目覚まし時計

アダージオのテンポが、淡々と私の胸を抉ります。

深夜4時 抜け殻のベッドを作るまであと1時間。

睡魔はとっくにお散歩に出かけて、帰宅する気はないようです。


花嫁は純白のドレスを着るという習わしを作った人に聞きたいことがあるのです。

こんなにも汚れた気持ちで、袖を通してもいいのでしょうか?

ベールは純血を守る?馬鹿馬鹿しいですね。

今時、本当に純血を守ってる女なんているはずないでしょう。


よくある陳腐なドラマのワンカット

教会の扉をバーンと開けて

「ちょっと待った」

と声を張り上げ私を攫ってくれる。

そんなシーンを想像しながら、浮かんだ情け無い顔にため息しか漏れません。

そんな度胸、有るはずもないですよね。


両親への手紙にすら嘘八百を並び立てました。

まさか、なんとなく良いかな?と思って結婚します。お父さんお母さん 幸せになれるでしょうか?なんて言えませんね。

この結婚やはり辞めたいです、なんて笑い話にもなりませんね。


♪〜♫〜

moon river. ふーふふふふーんと

ケータイが歌い出しました。

こんな時間に誰なんでしょうね。

あらあら、貴方なんですね。


もしかして 私の事が惜しくなりました?

もう遅いんですよ。

今日、お嫁に行くのですから。

でも最後に声くらい聞いてあげます。

武士の情け?まあ武士なんて1番程遠い所にいる人間なんですけどね。


おっと、こちらではつんざくような目覚まし時計の音。

そうですね、電話を取ってどうするつもりなんでしょう。

やっぱり気づかなかったふりをします。

これで少しでもグレーな花嫁になれたらなんて、思ってみたりするんです。

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