第2話 旧友
気候施設の一室。
アライさんはオイナリサマの指示で砂漠のフレンズによって運び込まれていた。
以前のように薄ぼんやりと姿を見せるオイナリサマ。
オイナリサマ「あなたはフェネックギツネですね」
フェネック「そうみたいだねー、それはわかるんだけど、一体全体どうなってるのさー、この子大丈夫なの?」
オイナリサマ「気を失ってはいますが、体に異常はありません。かなり無理をしていましたからね、精神的なものかもしれません。休ませてあげましょう」
フェネックはオイナリサマからこれまでの経緯を説明を受ける。
フェネック「ふーん。オイナリサマってキツネの神様なんだ。知らなかったけど、キツネの私に何かご利益あるのかなー」
オイナリサマ「そうですね…とりあえずお使いを頼めますでしょうか」
フェネック「そういう関係かー、内容はー」
オイナリサマ「先に説明したサンドスターを集めて欲しいのです。彼女…アライさんに心休まるものを作ってあげたいのです。あと、私もサンドスターを摂らねばなりません」
フェネック「いいよー、セルリアンとかいうお化けをやっつければいいんだね。でも私にできるかなぁ」
オイナリサマ「あなたに潜在している技を引き出します」
フェネック「(それってアライさん?にうまくいかなかったやつだよね)」
オイナリサマ「では、行きますよ」
フェネック「やー、何だか緊張してきたよー」
アライさんの時と同様の光の柱がフェネックを包む。
オイナリサマ「(うまくいって…!)」
フェネック「おぉ~、なんだか力がわいてきたよ」
オイナリサマ「ふぅ、うまくいったようですね…これであなたのツメはセルリアンに対して有効な打撃を与えることができるはずです」
フェネック「じゃあ行ってくるよ」
オイナリサマ「このお守りを持って行ってください」
フェネック「えっ、一緒に来たらアライさんがひとりぼっちになっちゃうよー、それは嫌だなー」
オイナリサマ「私の本体はここに残って結界を張ります。お守りを通じて会話とサンドスターの回収をできる状態にします」
フェネック「そんなこともできるんだー、ほんとに神様なんですねー。じゃあ改めて行ってきまーす」
そう言って外へ出るフェネック。
フェネック「あーテステス。聞こえますかオイナリサマ」
オイナリサマ「よく聞こえますよ。可能な限り小さなセルリアンをねらってください。大きなのに出会ったらすぐにここへ引き返してください。この中なら結界と門扉とでそう簡単にセルリアンは侵入できないはずです」
フェネック「りょーかーい、このお守りがないとオイナリサマも動けないんだよね、気をつけるよー」
オイナリサマ「ええ、この状態では全く動けません。なので失くさないでくださいね」
しばらく後、順調にサンドスター集めが進むフェネック。
フェネック「あーらよっと」
「パカァーン」
オイナリサマ「もう十分でしょう」
フェネック「まだまだ全然いけるよー」
オイナリサマ「いや…すぐ戻っていただけますか。アライさんが目を覚ましました」
フェネック「わかったー」
フェネックが施設へ戻ると、アライさんを心配そうに見守るオイナリサマの姿があった。
アライさんの視線がフェネックに向かう、その瞬間、アライさんはフェネックに飛びついた。
思わず半歩ほど後ずさるフェネック。
アライさん「うわぁぁぁん、フェネック、フェネックぅーっ!」
フェネック「!?」
突然のことに何の言葉も出ない。
アライさん「ごめんなさい、ごめんなさいなのだ、アライさんは…アライさんは全然無敵じゃなかったのだ、えっく、アライさんは
フェネック「ちょ、ちょっとキミ落ち着いて、全然何のことだかわからないよー」
オイナリサマ「アライさん、そう、落ち着いて」
オイナリサマの前にはジャパリまんとカップに入ったお茶がある。
オイナリサマ「さあ、こちらへいらっしゃい。アライさん、そしてフェネックも疲れているでしょう」
フェネック「やあ、いい香りだねー。いただきまーす」
アライさん「…」
オイナリサマ「アライさん、遠慮はいりませんよ。召し上がれ」
