第13話 反目

次の日、夕暮れの水辺エリア。


アムトラ「アライさん、タライに水を張ってきたよ」


フェネック「アライさーん、これごはん。はいジャパリまん」


アライさん「ありがとうなのだ」


そう言ってタライでジャパリまんを洗い始めるアライさん。


アライさん「ぽへー」


ジャパリまんはでろでろになってしまった。そして、そこにサンドスターが残った。


アムトラ「フェネック、あんなの、洗っている以外は全然アライさんじゃないよ…」


フェネック「そうだねー、ん?」


ミミ「やはり気づかれてしまいましたか。フェネック、お前は自分のことを強くないと言いましたが、その耳は大したものなのです。この天才助手が言うのです。自信を持っていいのです」


フェネック「どもどもー。でもこっそり近づくのはもうやめてよねー」


ミミ「考えておいてやるですよ。アライグマは大人しくしているようですね。もう少し面倒なことになると思っていたですよ」


ミミの首にはオイナリサマのお守りが下がっている。アライさんが単独行動をしないようにするためだ。


フェネック「アライさーん、遊びに行こうよー」


アムトラ「宝探しに行こうよー」


アライさん「アライさんはアライグマだから。ここで洗い物をするのだ。でも本当は水の中を探っているだけなのだ…でもそれじゃテサグリグマなのだ…アライさんは本当にアライさんなのか…」


