song

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「煙に歪む世界 吐き出したのは何? 

知りたくなかったなんて それでも笑うんだ


 ずいぶん視野が狭くなったもんだ

 見える範囲に届く範囲

 何も無い方が楽なのに

 

 色は白黒がいい温度は冷たい方が

 抵抗のない滑るような嘘が

 いつしか心を守る砦になった


 殴りつけるような衝撃

 殺してくれよと願った

 許しを乞ったのは誰に

 それを許さなかったのは誰


 熱で揺れる世界 立ち竦んでるのは影

 私には重すぎるなんて それでも笑うんだ


 ずいぶんとほだされちまったもんだ

 切なく胸を打つ痛みに

 急かされるように唄う


 月は出てない方がいい 星だけでいい

 打ち消した淡い祈りの真実が

 いつしか全てを奪い去った


 焦がれるような衝動

 欲張りな願いは神に

 それを許したのは他でもない自分


 雨で朧げな世界 差し出されたのは傘

 残酷すぎる優しさに それでも笑うんだ


 焼き付ける景色のピンボケは美しく

 誰にも渡さぬ秘密のフィルムに刻む


 涙で歪む世界 このシナリオは喜劇?

 言いたい言葉を飲み込み 不器用に笑うんだ

 

 君の声が響く世界 愛さずにはいられた?

 天秤にかけた唯一の願い だから笑うんだ」


「知らないけどいい曲だね」

「お、ありがとう。これ好きなんだよね」

「めっちゃいいやんけ。後でURL送ってよ」

「了解、了解」

「聞いてたら次を入れ損なったわ」

「いや、入れなよ」

「ちょっと待って、え、ネタ切れ」


ははっと笑いながらタバコに火を付ける。

紫煙が四角い部屋の中で行き場を無くして、部屋を少し歪める。

何か楽しげに話す百面相の声の主に先ほど言われた

「人の話を全く聞いてないよね」

と言う、文句とも注意ともつかない感想に近い物が余りに的確で苦笑。


「ほら、笑うタイミングおかしいんだよなぁ..。」

「え?ああごめん、カルパッチョ?」

「言ってねえよ」


注意深く耳を傾け、正解を探して口に出す。

それをしなくても良い事が堪らないくらいに心地よくて、鼻の奥にツンとした痛みを感じる。


「ねえ」

「ん?なにー」

 さて、なにを言おうか。

 困ったな、言葉に当てはまらない。


「ふふっ、いや、いいわ」

「何なんだよ」


少し困惑するそいつを細めた横目で捉えながら、私は泣きそうになるのを堪えてそれでも笑うのだ。

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