第6話 暗黒

アライさん一行は境界に近づいた。


フェネック「地図によるとー、この場所からまっすぐに進めばSS気候制御場があるはずだよ、大地ごとずれていなければねー」


オイナリサマ「そう願うしかありません。たとえ多少ずれていたとしてもかなり大きな設備です。見つけられる可能性が高いと思います」


アライさん「よーし、じゃあ突撃なのだー!」


フェネック「はーいよっ」


境界を超えて隣のエリアに入る二人と一柱。


フェネック「うぇっ、ゲホッ、ゲホッ、オェェ」


アライさん「フェネック!?」


オイナリサマ「アライさん!戻りましょう!」


フェネックの異常を見て急いで戻る。


フェネック「ケホッ、ケホッ、うー」


アライさん「フェネック、大丈夫なのだ?しっかりするのだ」


フェネック「…いやー、ヤバいねー。砂嵐よりひどいよこれはー。特に臭いが耐えられたもんじゃないよー。オエッ。…アライさんは平気なのー?」


アライさん「アライさんも耐えられたもんじゃないけど、がんばって耐えてるのだ」


オイナリサマ「それほどなのですか…」


申し訳なさそうにアライさんに視線を落とすオイナリサマ。


アライさん「どうしようなのだ…オイナリサマに来てもらわないとナントカが直せないのだ、かといってフェネックを一人置いていったらセルリアンに襲われたときに心配なのだ」