フェネック「ちょっとー、しっかりしてよアライさん」


アムトラ「アライさんがそんなじゃ、ボクたちも元気がなくなっちゃうよ」


オイナリサマ「アライさん…」


アライさん「あ、ごめんなのだ。アライさんちょっと考え事をしていたのだ」


ミミ「…お前たち、ちょっとつきあってもらうですよ」


ミミはそう言って、彼らと制御場の中へ入っていった。


ミミ「ふーん、これは何でしょう」


フェネック「それは鉛筆だよー。アライさんが見つけてきたんだー。アライさん、それを使うのがとっても上手なんだよー」


近くには消しゴムも転がっている。


アムトラ「助手でもわからないことがあるんだー」


ミミ「当然なのです。ですが今からお前らとの差は急速に縮まるですよ。助手は賢いので。アライグマ、これの使い方を教えるですよ」


アライさん「それならフェネックがいいと思うのだ。それを見つけるまではフェネックは指や棒で砂の上によく絵を描いていたのだ」


ミミ「助手は伝聞より直接情報を知りたいのですよ。アライグマ、早く教えろなのです」


フェネック「やー、フレンズにものを頼む態度じゃないねー」


アライさん「わかったのだ。アライさんにおまかせなのだ」


そうして、アライさんはミミに鉛筆の使い方を教え始めた。


アライさんはミミの手の形を整えて鉛筆を持たせた。施設にあったコピー用紙の上に何度か線を引いてみる。ミミの手はプルプルと震えている。


アライさん「握りこみすぎなのだ」


アライさんはそう言って、近くにあったプラスチックのカプセル玉をミミの鉛筆を持つ手の中に押し込んだ。


ミミ「ふむ、やるですね。助手が聡明なのもありますが、既に勝手は理解したですよ。鉛筆はこの辺までにするですよ」


そう言って、鉛筆のそばにあった地図に目をやる。


地図には、すでにフェネックがいろいろなものを書き込んでいる。


フェネック「おやおやー、助手もそれに興味がおありかなー?」


ミミ「ふん、あおったってムダなのです。助手はお前らお子ちゃまと違って大人なので」


アムトラ「ボクたちとそんなに変わらないよ」


ミミ「ともかく、天才助手は今は時間をかけて情報を少しでも多く集めるのが先決だと考えますよ。アライグマ、お前ら、セルリアンを狩りがてら宝探しに行くですよ」


アライさん「ふぇ?」


アムトラ「行こう行こう!」


フェネック「はーいよー」


オイナリサマはその様子を見ながら、まだ物憂げさの残る顔に少し笑みがこぼれた。


フェネック「さて、どこに行こーかー」


フェネックは地図とコンパスを広げる。ミミはそれを横から興味深そうに首をつっこむ。


ミミ「フェネック、この地図の使い方を教えろなのです」


フェネック「そーだねー、じゃあ少し歩こっか」


フェネックについていく一行。


途中大小セルリアンに遭遇するも、いち早くフェネックが察知し、一行は先手をとってそれらを撃破する。


フェネック「ここがいいかなー」


フェネックは林の中で気候制御場とSSプリンタ小屋がともに確認できる場所に陣取った。


フェネックはコンパスを広げ、鉛筆で地図に線を書き込む。


ミミたちはその様子を興味深そうに、不思議そうに眺める。


フェネック「ここをー、こうするとー、うん、たぶんここが今わたしたちのいる場所だよ」


アライさん「おぉ~、やっぱりフェネックはすごいのだ!」


アムトラ「すごいや!」


ミミ「なるほど、やるですね。フェネックちょっと貸すです」


ミミはコンパスを借り、地図の上でいじりはじめる。


ミミ「こうすると、この延長線上にこの施設があることになるですか?」


フェネック「おぉー、その通りだよー。さすが助手、のみこみが早いねー」


アライさん「やっぱり助手はすごいのだ!無敵のアライさんたちととあわせて死角がないのだ!」


ミミ「当然です。助手は賢いので。アライグマ、この施設は何て書いてあるですか。教えろなのです」


アライさん「えーっと、屋外ステージって書いてあるのだ」


ミミ「行ってみるですよ。お前らついてくるのです」


フェネック「はいよー」


てくてくと屋外ステージに向かう一行。


アムトラ「そういえば、助手は鳥のフレンズなのにどうして歩いているの?」


ミミ「サンドスターの消耗が多いからですよ。飛ばずに済むなら飛ばずにいたい、それが鳥というものなのですよ。ただでさえ猛禽もうきんは体が重いのです」


アライさん「ずっと飛んでいられないのだ?」


ミミ「何も犠牲にせずに空を飛ぼうだなどと、世の中甘くないですよ。排泄物はいせつぶつを垂れ流さずにすむだけ、ありがたく思うですよ」


フェネック「(今のはだれに言ったんだろー)」


ミミ「…それにしても、悪魔、ですか」


ミミはフェネックの持っていた地図を見ながら、オイナリサマたちから受けた説明を思い出す。


ミミ「理解を超えた亜人間や知的生物を見て、悪魔だ天使だエイリアンだ言うのはわからなくもない心理ですね。もっとも、通常の肉体以外に未知の物質で構成されたフレンズには言い得て妙、とも考えますですが」


