第24話 宮殿

けものキャッスルはパークセントラルに開いた巨大なクレーターの中央にそびえていた。


地面は依然固い結晶に覆われていたが、中央に近づくにつれ赤黒い色から虹色に変わっていっている。


アライさん「なんだか、とってもキレイなのだ」


オイナリサマ「まるで宝石です」


ミミ「悪の居城に似つかわしくないですね」


意外にも途中、セルリアンの襲撃を受けることなくクレーターのふちにたどり着いた。


フェネック「周辺にセルリアンは見つからないよ」


ミミ「草原エリアの制御場を機能停止させるほど徹底しておきながら、どういうつもりなのですかね、もっと守りを固めているかと思ったですよ」


サーバル「いないに越したことはないよー」


フェネック「ワナかもしれないよ」


アライさん「だとしても行くしかないのだ」


一行はけものキャッスルに近づいた。


アライさんが宮殿の威容を確認できる距離まで近づいたところで、めくれあがった地面の結晶の影に一同は隠れた。


ミミ「城壁もないとは…一体何の目的で作られた宮殿なのか。それともこのクレーターが天然の要害のつもりなのですかね」


オイナリサマ「これは、パークのシンボルとして建てられたものです」


フェネック「悪趣味極まりないねー」


オイナリサマ「いえ…以前はもっとこう…周囲には宿や遊園地もあって…一体どうしてこの建物だけが残っているのか全くわかりません」


アライさん「フェネックともよく一緒に遊んだものなのだ。アライさんはアスレチックが大好きなのだ」


フェネック「?そーなんだー」


ミミ「とりあえず、助手が様子を見てくるですよ」


アムトラ「気をつけてね」


ミミ「何を気をつけたらいいのか、わかりかねるですが、気持ちはうれしいですよ」


ミミは飛ぶことなくゆっくりとけものキャッスルに近づいた。


フェネックは双眼鏡でその姿を追う。


そして、ミミは宮殿の門扉のわきに立った。


ミミ「(でかいですね。助手のわかる範囲では中から何の気配も感じ取れないのです)」


ミミは双眼鏡をのぞくフェネックに手指を使って自分の頭部に「耳」を描いた。


フェネックは自分を指さした。ミミは大きくうなづく。


フェネック「助手が呼んでるから、ちょっと行ってくるよ」


アライさん「気をつけるのだ、フェネック」


フェネック「どもども、ありがとー」


フェネックは周囲に集中しながらミミのもとへと向かった。


ミミ「来たですね。フェネック、中の様子はわかるですか?」


フェネック「うーん、静かなもんだね。ん?でも…何かいるね…いや、何だろう。いるというよりあるといったほうがいいのかな。ちょっと判断がつかないねー」


ミミ「ともかく、中がからっぽというわけではないということですか」


フェネック「!いや、足音がする。そんなに大きくない」


ミミ「周囲は?」


フェネック「何も…。宮殿の中からしか気配を感じないよ」


ミミは少しの間、考えたのち全員を呼び寄せることにした。


そして、全員が宮殿の門の前に集合した。


アライさん「ふっふっふっ、あとは女王をブチのめすだけなのだ。これで終わりにしてやるのだ。あと宝探しもするのだ」


ミミ「前向きなのは結構ですが、慎重にやるですよ」


アライさん「なにか作戦があるのだ?」


ミミ「全員が正面から入るのはリスクが大きいですよ。とりあえずまぬけに開いた宮殿上部の窓から、助手とセーバルが侵入を試みるですよ。いいですかセーバル?」


セーバル「わかった」


ミミとセーバルが飛びあがって宮殿の窓、といっても扉すらない開口部だが、そこから二人は侵入した。


ミミ「(明かりが灯っている…やはり何者かがいるようですね。セーバル、ここで待っているです。助手なら音を立てることなく降りられますので)」


セーバル「(わかった)」


ミミは窓枠から城内の床にふわりと降り立った。どこかへ通じる廊下のようだ。


ミミ「(ふむ…さてどうしたものか)」


突然、セーバルが降りてきた。


ミミ「(どうしたのです、待っていろと言ったですよ)」


セーバル「もう見つかってる。来るよ」


ミミ「(セーバルは耳がいいですか…)」


何者かが姿を現した。その姿を見て二人は言葉に詰まった。


ミミ「ア、アライグマ!?」


セーバル「アライ…さん?」


???「イツマデモ、はいッテコナイカラ、むかエニキテ、ヤッタノダ」


セーバル「セルリアン!」


ミミ「何ですと!」


???「ほーるデ、じょおうガ、まッテイルノダ。コイ、ナノダ」


ミミ「こいつはアライグマのコピーなのですか?つまりセライグマだとでも」


セーバル「わからない…」




宮殿の外。


フェネック「大変なことになってるよ」


サーバル「うん…」


アライさん「どうしたのだ、何が起こってるのだ?」


フェネック「アライさんの偽物がいるみたい。セルリアン製だって」