アライさん「…アライさんは、思い出したのだ」
フェネックはカップのお茶を飲みながら横目でアライさんを見る。
オイナリサマ「…アライさん、ゆっくりでいいですから」
アライさん「アライさんはフェネックを助けることができなかったのだ…いや見捨てたのだ!アライさんは悪いフレンズなのだ!!…ぶわぁぁぁぁぁ!」
フェネック「どうどう、アライさーん。私ならここにいるよー。話す時間はたっぷりあるから、とりあえずコレを飲んでちょっと落ち着こうねー」
アライさん「ううっ(ガバッ)」
フェネック「ちょっと、そんなに一気に」
アライさん「はうぅぅぅ!?熱いのだー!」
フェネック「やれやれだねー」
少し落ち着きを取り戻してきたアライさん。
その様子を見てオイナリサマがゆっくりと語りだす。
オイナリサマ「アライさんは…何を思い出したのですか。あの時何が起こったか知ってらっしゃるのですか」
アライさん「…ジャパリフジが火を噴いたのだ…そして…地面がうなりをあげて…アライさんが見える場所全部、全部にセルリアンがわいて出たのだ」
オイナリサマ「…(やはり、あの時のことを知っているのですね)」
アライさん「アライさんはフェネックと一緒にいたのだ、フェネックと必死にセルリアンと戦ったけど…大きなセルリアンにフェネックが捕まってしまったのだ…アライさんは助けようと…助けようとしたけど!」
フェネック&オイナリサマ「…」
アライさん「わざがすぐに出なかったのだ…アライさんはこの期に及んで大切なトモダチを助けることを
オイナリサマ「…アライさん。アライさんのその気持ちはわかりました。でも、あの状況ではアライさん一人が技を使ったところでどうにもならなかったでしょう」
アライさん「フェネックは言ったのだ…」
(フェネック「やー、ここまでみたいだねー。アライさんだけでも逃げなよー。一緒にいた日々、とても楽しかったよー」)
アライさん「アライさんは一人で逃げ出したのだ、ここにこうしているのが何よりもの証拠なのだ!アライさんは…アライさんはっ!!」
フェネック「…」
オイナリサマ「大変でしたね…アライさん」
オイナリサマ「あれから経った年月を考えれば…アライさんが今日までその心身を保持してきたのか、記憶を保ったままフレンズとして転生したのか、そのどちらも尋常ならざることであり、私にもわかりかねることですが…」
アライさん「アライさん一生の不覚なのだ…無念なのだ」
オイナリサマ「そう…この星は無念で満ちている…あなたが私の呼びかけに応えてくれたのは、ある意味自然なことなのかもしれません。しかし、おかげで微かな希望も見えてきました」
フェネック「わたしは、そう。なんとなくだけど、そのフェネックの気持ち、少しわかる気もするなー」
アライさん「…アライさんは、アライさんをからかったフレンズを怒ってわざで傷つけたことがあるのだ。いや、傷ついたのはそのフレンズをかばった別のフレンズだったのだ…アライさんはおおばか者なのだ。アライさんはそれ以来、わざを使わないと心に誓ったのだ」
アライさんの脳裏にフェネックとはまた違う耳の長いフレンズの姿が浮かぶ。
オイナリサマ「そのフレンズはずっと怒っていましたか?」
アライさん「………最初は少し怒ってたけど…すぐに許してくれたのだ…」
オイナリサマ「…アライさん。どうでしょう、その力、いま一度アライさんが正しいと思うことのために振るってはみませんか?無理にとはいいません」
フェネック「わたしも見てみたいなー、アライさんの技」
アライさん「ぐぬぬ、フェネックに頼まれたら嫌だなんて言えないのだ」
フェネック「ごめんごめん、冗談だよー」
アライさん「……………」
アライさん「ふっふっふ」
オイナリサマ「どうしました?アライさん」
アライさん「アライさんともあろう者が少し後ろ向きが過ぎたようなのだ。みっとも見苦しいところお見せしてごめんなさいなのだ。皆このアライさんに期待しているのだな?」
その時、光の柱がアライさんを包んだ。
オイナリサマ「(アライさんの技が引き出される…)」
