第22話 セーバル

アライさんは水辺エリアで見つけた大きなリュックサックを背負い、首からオイナリサマのお守りを下げていた。


フェネックはジャパリフジ駅の売店にあったナップザックを背負っていた。


他のメンバーはセルリアンとの戦闘を見こして手ぶらだ。


フェネック「売店で見つけたジャパリフジの地図、登山道がのってるけど役に立ちそうにないねー。山は崩れちゃってるし。ないよりはマシかー」


ミミ「助手が定期的に上から地形を確かめるですよ」


オイナリサマ「天候の変化には気をつけてください」


サーバル「ゆっくり確実に進もうよ」


アムトラ「荷物を持っているアライさんとフェネックにペースをあわせよう」


アライさん「それじゃあアライ隊、しゅっぱーつ、なのだー!」


一行は山頂を目指して進みだした。


ミミ「登山道の跡と思われる場所を伝うです」


サーバル「あれって何だろう」


アライさん「ケーブルカーの駅の残骸なのだ」


オイナリサマ「あれだけを直しても仕方がないですね」


アライさんたちはケーブルカーについて軽く説明すると、その後は黙々と進んだ。


アムトラ「セルリアンの姿が見えないね」


サーバル「ありがたいけど、ピカピカがとれないね」


ミミ「戦って消耗するより得なのです、アライグマ、フェネック。疲れを感じたらすぐに言うですよ」


アライさん「疲れたのだ」


オイナリサマ「少し休みましょう。悪くないペースです」


一行は軽く食事をしながら休息をとった。


アライさん「荷物が少し軽くなったのだ」


フェネック「少しわたしのザックにうつそうか?」


アライさん「その必要はないのだ。フェネックも周囲を警戒して疲れるのだ。アライさんは荷物運びに集中するのだ」


フェネック「…わかったー」


再び山頂を目指して歩き始めた。


サーバル「フェネック、セルリアンはいないの?」


フェネック「全然気配がしないねー」


アムトラは荷物運びを代ろうかとも思ったが、万が一のことを考えて思いとどまった。




そして、休憩をはさみながら数時間後、結局セルリアンに遭遇することもなく山頂らしき場所についた。


オイナリサマ「これは…」


アムトラ「湖?」


フェネックが双眼鏡をのぞいた。


フェネック「湖の中に島みたいのがあるよー…あれは!」


ミミ「普通に見えるのです…あれが…セーバル」


サーバル「あの子が…」


火口に水がたまって湖になっていた。色はすんでおり、セルリウムには見えない。


アライさん「アライさんにもなんとか見えるのだ…セーバルが透き通った石の中にいるのだ…」


ミミ「サーバルのコピーにしてはあまり似ていないのです」


アライさん「同じ種類のフレンズだからといって。みんな同じ姿をしているわけではないのだ」


ミミ「アライグマのくせに正論を吐きやがりますね。ともかくあの湖の島までサーバルを運びますですか?」


フェネック「とりあえず安全を考えて。ここから起こしてみようよー」


フェネックはそう言ってサーバルのほうを見た。


サーバル「うん、やってみるよ!」


サーバルは一同の前に出てセーバルと遠くから向き合った。


サーバル「セーバルー!起きてー!!」


ミミ「(まあ予想通りの行動なのです。ノープランだから仕方がないのです)」


アライさん「おぉ!」


「…!」


セーバルを包んでいた結晶体が上から粉になって崩れ始めた。粉はサンドスターのようにも見えた。


やがて、結晶は崩れ去った。


オイナリサマ「サーバルの声が届いたのでしょうか?」


そして、セーバルは静かに目を開け、まるで鳥のフレンズのように頭部の翼を使って浮き上がり、ゆっくりとこちらに向かってきた。


フェネック、アムトラ、そしてミミは身構えた。


セーバルは静かに火口湖の岸に降り立った。


セーバル「サーバル…」


サーバル「…あの、えっとぉ、わたし…」


セーバル「…うん。知ってる。サーバルはセーバルのことを知らないんだよね…でも…待ってた…ずっと…」


セーバルはアライさんたちのほうを向いた。


フェネックたちはなるべく自然にふるまおうとするもしっぽや耳がそれを許さない。


セーバル「…アライさん…みんなを連れてきてくれたんだね…セーバルうれしい」


アライさん「アライさんはアライさんがして当然のことをしたまでなのだ!不思議なのだ…ずっと昔のことなのについこの前のことのような気がするのだ」