アライさん「助手は何を言ってるのだ?」


一同は首をひねっていた。


そのとき、フェネックが何かを察知する。


アライさん「どうしたのだ、フェネック。クンクン。何だか変な臭いがするのだ」


アムトラ「そうだね」


ミミ「フェネック、方向を教えるです。天才であるばかりでなく、目もいい助手が偵察してくるですよ」


フェネック「目的地の方向、そのままだよ…」


そう伝えると、ミミは飛びあがった。


オイナリサマのお守りも一緒なので、オイナリサマの幻影も一緒に宙に浮く。


ミミが屋外ステージを視界にとらえる。


ミミ「!!」


オイナリサマ「これは!」


ミミは急反転し、アライさんたちの所へと戻る。


ミミ「すぐに帰るですよ!」


アムトラ「セルリアンがいたの?ボクやっつけるよ」


ミミ「いいから!すぐに戻るですよ!!」


アムトラ「わ、わかった」


フェネックは無言でうなずく。来た道を戻り始める一行。


アライさんの顔は真っ青だ。臭いというものは記憶を呼び覚ます。


ミミとオイナリサマが見たのは、いくつかのけものの死骸だった。


それを別のけものがむさぼっていた。


アムトラ「ねえ、どうしたの?アライさんはわかったの?ボクにも教えてよ!」


アライさんとフェネックは黙って先を急ぐ。


そのとき、セルリアンが行く手を遮った。


アムトラたちの目に炎が灯る。


直後、アムトラの体中からサンドスターの光が漏れだした。


オイナリサマ「アムールトラ、なりません!落ち着くのです!」


アムトラは前方のセルリアンたちをことごとく粉砕したのち、そばの木をひたすら打ち付けていた。


そこに、アライさんが割って入る。


アライさん「アムトラ、やめるのだ」


アムトラ「ウウッ、アライさん…」


アムトラの目が平静を取り戻す。


アムトラ「ボク、わかったよ。わざを使おうとしたときにわかっちゃったんだ…。ボクのせい…なんだね」


アライさん「それは違うのだ。アムトラに初めてあったとき、アムトラから、その、そういう臭いはしなかったのだ」


ミミ「であるなら、この優秀な助手は推測するですよ。アムトラとは別のビーストの個体の成れ果てたものか、そもそもフレンズの姿になるにも及ばなかったかですね」


ミミは続けた。


ミミ「何にしても、完全な肉食でない動物が逃げ出すことに成功していたのならば、オイナリサマの言う通り、このエリアは少しづつよみがえるですよ」


アライさん「どうして助手はそんなに冷静なのだ!理屈ばかりでアライさんもうつきあいきれないのだ!!」


フェネック「冷静というより冷酷だねー」


ミミ「…お前たちが状況をちゃんと飲み込めていないから、そう思うだけですよ…助手は…賢いので」


一同は興奮気味であった。野生のにおいをかいでしまったからだろうか。いや、関係ないかもしれない。


オイナリサマ「…争うのはやめましょう…時間もサンドスターもあります。館に帰って食事でもしながら、みんな頭を冷やしましょう…」


ミミ「…助手はこいつらとは違って、いたってクールなのですよ」


アライさん「へへーん、アライさんがけもの端くれだというのならば!争ってナンボなのだぁ!助手!そのお守りをアライさんに返すのだ!!」


ミミ「それはできない相談ですね」


アライさんの目に炎が灯る。


アライさん「ふっふーん、なら力ずくで奪ってやるのだ」


ミミの目にも炎が灯る。


ミミ「面白いですね。この天才であるばかりでなくサイキョーの一角でもある助手とやりあおうとは。ワシミミズクのワシ的な部分が火を吹くですよ」


オイナリサマ「なりません!ああっ」


ミミと一緒に浮き上がるオイナリサマ。


オイナリサマ「アムトラ、フェネック、二人を止めるのです!」


アムトラ「うーん、ふわぁ、ボクちょっと眠くなっちゃったから、ここでお昼寝するよ」


フェネック「おお、この地面いい感触、ちょっと穴でも掘って遊ぼうかなー」


オイナリサマ「こ、これ、何をしているのですか!」


フェネック「まーまー、気楽に行こうよー、なんとかなるって」


ミミを追って林の中を跳ね回るボールのように動き回るアライさん。


ミミ「(ふん、お前の動きなど止まって見えるのです)」


ふとミミの気配が消える。


アライさん「(仕掛ける気なのだ)」


アライさんは集中してその場から動かない。


ミミ「(小賢しいですね。そうも警戒されては奇襲もままならないのです)」


