第06話 1か月が経った

 カタカタカタカタ……。


 今日も九門の部屋にはキーボードの音が鳴り響く。


 九門がブログを始めて1か月、更新記事数は42本になっていた。つまり、1日1本以上のペースで書いているということになる。


 そのうち、ライトノベル「異世界バスケ」は11本。つまり11話だ。主人公は既に小学生に戻っており、ダンクシュートが出来ることをみんなに言おうか言うまいか迷っているところ。


 主人公は小学生だが頭脳は26歳の大人のため、出来た瞬間に、いわゆる小学生のような大騒ぎをしたりはしない。でも、早く自慢したくてウズウズしているのも事実。そんな心の動きを書くのが九門は楽しかった。


 本当にこうなったら、やっぱり見せびらかしたいよな。

 てことは、多分これ、読者はちょっとイライラするか。

 早くダンクしろよ、だよな。

 いや、そのイライラがいいんだよな。あ、それはラノベっぽくないか。

 聞いた話じゃサクサク進むのがラノベのスタイルで、いわゆる「悟空ーーー! 早く来てくれーーー!!」ってやつは要らないんだとか。


 色々と考えながら、たまにニヤッと笑った。


 カタカタカタカタ……。


 キーボードを叩く手は止まらなかった。


 だが、読者のリアクションを思い浮かべてニヤニヤしつつ、しかしすべてはまだ妄想の域を脱していない。「異世界バスケ」を読んでいるユーザーは1日あたり約15人しかいないのだから。


 読者全員が狙い通りイライラしてくれたとしても、15人。わずか、15人。九門は日々ストーリーを更新するも、読者は全然増えなかった。1か月経っても、1日15人である。やはり小説投稿サイトにすべきだったか、と思いつつ、それでもたまに書き込まれるコメントは九門の心の支えだった。


「この話、面白い!」

「友達にも勧めます!」


 1話更新あたり1つか2つしかつかないものの、コメントがもらえるのは嬉しかった。そしてすべてのコメントが好意的な内容であることも、九門に勇気を与えていた。


 さらに1か月が過ぎた。


 九門の更新ペースは落ちない。「異世界バスケ」は20話を超えた。これといって何もない日でも、なんとかトピックを練りだして日記を書いた。毎日更新を続けた。


 ちょっと読者は増えた。現在、1日あたりの読者数は約50といったところ。


 サクラは、少し驚いていた。

「飽きっぽい、面倒くさがりな人なのに……」


 九門がブログにのめり込み、自分とのコミュニケーションが減っていても、「きっとすぐに飽きる」と、サクラはさして気にしていなかった。時折ムカッとくることはあっても、翌日には忘れて(あげて)いた。


 カタカタカタカタ……。


 九門はいつもキーボードを叩いている。飽きる気配はない。



 さらに1か月が過ぎた。


 カタカタカタカタ……。


 今日も九門はキーボードを叩いている。いまだ無風。毎日50人が観ているだけのちっぽけなブログ。


 しかし九門は、まだ飽きていなかった。

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