フェネック「ごめんねー…アライさん。ついて行けそうにはないけど、留守番ならできるよ」


アライさん「でも…なのだ…」


フェネック「大丈夫だってー、ここはわたしのホームだからねー。セルリアンなんかに遅れはとらないよ。それよりアライさんのほうが心配だよー」


オイナリサマ「アライさん…もう無理にとはいいません。引き返してこのエリアで暮らしてもよいのですよ」


アライさん「……………」


アライさん「言っていることが全然わからないのだ、次のエリアのお宝のにおいがぷんぷんするのだ。フェネック、お互いきばるのだ。オイナリサマ行くのだー」


オイナリサマ「…」


フェネック「待って、アライさーん。これを持って行って」


そう言ってコンパスを差し出すフェネック。


フェネック「この棒がー、この印にあった状態でー、この矢印の方向に目的地があるからー」


アライさん「なんとなくわかったのだ!これはフェネックにずっと貸してあるお宝だから必ず返すのだ。では行くのだ!」


フェネック「気をつけてよー、アライさーん」


オイナリサマ「ジャパリまんを置いていきますね、うまくいってもいかなくても半日くらいで戻ってきますので」


近くに転がっていたタライが起き上がり、たくさんのジャパリまんが満たされた。


フェネック「どもどもありがとー、きっとうまくいくよ」


隣のエリアに再び突入するアライさん。


以前と同じように暗闇に濃いホコリまみれの風が吹き荒れている。


アライさん「ほとんど先が見えないのだ。フェネックの磁石を頼りに進むのだ」


周囲には奇妙な柱のようなものがほぼ等間隔に並んでおり、倒れたものが地面に折り重なっている。


オイナリサマ「かなり足場が悪く見えます…気を付けてください。方位磁石は一度アライさんの進路がずれるとずれっぱなしになります。確実に進みましょう」


アライさん「わかったのだ。さっそくお客さんが来たようなのだ…って何なのだ!あれは」


オイナリサマ「大型のセルリアンが複数…アライさん、逃げましょう」


アライさん「りょーかいなのだ…ってあっちのほうが速いのだー!」


オイナリサマ「アライさん、あそこ!」


オイナリサマの指さした先には、石の壁にアライさんがギリギリ通れそうな亀裂きれつが入っている。


急いで飛び込むアライさん。


壁にセルリアンが次々と激突し、パラパラと石の破片が落ちてくる。


アライさん「うーむ、入って早々進路どころじゃなくなってしまったのだ」


オイナリサマ「今ならおおざっぱに戻っても砂漠エリアに帰れるはずです。ひとまず出直しましょう、アライさん」


アライさん「カッコ悪いけどそうするのだ」


壁伝いに来た方向…少なくともアライさんたちはそう思っている方向に戻り始めた。


アライさん「完全に迷ってしまったのだ…」


オイナリサマ「アライさん、落ち着いて。最初の亀裂のところまで戻りましょう」


アライさん「反対側から見ると、自分がどこを通ってきたのか全然わからないのだ」


オイナリサマ「磁石を見せてください…東を目指していたのですから、とにかく西に進みましょう」


アライさん「オイナリサマも結構おおざっぱなのだ。この壁を越えてしまうのだ。この程度の壁ならアライさんは楽勝で登れるのだ。すごいのだ」


壁を登り切ったアライさんは反対側の景色を見て思わず絶句する。


アライさん「あれは何なのだ。海?なのか」


海岸のような場所より先は、視界の続く限り赤黒いタールのようなものがただ続いていた。


ところどころにセルリアンらしきものが浮かんでいる。


オイナリサマ「おお…なんという…この景色は悪夢そのものです」


そうつぶやいたオイナリサマは焦っていた。一刻も早くこの場所からアライさんを脱出させなければ…。


アライさん「海岸?ぞいに歩くのだ。磁石によれば砂漠エリアはこっちがわに間違いないのだ」


オイナリサマ「アライさん!前にセルリアンがいます!」


アライさん「やっつけるのだ…あれ?体に力が入らないのだ…」


この環境はアライさんの体を少しづつ、しかし確実にむしばんでいた。


オイナリサマはセルリアンの後方に何かしらの建屋があるのに気づき叫んだ。


オイナリサマ「アライさん、急いであの建物に隠れましょう!」


アライさん「わかったのだ…!うおぉぉぉ!」


セルリアンにすれ違いざまに攻撃を受け、右腕に痛みが走る。


セルリアンが背後から追い打ちをかけるべく攻撃を繰り出した。


間一髪、建物の破れた窓に飛び込み、セルリアンの攻撃は建物の壁に阻まれた。


飛び込んだアライさんは建物内のがれきに打ちのめされて気を失ってしまった。


オイナリサマは即座に結界を張り始めた。


オイナリサマ「(なんてこと…このままではこの子は…)」


オイナリサマは入念にアライさんの体を調べる。負傷もひどいが、すっかり衰弱しきっている。


オイナリサマ「(サンドスターを与えても、この環境と今のアライさんの状態では自力での回復を望めない…いったいどうしたら)」


オイナリサマは部屋の天井を仰ぎ見る。そのとき、奇妙な彫像が目にうつる。


オイナリサマ「(これは…確か…)」


アライさんとオイナリサマの居る建物をセルリアンが包囲していた。


オイナリサマの張った結界を破るべく攻撃を開始したそのとき、建物の亀裂や穴、窓、あらゆる場所からまばゆい虹色の光が漏れだした。


オイナリサマがこの建物を修復したのだ。


オイナリサマ「(こ、これはどうやって使うのでしょう、SSプリンター「あいてむ工房」?さっぱりわかりません、いいえ、そんなことを考えている場合ではありません、解析します!)」




