虚像のマネキン

@TogamiYu_ki

第1話

努力をせずとも自然体の君が好きだと貴方は言う。

きっとその一言が私の励みになるとでも思っていたのでしょう。

ああ、しかしそれは全くのお門違いにも程があります。


何故ならば貴方の目の前で話しているこの女は、貴方に愛されたいが故に偽った私ではない何かなのですから。

髪型も、服も、化粧も、目に見えるものは貴方の好みへとジワジワと変わっていきました。そうでなければ貴方は私のことなど目に留めることすらしなかったでしょう。


それどころか食事や話題の方向性すら本来の私から離れ、捻じ曲がり…もはや貴方と出会って以来『私』はどこにも居なくなってしまって、恋するが故に虚像で塗り固めた哀れな女、見てくれだけの息をするマネキンがいつしか【私】になってしまいました。


それなのに貴方はそんなマネキンに自然体だとおっしゃる。これほど面白いことが他に一体どこにありましょう。「俺は見る目はあると思うんだ。」などと言っているものの物の本質がまるで見えていない!

貴方が恋するはただの虚像、居もしない空想上の人間なのに、そんなに自信たっぷりと愛を告げる悲しき男。

ああ、これだから貴方は哀れで可愛らしい。まるで夢物語をいつまでも信じている幼子のような貴方だからこそ、私はこうして虚像になってまで貴方の手を握り、側に座っては偽りの言葉をゆっくりと耳へ流し込み虚像を確固としたものにしていくのです。





願わくば、貴方がいつまでも幼稚なまま【私】を愛し、『私』の存在に気がつきませんように。

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