第11話 湖畔

アライさん「うわぁー、星がきれいなのだ。お月様もいるのだ。湖もぴっかぴかなのだ」


フェネック「そうだねー」


アムトラ「ボクたち、みんな夜行性でよかったねえ」


アライさん「でも、静かなのだ…虫の声は少し聞こえるけど…けものがいないのだ。この湖の水も、きれいだけど…」


そういうと、アライさんは湖に入っていった。


フェネック「ちょっと、アライさーん!」


アライさん「大丈夫なのだアライさんは泳げるのだ、死角はないのだ」


アムトラ「ボクも割と得意だよ」


フェネック「そういう話じゃ…あ、沈んじゃった!アライさーん!」


フェネックが叫ぶと、アライさんは水面にひょっこりと顔を出し、バチャバチャと泳ぎ始めた。


軽く岸から小さく一回り泳いだアライさんは戻ってきて湖からあがった。


アライさんは体を震わせて水をきった。


アライさん「やっぱり水の中にも魚一匹いないのだ…まるで作り物なのだ」


オイナリサマが現れて言った。


オイナリサマ「大丈夫です。今は草木ばかりですが、しばらくすればけもの達もよみがえるはずです」


アライさん「そうなのだ?…」


アムトラ「…びーすと?だっけ…ピカピカが足りなくて生まれるんだよね…」


フェネック「ちょっとー、アムトラ突然何を言い出すのー?」


アムトラ「しばらくすれば、けものに戻るみたいだけど、みんなお腹がすいて死んじゃうの?…」


フェネック「…やめなよー………」


オイナリサマ「…」


オイナリサマは完全な肉食でないけものであれば大丈夫だということをわざわざ付け加えるようなことはしなかった。


そんなことを言ったところで納得してもらえるはずもない。


オイナリサマの「よみがえる」の意味は裏をかえせばビーストの放置や、

フレンズの犠牲を見込んでいることに他ならないのだ。


フェネックはそれなりに状況を理解しているようだ。


元来 ― フェネックに限らないが臆病おくびょうで天敵の多い彼女、フレンズになった今もぼんやりと野生の厳しさは理解しているつもりだ。


だがアライさんは違った。彼女はそういう自然のおきてから解放されたフレンズを愛していたのだ。


全ては見込み以上に順調に事が運んでいるにもかかわらず、オイナリサマの心は暗かった。


アライさんはビーストを見つければ必ず助けようとするだろう。


パークの設備を維持しながら彼女の気を紛らわせる…そんなことが続くだろうか。


そして思い出す。


(アライさん「アライさんの中の何かが言っているのだ。ここであの子を見捨てたら旅はここで終わり、すべてはうまくいかないと!」)


アライさんのこの言葉。勢いにまかせてとびだしただけなのだろうか。それに、彼女の一貫性のない自我はなんなのだろうか。


そのとき、突然フェネックが叫んだ。


フェネック「アライさん!後ろ!」


アライさん「ふぇ?」


すぐさまアライさんを守るべくアムトラのツメが「それ」にふりおろされる。


アムトラ「ガウゥ…!」


「それ」は素早く空中で身をかわし、静かに地面に降り立った。


アムトラ「(フレンズの形…)ビースト!?」


アライさん&フェネック「ビースト!」


???「失礼。お前たちを見ていたら。柄にもなくイタズラをしてみたい衝動にかられたのです。あやうく切り裂かれるところでしたが」


アライさん「あっ、ミミちゃん助手なのだ!」


???「いかにも、私はワシミミズク。あと、天才です。助手…興味深いですね。私には手助けをするべき主がいると。それはお前なのですか?」


アライさん「アライさんが博士なのだ?」


フェネック「それはないと思うよー。アライさんあの子知ってるのー」


アライさん「違うのならきっとオイナリサマなのだ!」


ミミ「オイナリ?」


そう言ってミミは彼女らがオイナリサマだと言っているであろう幻影を見つめる。


ミミ「!!なるほど…お前たち相手に私の賢い仮説の答え合わせをしようと思っていたのですが、大幅な修正が必要なようですね」


フェネック「(なんか小賢しいなー)」


アライさん「うぉお、助手が加わってアライ隊は天下無敵なのだ!無敵が高まったのだ」


ミミ「勝手に隊員にされたのです。まあいいです。賢い私はつまらぬ地位や肩書にこだわらないですよ。力になってやるので感謝するです」


アライさん「感謝感激なのだ!」


ミミ「ところで、お前たちの自己紹介がまだですよ。とっととするのです」


アライさん「アライさんはアライさんなのだ!」


フェネック「(いきなり襲いかかってきて勝手だなー)フェネックギツネのフェネックだよー」


アムトラ「ぼくはアムールトラのアムトラだよ」


オイナリサマ「私はオイナリサマ…そう呼ばれています」

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