アライさん「な、なにぃーーーーー!!」


アムトラ&オイナリサマ「!」


アライさん「こうしてはいられないのだ!突入するのだ!」


アライさんは皆の同意を待つことなく、宮殿の門扉に突撃する。


アライさん「くそぅ!開かないのだ!さすがに頑丈なのだ」


フェネック「いや、多分これ引くんだよ」


フェネックとアムトラが門を開け放った。突如、オイナリサマが苦しみだす。


オイナリサマ「…うっ!…ううっ!」


アライさん「どうしたのだ!オイナリサマ!」


オイナリサマ「…すさまじい…生ある者への憎悪と嫉妬しっと…正気を失いそうです…!」


アライさん「オイナリサマは避難するのだ!えっと、だれかお守りを…」


オイナリサマ「いいえ、アライさん、行きましょう。行かねばなりません」


心配そうにその様子を見るアライさん、フェネック、アムトラにサーバル。


アライさん「…わかったのだ」


一同は宮殿の内部へと進んだ。




一方、先に宮殿内部に入っていたミミとセーバル。


偽アライさんに連れられて宮殿中央のホールに来ていた。


そこにはホールいっぱいに盛り上がった超巨大セルリアンの姿があった。


ミミは恐怖で頭髪をふくらませながらも、半ば自棄気味に言い放った。


ミミ「こいつのどこに女王要素が?」


セーバル「なりゆきで女王と呼ばれるようになった」


女王「…アライさんは どこだ」


偽アライさん「コチラニ、イルノダ」


女王「おまえではない 本物の ほうだ」


偽アライさん「ウェ?マモナク、ヤッテくルト、おもイマスノダ」


ミミ「なかなかよくできたコピーのようなのです」


セーバル「女王、一体何をする気なの」


女王「だれかと 思えば 先代の 作った ミュータントか。くだらぬ。説明の 必要もない」


そこにアライさんたちが駆けつけた。


アライさん「うえぇ!なんて大きなセルリアンなのだ!それに、アライさんがいるのだ!」


フェネック「やー、アライさんが二人いるねー」


アムトラとサーバルはアライさんとフェネックの前に進み出て身構えた。


女王「セライさんよ アライさんを 回収せよ」


セライさん「オマカセナノダ」


セライさんはアライさんを捕獲するべく向かっていった。


セライさん「タァーッ」


しかし、アムトラに簡単にはじき返されたしまった。


セライさん「イタタ…ナノダ」


アムトラ「ど、どうしよう」


サーバル「と、とにかく、防ぐよ」


オイナリサマ「…な…なぜアライさんを…まさか!」


セーバル「アライさんの輝きを奪おうとしている…」


女王「その通りだ。今の この星において アライさんの 輝きは 特別な ものだ」


アライさん「なぜなのだ!?なぜアライさんのコピーを作って襲わせるのだ?ずるいのだ!」


女王「セライさんは 器だ。だが役立たずの ようだ。だが もうよい。直接回収すれば よいだけのこと 処分する」


アライさん「やめるのだ!」


セーバル「やめて!」


女王「アライさんよ なぜ抵抗する。我は お前の 願いを 実現しようと しているのだぞ」


アライさん「なにぃ!?」


女王「真に 争いのない 平和な パーク たとえ フレンズが いたとしても 不十分だ。けものは 無意味な 闘争と 繁殖を 繰り返す ばかりで 争いは 永遠に 絶えることは ない」


アライさん「…」


女王「かつて この星にいた ヒトという けものも 同じだった。その結果は お前たちが 見てきた 通りだ。だが アライさん お前の 望みは 我々 セルリアンならば かなえられる」


オイナリサマ「アライさん、惑わされてはなりません!」


アライさん「……………」


フェネック「アライさん?」


アライさん「ふっふっふっ。女王よ。アライさんを気づかってくれてありがとうなのだ」


女王「納得したならば こちらへ 来い」


「アライさん…」


アライさん「…だけども、アライさんそこまで欲ばりじゃないのだ。女王はアライさんを買いかぶりすぎなのだ」


アライさん「アライさんだってたまにけんかはするし、怒られてばかりなのだ。でも…自分のできる範囲でちょっとづつがんばるのだ」


アライさん「そしていつか…己の手で…いいや、みんなと目的を果たしてみせるのだ!」


女王「拒否すると いうのだな」


アライさん「その通りなのだ。おととい来やがれなのだ」


セライさん「せらいサンモ、ソウおもウノダ!」


セーバル「!」


セライさんは虹色の光となり、アライさんに吸収された。そして、そこに小さなセルリアンが残った。


小さなセルリアンはどこかへと逃げて行ってしまった。


女王「愚かな。我が理想の 実現のために 役に立つかと 貴様らを 泳がせていたが 最早 無意味だ」


女王「排除 する…」

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