第04話 ストーリーの枠が固まった

 「異世界バスケ 第1話」


 ブログを立ち上げて13日目、

 九門はライトノベルの執筆を開始した。あまりにもあっさりと決まったタイトルだった。


 九門はバスケットボールが好きだった。小学2年生から始めたので、もうキャリアは20年近い(といいつつ、実はずっと補欠だったのだが)。合コンに行くと「3度のメシよりバスケが好き。でも女の子はもっと好き」が自己紹介の決まり文句だった(といいつつ、その挨拶がウケたことは一度もないが)。


 というわけで、小説を書くと決めた1秒後に、テーマはバスケと決定していたのだ。それ以外に考えられない。


 でも、どストレートなバスケもので人気が出るとはちょっと思えないよな。

 なにか、あとワンパンチのエッセンスが必要だ。

 足すんだ、バスケに何かを加えるんだ。


 職業が編集者なだけに、このへんのカンはすぐに働く。自身の案に「ボツ」を出し、すかさず「あとワンパンチ」を自分に要求する。


 その答えもまたすぐに出た。


 「異世界」だ。

 異世界しかない、いまのラノベは、なにはともあれ異世界だ。

 ここは乗っかる。恥も外聞もない。

 一旦、流行りに乗っておこう。

 タイトルはシンプルに「異世界バスケ」でいい。

 略して「イセバス」、あ、ちょっといい感じ。


 骨組みから構築するのが、いかにも編集者・九門らしい。ストーリーは何も思いついていないのに、先にタイトル、さらには略称までが決まってしまう。肝心のストーリーは何も思いついていないのに。


 でも、最初に主人公が死ぬのはちょっとイヤだな。


 九門は少しだけ流行に抵抗した。主人公は死なない。違う形で転生(死んでいないのにそう表現していいのか分からないが)させた。


 物語の概要はこうだ。


・主人公は、元バスケ部の26歳の青年

・彼はある日、UFOにさらわれる

・そこでタイムマシーンと改造手術の合わせ技を喰らう

・気が付くとそこは小学校の体育館

・自分の体も小学5年生になっている

・ただし頭脳は26歳の時のまま。記憶もすべてある

・身長は145cm

・そして彼は、ダンクシュートができてしまう(ミニバスのゴールで)


 この主人公のモデルは、九門自身だった。


 最後まで補欠としてバスケ部のキャリアを終え、大人になった26歳のサラリーマン。ずっと劣等感を持ちながら生きてきた。そんな彼が特別なチカラを手に入れて子供に戻り、もう一度バスケットボールに挑むという話。しかも26歳の頭脳を持ったまま。


 これは、九門が中学生時(いわゆる「中2病」の時代)に実際に妄想していたこと、そのままだった。当時の九門は、寝る前に布団の中で「もし、いま改造手術とか受けて、ダンクができるようになったら……」と妄想しては、興奮で眠れなくなることが何度もあった。


 その妄想に「現代の最先端のバスケ知識を持ったままタイムスリップ」というプラスアルファ要素を加え、ストーリーを組み立てた。


 って考えると「強くてニューゲーム」の要素も入っているな。


 ふとそう思い、タイトルを「強くてニューバスケ」にしようかとも考えたが、「ツヨバス」という略称がしっくりこず、自身の脳内会議の結果、やっぱり「イセバス」になった。


 ん? これ、そもそも異世界か?


 ふとそう思い、やっぱり「強くてニューバスケ」にしようかともう一度考えたが「ツヨバス」という略称がやっぱりしっくりこず、第2回脳内会議の結果、やっぱり「イセバス」になった。そして、5ちゃんねるに「異世界バスケの舞台が異世界じゃない件」というスレが立つという妄想をして、ニヤッと笑った。


 いわゆる「ノリノリ」の状態だった。ただただ楽しいだけだった。


 もちろん、自分がとんでもないモノを生み出そうとしていることには、まったく気づいていなかった。

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