」

「そうか? 同じようなもんだろ」


 ピンポーン。


 呼び鈴を鳴らすと、出てきたのは九門の母親だった。

「おかえり~。寒いなかご苦労さま~」


 サクラの母と同じくショートカット、ただし直毛。因みに、体型的には九門の母の方がやや細身だろうか。


 久々の我が家に挨拶をする九門。

「ただいま」


 そして、サクラ。

「あ、あの、初めまして…」


 九門母、ニコリ。

「ふふふ、挨拶はあとでいいわよ。寒いから上がってちょうだい」


「うん」

 九門は靴を脱いだ。


 サクラは、いまのフライングが恥ずかしかったのか、ちょっと顔が赤くなっていた。


 ふたりは母親の案内で居間へ。


 真ん中には大きなコタツ。そこにミカンは置いていないが、おおよそサクラの実家の居間とよく似た風景である。


 九門母は、二階に向かって声をかける。

「お父さ~ん、大地が来たわよ~」


 ドッドッドッドッ……。階段を降りてくる音。


 父親はやはり後から登場。こういうのは、どこの家も同じなのだろうか。


 九門父は、九門と同じくらいの身長。子供のころからよく父親に似ているといわれた。だからだろうか、サクラは九門父を見ると、笑顔になった。


 九門父もつられて笑顔に。そして、サクラに「いらっしゃい」と声をかけると、コタツへ。


 そこに九門母がお茶を出す。

「はいはい、寒いからふたりともコタツに入って、ほら」


 九門、サクラ、並んでコタツに入る。向かいに、九門の両親が並ぶ。つまり、サクラの実家の時と同じ陣形だ。


 九門が紹介する。

「こちらがサクラさん」


「初めまして、よろしくお願いします」


 1文字と違わず、九門の提案どおりに挨拶をする。


「大地の父です、はじめまして」

「母です、今日はありがとうね」


 九門はすぐさま伝えた。

「この人と結婚することにしました。よろしくお願いします」


 なぜか敬語になってしまった。普段言い慣れないことを言うとこうなる。いわゆる「台詞」になってしまったのだ。


 九門父は、少しだけ姿勢を正し、穏やかな顔でサクラに告げた。

「まあ、こんな息子ですが、人を不幸にするような男じゃないと思うんで。よろしくお願いします、サクラさん」


「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」


―― 人を不幸にするような男じゃない


「……。」

 なんだか褒められたような。ちょっとくすぐったかった。


 九門母、立ち上がる。

 「サクラさん、お腹空いたでしょ? ご飯にするわね」


「は、はい、ありがとうございます」

「そうだわ、さっそく手伝ってもらおうかしら?」


「……!?」

「お寿司だから、そんなにやることないけどね」


 サクラ、笑顔に。

「ハイ、手伝います!」


 九門、眉間にシワ。

「おいおい、もう手伝わせるのかよ」


「いいのよ、家族になるんだから、ねえ?」


 サクラ、再び笑顔で返事。

「ハイ!」


 ふたりの会話の様子を見て、九門父は微笑んでいた。笑顔の感じは、九門にそっくりだった。それを見て、またサクラは笑った。


 キッチンに向ったふたり、

 そして、コタツに残ったふたり。


 九門父、つぶやく。

「娘ができるのが、嬉しいんだろ、あれ」


「あ~、そうかあ、なるほど……」


 九門の家は、両親と九門の3人家族。ずっと男2、女1の比率で過ごしてきた。食事の時間になると、男ふたりが「メシはまだか」と文句をたれるのが常だった。


 そうか、女性が新たに家族になることが、母さんには嬉しいのかもな。


 九門は笑った。


 やはり九門父の笑い方とそっくりだった。

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