オイナリサマ「二人とも、やめなさーい!」


アライさん「(そこなのだ)」


アライさんが声のする方向に視線をやる。


ミミ「ちょ、オイナリサマ!」


ミミ「(どのみちあらゆる面において助手のほうが勝っているのです。いいでしょう。正面からぶちたおしてやるですよ)」


ミミがアライさんに向かってダイブする。


アライさんはそこに落ちていたタライを拾いあげ、ミミに向かって投げつける。


それをヒラリとかわしたミミは近くの枝にとまる。


ミミ「やるですね、フレンズの体を使うとは」


アライさん「ふっふっふ、当然なのだ。アライさんは無敵なのだから!」


ミミ「その根拠のない自信がどこからわいてくるのかは、お前が降参した後にゆっくりと分析してやるですよ。覚悟するですよ」


再びアライさんに向かってダイブするミミ。


オイナリサマの制止の声が響き、その幻影がミミの視界を悪くする。


そのとき、ミミはアライさんから何かが発射されるの見た。


ミミはそれを素早くかわすが、その先にアライさんの丸まった体が急接近していた。


アライさんの体当たりを食らってよろめくミミ。


アライさんはとびついて羽交い絞めにした。


紙飛行機は近くの枝葉に刺さって止まった。


ミミ「わかった、わかった、やめるのです。今からでも天才なので勝てますが、大けがをするのです」


アライさん「降参するのだな?」


ミミ「…特別に降参してやるのです」


アライさんにお守りをわたすミミ。


アライさん「とったのだー!」


ミミ「(実力差を見せつけてやろうと思ったのですが、こいつ戦いなれしてやがるのです。反撃でかみつかれたらたまったもんじゃないのです)」


アライさん「ふんふふーん」


アライさんが誇らしげにお守りを下げる。


ミミ「それはともかく、さっきお前が投げたものを詳しく教えるですよ」


林の中から出てくる二人と一柱。


フェネック「おっかえりー、その様子だとやっぱりアライさんが勝ったみたいだね。よかったねーアライさーん」


ミミ「ふ、ふん、手加減してやったのです」


アムトラ「終わったの?」


アライさんの顔が浮かない。


アライさん「オイナリサマ…怒ってるのだ?」


オイナリサマ「当然です!!今日はごはん抜きにしたいところですが、もうこのようなことをしないと約束できますか!?」


アライさん「ごはん抜きはイヤなのだ!…ごめんなさいなのだ…もうしないのだ」

ミミ「しゃ、謝罪します。申し訳ありませんでした」


オイナリサマ「あなたたちは!」


フェネック「えっ?ご、ごめんよー」


アムトラ「ごめんなさい」


ぷりぷりと怒っているオイナリサマ。


オイナリサマはこのような手段を講じることに抵抗を感じてはいたが他に打つ手がない。


その一方で、お守りがアライさんの首に下がっていることに不思議な安心感を感じていた。




天候制御場へ戻る一行。


ミミ「ほう、これは紙飛行機というのですか。小癪こしゃくですね、アライグマのくせに翼を生み出すとは」


アライさん「トモダチに教えてもらったのだ!」


アムトラ「アライさんは色々なことを知ってるよね」


ミミ「すぐに追いついて、そして追い越してやるですよ。助手は天才なので」


フェネック「自分で自分のことを天才なんて言うかなー」


ミミ「天才は自分のことを天才だとわかってしまうものなのですよ、天才なので」


フェネック「三つも入れてきたねー」


しばらく後、施設に着いた。


オイナリサマ「さて…みなさんちゃんと反省していますか」


アライさん「してるのだ…ごめんなさいなのだ」


フェネック「悪かったと思ってるよー」


アムトラ「オイナリサマ、二人を止めなくてごめんなさい」


ミミ「この助手、謹んでおわび申し上げます」


オイナリサマはにっこりと笑うと、部屋のテーブルにジャパリまんとお茶が現れた。


アライさん「オイナリサマ、ありがとうなのだ!」


ミミ「助手はサンドスターの補給の必要を認めますですよ」


フェネック「いっただっきまーす」


アムトラ「うーん、おいしー」


ミミ「さて、寝るですよ。賢者は愚者と遊んで疲れたのです。このままでは頭アライグマになってしまうのです」


アライさん「アライさんもクタクタなのだ。寝るのだー」


そして一行は眠りについた。

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