しばらく後。


アライさん「うーん、アライさんはやっぱり地獄に堕ちたのだ?思い当たるふしがたくさんあるのだ…」


オイナリサマ「目が覚めましたか、アライさん!…よかった」


アライさん「ふわぁ!オイナリサマ!そのお宝の山はなんなのだ。ぐぬぬ、オイナリサマは宝探しも得意なのだ?ぐっ、イテテ…なのだ」


オイナリサマ「まだ動いてはなりません!」


アライさんの体のあちこちに包帯やら救急絆創膏ばんそうこうがついており、薬と思しき容器が散乱している。


オイナリサマは今はセルリアンとの戦いこそできないものの、この程度のものであれば微弱な念動力でも使うことができた。もっとも、サンドスターの消費も大きいが。


オイナリサマ「(あれほどふんだんにあったサンドスターをほとんど使い切ってしまった…)」


アライさんが宝の山と認めたそれは、オイナリサマがサンドスターを使いSSプリンターで片っ端から出力したがらくたの山であった。


アライさん「すごいのだー、フェネックもにも見せてやりたいのだ…あっ、磁石がないのだ!」


オイナリサマ「落としてしまったようですね。無理もありません…逃げるのに精一杯でしたから。でもこちらに…」


そこにはオモチャ風のものから厳めしいものまで様々な種類のコンパスの小さな山ができていた。


アライさん「アライさんはフェネックから借りたやつがいいのだ…」


オイナリサマ「そうでしょうね…このからくり人形からジャパリまんもたくさん出てきましたが」


アライさん「食べるのだ!」


オイナリサマ「気味が悪いので、体調もすぐれない今は大事をとって私が作ったほうをお食べなさい」


お腹いっぱい食べて、のども潤したアライさんはがらくたの山に頭をつっこんでいた。


アライさん「ふんふふーん、見たこともないものがいっぱいなのだ!」


オイナリサマ「何か脱出の役に立ちそうなものがありますか?」


アライさん「何があるのかが、まずわからないのだ」


オイナリサマ「(大将格のセルリアンが来たらこの結界は持たない…)」


オイナリサマ「アライさん、とりあえず私にも見えるように床に並べてください」


アライさん「わかったのだ!」


アライさんはがらくたを床に並べ始めた。


アライさん「何かわかったのだ?」


オイナリサマ「(本当に見たこともない物ばかり…)」


アライさん「これは地図なのだ、アライさんもう知ってるのだ。…変なのだ。フェネックが持っていたやつとだいぶ違うのだ」


オイナリサマ「これは…からくり人形から出てきた覚えがありません。最初からこの部屋にあったものでしょうか。修復の光を浴びて元の姿を取り戻したのかもしれません…うっ!」


アライさん「オイナリサマ!?大丈夫なのだ?」


オイナリサマはこの地図の持ち主の末路をおぼろげながら感じ取った。


そして、このようなことは初めてではなかった。


オイナリサマ「大丈夫です…この地図はフェネックの持っていた地図より大分、後の時代に作られたものです。ひょっとしたら、今の地形に近いかもしれません」


アライさん「ふおぉ、それなら迷わずここから出られるかもしれないのだ!」


しかし、アライさんの表情が突然曇る。


地図を見つめたまま固まっている。が、その目は明らかに地図上の文字を追っていた。


オイナリサマは地図に書き込まれた物騒極まりないメモの数々についてはアライさんに伝えていない。


オイナリサマ「アライ…さん?」


アライさん「オイナリサマ…ここからなら砂漠エリアより天候制御場のほうが近いのだ。そこに向かうのがいいとアライさんは思うのだ」


オイナリサマ「サンドスターの残りがわずかです…傷も心配です、無茶をせずに戻った方が…」


アライさん「砂漠エリアより確実に着ける可能性が高いのだ。あと、どうせセルリアンを倒さねばいけないのなら、ここにたくさんいるのだ。傷はオイナリサマのおかげでもう大丈夫なのだ」


オイナリサマ「…」


アライさん「あとこれを使うのだ」


オイナリサマ「それは…!野生開放の薬…!!いけません、私はその類の創造物がパークを…いや世界を滅ぼしたと考えているのです。なりません」


アライさん「これを今しがた作ったのはオイナリサマなのだ。アライさんはこのまま黙って滅ぼされる方がイヤなのだ。フェネックも待っているのだ。とっとと終わらせてフェネックのところへ帰るのだ」


