雨と龍

父親は酒作りをできなくなりましたが、蔵人たちのおかげで評判が落ちるようなことはありませんでした。


そうこうしているうちに長雨の季節に入りました。最初はシトシトと降りつづく雨にみな安心していて『今年は干ばつにはならなくてすみそうだ』と話あっていましたが、そうは言っていられなくなりました。

まったく日がささないのです。毎年であれば雲がきれ、雨のおわるころになっても。

人々は不安そうに空を見上げます。今日はどうか、明日は晴れるか……。

そんな事は知らぬとばかりに雨は降りつづき、やがてこのままではまずい、米が出来なくなってしまう、雨をやませてくれるようお祈りをしてみようと決まりました。龍神に頼んでみようと。

村の外れにある池は小さいながらよく澄んでいて、大雨でも渇水でもかわらず水の湧くその場所には龍が住んでいるとされ、大事に祭られていました。


お祈りの日。

今日のためにもうけられた祭壇の前で、神主さまが祝詞をあげ、村人達も『雨をやませて下さい』と一心に念じていました。

すると池の表面が泡立ち、声が響いて来ました。

『雨をやませてくれというのなら、自分がうなるほど美味な酒をささげてみせよ』。

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