モノローグ

 時間は不可逆。

 一度進んでしまったら戻ることは二度とない。

 それが世界のルール。

 100人いたら、100人がそう言う。


 当たり前。常識。

 言い方は何だっていいけれど、僕たちはそういう場の上で生活をしていると認知しているし、そういう通念は、絶対に覆ることなんてないと理解している。


 でも。

 でも、77億人いたら、1人は違うかもしれない。


 時間は可逆。

 戻せるものなんだ。


 それが、僕と彼女のルールだった。

 ——はずだった。


 でもそんなものは、僕の思い過ごしで、結局、僕は、彼女のいる場になんて並び立てていなかった。

 ずっと彼女は孤独で、僕の抱えるものなんてひどくちっぽけに思えるほどの、長い時間を、一人で過ごしてきた。


 そしてたぶん、今も。


 ルールはない。

 そう言ったのに、僕は、はっきりと今、思い出せる。


 一度目の時はわずか過ぎて自覚に至らなかったけれど。

 二度目の時は、喪失で不安定だったけれど。


 確かに、戻した時間分の時を、空白を、余分に過ごしたことを。


 ――だから彼女は、たぶん、時間というより、自分を、戻していたんだ。


 僕はその一端を、少しだけ、共有した。




 もう二度と、実らない恋があると、今、はっきりとわかる。

 わかってしまう。

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