sunset


「そんなに暇なら、洗剤を買ってきてくれない?時間を上手く浪費してください」





何と嫌味ったらしい言い方なんだ。

5分前のあいつの言葉を思い出して、本日数回目の舌打ちをする。

たまたま休みがあったから少しでも同じ時間を過ごそうとした可愛い彼女の気遣いに気付かないだなんて愚かな男だよ。

まあ、確かに、ソファーに横たわったまま数時間だらだらとスマホで遊んではいたが一緒にいるという事には変わりないでしょうに。


地面を踏みつけるように、一歩ずつ歩く。地球も痛いかな?知らないよ。八つ当たりくらいさせなさいよ。

なんせ部屋着のまま、勢いに任せて出てきたものだから財布と携帯しか持っていない。

せめてイヤフォンに気がつけば良かった。

音楽は少しこの苛立ちを落ち着かせてくれたであろう。

あいつから連絡がある気がして、スマホを機内モードに設定する。

なるべく遅く帰って私の安否を心配したら良い。

おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか..なんて言う、私でない声に何度か相手でもして貰えば良いんだ。

ざまあみろ、ばーか。


照り付ける太陽が容赦なく私を炙る。

先程まで飲んでいたアイスティーが全て汗に変わったのではと疑いたくなる程、汗が身体中を湿らせる。

何か飲もう、そうだどうせなら飛びっきり甘い物を飲みたい。

甘味は苛立ちを納めてくれるはずだもの。いい加減地面にも申し訳なくなってきた。

確か少し先の公園の外に自動販売機があったんだよね。木陰のベンチに座ってひと休みもしようかしら。


蝉の大合唱と車のエンジン音が混ざる、遠くで子供のはしゃぐ声も。

数十メートル先のコンクリートは燃えるように少し霞んでゆらゆらと踊っている。

これぞ赤ですよ!と自己主張の激し過ぎる色合いの自動販売機が小さな呻き声を上げながら私を優しく待っていた。

お待たせしました、冷たさを下さいな。

スポーツをしていない人間がスポーツドリンクを飲むのはどうなのだろうか。

まあいいか、甘くて全身が潤う。

ボタンを押し、取り出し口から手に取ると掌には氷を掴んだ時と同じ冷たさがつたう。

公園に入り、ベンチに腰をかけて固過ぎる蓋をふんっと開け喉を鳴らす。

ああ、美味しい。

この時代に生まれて良かったと思うわ。

分給の価格でこんなにも幸せになれるのだから。


ふと見上げると空が妙に美しく見えた。

そういえば、空をゆっくり見る時間なんてどのくらいぶりだろう。

薄紫に雲が柔らかく燃えるように輝く、目を閉じても離れる事を惜しむみたいに浮かぶオレンジ。

持って帰れたらいいのにな、そうしたらきっと仲直りできるだろうに。

私も悪かったんだよね、せっかくの休日だったのにあいつがどんな顔をしてたなんか見もしなかったのだから。

スマホの機内モードを解除して、一枚だけ写真を撮って送ってやろう。

本物を見れるのは私だけの特権だけどお裾分けくらいはしてあげる。

目をつぶり腕をピンと上に伸ばしてシャッターを押す。確認なんか野暮なことはしない。

またスマホを仕舞い込んで立ち上がる。

7歩歩いたところで ポケットが震えた。




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