アライさんは腕をふりあげながら笑顔で応じた。


セーバル「セーバルにとっては…ついこの前のことだよ。アライさんも」


セーバル「オイナリサマ…」


オイナリサマ「セーバル…本当に苦労をかけました…」


オイナリサマは涙をぬぐいながらそう言った。


セーバル「でも…まだ終わっていない」


そこにフェネックが割って入った。


フェネック「セーバル、だっけ。キミは何者なの?フレンズ?セルリアン?どっちの味方なのさー」


アライさん「フェネック!?」


フェネック「セルリアンから生まれたフレンズなんてにわかには信じられないよー」


アライさん「やめるのだ!」


セーバル「フェネック…セーバルはセーバルというフレンズだよ。みんなと同じ。セルリアンから直接フレンズになっただけ。みんなはトモダチ、それじゃダメ?」


フェネック「!」


オイナリサマ「サンドスターはセルリアン、ひいてはセルリウム由来のもの…フェネック、セーバルと私たちは大差ないのです」


フェネック「…」


セーバル「フェネック…ごめんね」


フェネック「なんで謝るのさ…」


セーバル「フェネックはアライさんの大トモダチだよね…セーバルがアライさんたちと知らない話をしているのは面白くないよね…だから、ごめんね」


フェネック「…いやー…はは。まいったなぁー」


アライさん「フェネック、アライさんも悪かったのだ。ごめんなさいなのだ。全然気がつかなかったのだ。アライさんは無神経だったのだ」


フェネック「よしてよー、アライさん。もういいよー」


フェネックはセーバルが普通のフレンズであることを確信した。


それはアムトラやミミも同じだった。


ミミ「…ところでセーバル、終わっていないとはどういうことなのです」


セーバル「セルリアンの女王がこの星を女王の望む姿に変えようとしている…」


オイナリサマ「この星を滅ぼそうというのですか?」


セーバル「ちょっと違う…でもフレンズにしてみれば同じこと…」


オイナリサマ「今の女王は一体だれの意志で顕現けんげんしているのでしょうか?」


セーバル「……みんな…この星にいたほとんど全員…」


オイナリサマ「!!!」


アムトラ「どういうことなの?」


ミミ「この星の意志としては我々を淘汰とうたしようとする流れなのでしょう。多数決で言ったら確実に負けということですよ」


サーバル「ええーっ!」


フェネック「そんな…!」


アライさん「ぐぬぬ…アライさんは…アライさんはあきらめないのだ…!」


セーバル「そう、だからアライさんは目覚めた」


サーバル「ねぇセーバル、わたしたちは一体どうしたらいいの?」


セーバル「パークセントラルの中心に「けものキャッスル」がある。そこに女王がいる」


サーバル「あそこに小さく見えるあれかな?なんかけものの耳みたいのが付いてるよ、かわいいねー」


ミミ「フェネック、ちょっと双眼鏡を貸すですよ」


フェネック「はいよー」


ミミは双眼鏡を持って飛びあがり、ほどなくして降りてきた。


ミミ「ふむ、なるほど。あれは宮殿の上にあるサーバルの彫像ですね。サーバル、魔城のシンボルに選ばれた名誉を存分に喜ぶがいいですよ」


サーバル「えぇっ!ひどいよー!」


アライさん「つまり、けものキャッスルに行って女王をぶっ倒せばいいのだな?」


セーバル「そう」


フェネック「そんなあっさりと…」


ミミ「全く勝算がなさそうですが…このまま滅びるより抵抗の姿勢だけでも見せたほうがマシだと賢い助手はヤケクソを肯定するですよ」


サーバル「やるぞー!」


アムトラ「やるしかないよね」


オイナリサマ「…つまりは決戦ですね…そう…負けてる側が望み、そして使う言葉ですが…他に適当な手段が思いつきません」


セーバル「セーバル、がんばる」


アライさん「フェネック、フェネックはいつも言っていたのだ「なんとかなる」って」


フェネック「そうかなー、それってただの現実逃避のような」


アライさん「心配は無用なのだ。どんな大変なことになったって、アライさんが絶対に全部まるごと何とかしてやるのだ」


フェネック「アライさんがそう言うなら…アライさんのミラクルに期待するしかないねー」


アライさん「全力で期待に応えるのだ!」


一行は下山を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る