第5話 砂漠
翌日。
アライさん「よーし、アライ隊、再びしゅっぱーつ、なのだー」
フェネック「はーいよっと」
前日と同様、アライさんの首にはお守りが下がっている。
フェネックのポケットには地図とコンパスだ。
砂漠をポツポツと歩く二人。
アライさん「昼間は暑かったのに、なんだか冷えるのだ」
フェネック「砂漠の夜はこんなもんだよー。んん、ここからは土漠なんだねー」
アライさん「どばく?」
フェネック「土の砂漠だよー、しばらく
アライさん「アライさんここを通った気がするのだ」
オイナリサマ「そうですね、今のところアライさんと来た道を戻っている格好です」
フェネック「あれは…」
オイナリサマ「私の眠っていたほこらですね、アライさんはどこで目覚めたのですか?」
アライさん「確か…こっちなのだ」
フェネック「アライさん、なるべく一緒に行動しよー、一人で先走っちゃダメだよ…」
その時、フェネックはアライさんの様子がおかしいことに気がつく。
アライさん「あ…あ…」
フェネックが駆け寄る。
フェネック「どーしたのアライさん!?」
辺りを見回してもここでは珍しくもない
アライさんが残骸の一つを手に取る。そしてそれを抱きしめる。
フェネック「アライさん…それ、大切なものなの?」
アライさん「アライさんと…フェネック。二人のお宝なのだ」
フェネックが改めて周囲を見回す。
アライさんが抱えているものと同じような丸い円盤や、けものの耳に似た大きな何かも落ちている。
アライさん「フェネックといつもこの「ばすてき」に乗ってお宝探しをしたのだ…」
オイナリサマ「アライさん…それはパークでは特に珍しいものではありません。アライさんが使っていたものと同一のものであるとは限りません…」
アライさん「そうかもしれないのだ…でも…」
オイナリサマが手を体の前に掲げ、集中しはじめる。
するとアライさんの持っている円盤がそれに引っ張られた。
しかしアライさんは円盤に引っ張られたまま離そうとしない。
アライさん「何をするのだ!オイナリサマ!やめるのだ!」
フェネックがアライさんの体を円盤から引き離そうとする。
アライさん「フェネックまで!ひどいのだ!」
フェネック「まーまーアライさーん、空気読もうよー」
アライさん「ふぇ?」
その時、アライさんの腕から円盤がスルリと抜け、辺りが以前施設で見たまばゆい虹色の光に包まれた。
フェネックはオイナリサマから説明を受けてはいるが実際に見るのは初めてだ。
フェネック「(おー、これかー、すごーい!)」
光が止むと、そこには一台の屋根付き二人乗り自転車があった。
アライさん「お…お…おお……これなのだぁー!」
フェネック「よかったねぇ、アライさーん」
オイナリサマ「遅くなりましたが、ささやかなお礼がやっとできました…」
アライさん「先に言って欲しいのだ!」
フェネック「えー、サプライズあってのプレゼントでしょー。アライさんはわかってないなー」
アライさん「フェネック乗るのだ、乗るのだフェネック」
急かすようにフェネックを「ばすてき」に乗せるアライさん。
アライさん「わっせ、わっせ。ううっ、再びフェネックとこれに乗れる日が来るなんて、アライさん感激なのだ。オイナリサマありがとうなのだ」
フェネック「しかしすごいねー、オイナリサマの力は」
オイナリサマ「私の力、というよりはサンドスターの力です。私も詳しくは知りませんが、サンドスターにはことわりを記録、再生することに長けているんだとか。この星にいたヒトというけものは、これとよく似た術を使って様々なものを作っていました」
フェネック「ふーん、ヒトねぇー」
アライさん「ピカピカの力はすごいのだ、もちろんオイナリサマもすごいのだー」
フェネックは「ばすてき」をこぐのはそこそこに、地図とコンパスで方角を確認している。
アライさん「フェネック見るのだ、砂漠を緑がおおっているのだ」
フェネック「あー、雨季なんだねぇ」
アライさん「砂漠に雨が降るのだ?」
フェネックが空を見上げる。
フェネック「アライさん、あっち高台に進路を変えてくれる?」
アライさん「えっ、突然なんでなのだ。デコボコして走りにくいのだ」
フェネック「アライさんには申し訳ないけどー、場合によっては「ばすてき」を乗り捨てていくよ」
アライさん「突然何を言い出すのだ、フェネック!」
オイナリサマ「何か訳があるのですね」
フェネック「おそらく雨が降るねー」
アライさん「「ばすてき」は屋根がついているから大丈夫なのだ!」
オイナリサマ「アライさん、フェネックは砂漠に生きるけものです。指示に従うが賢明だと思います」
アライさん「わかったのだ…」
フェネック「何事もなければそれでいいんだけどねー。ここから先は「ばすてき」じゃ無理かー。歩くよアライさん」
アライさん「うう…わかったのだ」
ポツポツと雨が降り始める。
しばらく歩くと、突然タライをひっくり返したような豪雨をフェネックたちを襲った。
アライさん「うわぁぁ、すごい雨なのだ」
フェネック「見て、アライさん」
アライさん「うわぁぁ…」
先ほどまで二人が自転車を漕いでいた低地が鉄砲水によって激しい濁流となっていた。
フェネック「やっぱり枯れ川だったかー」
オイナリサマ「フェネックがいなかったら一巻の終わりでした…」
アライさん「あーっ、「ばすてき」が!」
フェネック「ダメかー……」
通り悪魔のような雨が止み再び静けさを取り戻す砂漠エリア。
フェネック「元気を出して、アライさーん。生きてるだけで丸もうけだよ」
アライさん「ううっ、フェネックの言う通りなのだ…短い夢だったのだ」
オイナリサマ「また作ってあげますから、アライさん…結果的にアライさんを悲しませるだけに終わってしまったことを心苦しく思います…ごめんなさいね」
アライさん「大丈夫なのだ、オイナリサマ。フェネック、助けてくれてありがとうなのだ」
フェネック「ど、どういたしまして…なのだー…なんてねー」
フェネック「(この空気、キツいよー)」
アライさん「ぶわぁはっはっはっはっ、あはーっ、ぶくくくくく、ぶひゃー、はっはっ
フェネックが…ぷくすっ、フェネックが面白いのだー、ぶひゃひゃ」
フェネック「えー……」
アライさんがフェネックの顔を見直すと、またツボに入ってしまったのか大爆笑が止まない。
アライさん「お腹が…ヒッ、アライさんのお腹の危機なのだー」
フェネック「笑い過ぎだよ、アライさーん」
アライさん、フェネック、オイナリサマは再び歩き出す。
このなかで唯一パークへの先入観のないフェネックの優れた方向感覚とそれを補うコンパスとで、確実な進路の修正が行われた。
フェネック「何だろう、前方の
オイナリサマ「おそらく…エリアの境界です」
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