そう言うとアライさんは瓶の口を切り一気に中の液体を飲み干した。


オイナリサマ「…」


アライさん「ふーっ。高まってきたのだ」


アライさんは床から一番厳ついコンパスを拾いあげ、建物の出口へとむかった。


外に出ると、セルリアンが結界に隙間なくはりついていた。


アライさん「道を…あけるのだっ」


アライさんの一振りで進行方向のセルリアンが何体か弾け飛ぶ。


しかし、その隙間を埋めるように別のセルリアンが後ろから押し出されてきた。


オイナリサマ「一体、どれくらいいるのでしょうか」


アライさんはお守りを上着、もとい上半身のけものプラズムの内側にしまいこんだ。


アライさん「アラーイさん!!ハイパースペシャルグレイトインクレディブルタックルゥゥゥーーーーーーーーーーー!!!」


アライさんの無茶無謀極まりないように見える強烈な体当たりは、建物を包んでいたセルリアンの風船を弾けさせるかのように突き破った。


アライさん「ふわゎ、思ったほど数がいなかったのだー!ぶへっ」


勢いあまって地面に転がるアライさん。


オイナリサマ「大丈夫ですか!?」


アライさん「ふっふーん、すべては計画通りなのだ」


そして、建物を包囲していた大小さまざまなセルリアンの反撃をことごとく退けた。


オイナリサマはサンドスターを回収する。


アライさんは地図を広げて目的地を確認する。


アライさん「大きいから、ここからならうっすらと見えるのだ。ここらへんは、このエリアに入ったときに見た柱ばかりなのだ」


アライさんは注意深く天候制御場へと接近する。


オイナリサマ「別の物も見えてきました…大将格のセルリアンです。一応、言っておきます。砂漠エリアに戻りましょう、アライさん」


アライさん「(オイナリサマ、静かにするのだ)」


アライさんは周囲を確認する。小さなセルリアンでも倒せばあいつは気がつくだろう。


近くにセルリアンがいないことを確認したアライさんは、巨大セルリアンを観察する。


大きなクモのような形をしている。胴体が長い脚に支えられて高い位置にあり、アライさんでは届きそうにない。


アライさん「(この柱を登って仕掛けるのだ?この柱…すごく脆いのだ。アライさんのツメが全然立たないのだ)」


オイナリサマ「(アライさん)」


アライさん「(シーッなのだ、気づかれてしまうのだ)」


オイナリサマ「(あのセルリアンの目を盗んで館の中へは入れますか?)」


アライさん「(無理なのだ、入るだけならできるけれども、絶対に気づかれてしまうのだ)」

オイナリサマ「(それで十分です)」


そのとき、小さなセルリアンがアライさんに気がついて接近してくる。


アライさんはそのセルリアンを砕く。逃げればその足音であいつに気づかれてしまうだろう。


たちまち、巨大セルリアンが反応する。


アライさん「オイナリサマ!何か考えがあるのだ?まかせたのだ!」


巨大セルリアンの足がアライさんめがけて振り下ろされる。その巨体にも関わらず非常に速い。


周囲の柱のようなものが振動で倒れ、すでに倒れているものは浮き上がる。


アライさんは堆積した柱の残骸の上を飛び跳ねるように逃げ回りつつも、少しづつ制御場へと距離をつめる。


アライさん「届いたのだ!」


アライさんが建物の中へと滑りこむ。しかし、


アライさん「何なのだ!この建物はほとんど骨しか残ってないのだ!」


巨大セルリアンから丸見えのアライさんに対して、その足が振りおろされようとしていた。


アライさん「(建物の残骸ごと潰されてしまうのだ…これまでなのだ…くやしいのだ)」


オイナリサマ「はぁっ!!」


オイナリサマの修復の術が行われる。虹色の光が辺りを包む。


アライさん「間にあわないのだ…!なにぃ!!セルリアンの動きが止まっているのだ!」


アライさんが初めて見た時よりも時間がかかっているようだが、それでも確実に建物が直っていく。


オイナリサマ「やった…」


そのとき、またすごい地響きとともに建物が崩れはじめる。


オイナリサマが集中し始めた。


アライさん「(結界を張っているのだな)」


オイナリサマ「(ぐっ、なんて力なのでしょう、でも!)」


再びまばゆい虹色の光が辺りを包む。


オイナリサマ「(そのまま、起動!!)」


周囲の機械に色とりどり光が灯り、うなりをあげて動き出す。


建物の頂上にある煙突状の構造物から、桁違いに高濃度のサンドスター噴き出す。


それは、巨大セルリアンの半身を吹き飛ばすのには十分であった。


「パッカーン」


残った半分もすぐに砕け散り、そこにサンドスターが残った。


アライさん「すごいのだー、やったのだ!でも何でセルリアンの動きが止まったのだ?」


オイナリサマ「それはわかりません、ただ、ナントカぷりんた?の小屋を直したときに、術を使っている間はセルリアンの動きが止まっていたので…」


オイナリサマ「本来ならば集中のあまり気づけるはずもないのですが、あのときは私も少々気が動転していまして、集中しきれていなかったのかもしれません…」


アライさん「そうなのだ…それにしても無茶をするのだ!」


オイナリサマ「その言葉、そのままそっくり返しますよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る