アライさん「みなぎってきたのだーーーーー!!」
フェネック「(さっきまで大泣きしていたのに、忙しい子だなぁー)」
アライさん「うおぉぉぉおおおお!無敵のアライさん参上なのだぁ!!セルリアン共、一匹残らずこのアライさんがブッ飛ばしてやるのだぁ!!!」
そう言って外へと向かって駆け出すアライさん、それを見たオイナリサマの表情が変わる。
オイナリサマ「いけません!アライさん!フェネック、彼女を止めてください!!」
フェネック「はいよー」
アライさんを追うフェネック、お守りは今はフェネックが持っている。
外ではアライさんがセルリアン相手に大暴れしていた。
アライさん「ふはははー!かかってくるのだアライさんスペシャルパーンチ!!」
オイナリサマ「アライさん!やめるのです!」
フェネック「(やーすごいねー、速いねー。さてどうしたものかなー、おや?)」
フェネックは施設の入り口に大きなタライがあることに気づいた。
アライさん「キシャー!セルリアンなんか物の数ではないのだー!!」
フェネック「(アライさん大興奮してるねー)」
フェネックはタライを持ち上げてアライさんの頭めがけてたたきつけた。
アライさん「ぎゃん!フェネック!?何をするのだ、痛いのだ。これからがいいところなのだ。アライさんダブルミラクル回転キックをセルリアンに浴びせてやるのだ」
フェネック「ダブル?それはともかく…オイナリサマの話を最後までちゃんと聞こうねー」
フェネックの目が全然笑っていない。
アライさん「はっ…そうなのだ、アライさんはしゃぎぎてしまったのだ。ごめんなさいなのだ…」
フェネック「わかればいいよー、さあ、中に入ろう」
オイナリサマ「ああ、よかった…無事で本当によかった…」
一同は建物の中へと戻った。
アライさん「うぅ、アライさんまたやってしまったのだ…ごめんなさいなのだ」
オイナリサマ「危ないところでした…フェネック、よくやりました」
フェネック「そんな大げさな、別に簡単だったよー」
アライさん「アライさんがタライさんになるかと思ったのだ」
オイナリサマ「タライさんどころではありません…あれは技ではありません…極端な野生開放です…あのまま本能にまかせ暴れ続けていたら、そのうちに理性を全て失いフレンズの姿を保てなくなります」
アライさん「うえぇ!?」
フェネック「やー、アライさん危なかったねぇ」
アライさん「うぅ…またフェネックに助けられてしまったのだ」
フェネック「?…まー、わたしも知らなかったし、これから気を付ければいいんじゃないかなー、気楽に行こうよー」
オイナリサマ「そうですね…私はアライさんの技を引き出せないことに焦りを感じてあおり過ぎたかもしれません、謝罪します」
フェネック「結果的にここいらのセルリアンはほとんど全滅してるよー」
オイナリサマ「さしあたり、アライさんはサンドスターの消耗が激しいです。食事と休息をしてください」
アライさん「わかったのだ」
フェネック「外にたくさんピカピカが散らばってるから、わたし取りに行こうかー」
オイナリサマ「そうですね、よろしく頼みますよ」
砂漠エリアに夜のとばりが下りる。
フェネックがジャパリまんを食べながら少しうれしそうにしている。
フェネック「いやー、すごい量のピカピカだったねぇ」
オイナリサマ「これだけあれば当面はサンドスターの心配は無用でしょう」
アライさん「ZZZ…もう食べられないのだー」
フェネック「いやーテンプレ全開の寝言、アライさんはかわいいねー」
オイナリサマ「うふふ」
フェネック「オイナリサマ、これからどうするんですかー」
オイナリサマ「ここはフェネックが暮らすには適切なエリアですが、アライさんには向いていません」
フェネック「ほかのエリアへ向かうんですねー」
オイナリサマ「そうですね、フェネックも休んでください。あなた方は夜行性ですが日中の活動が過ぎました」
フェネック「はーいよー。夜は夜で寒いしねぇ、おやすみなさいオイナリサマ」
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