エピローグ

15話 エピローグ


 数年後……。


 桜は大学生になり、ユウは高校生になっていた。

 もう桜のいる街へひとりで遊びに行くことなど容易く出来る。

 

「桜ちゃん! 待った?」

 待ち合わせ場所に遅れてきたユウは、身長も桜より少し高くなり、髪型も変わった。どことなく、"赤い鎧"を着込んだ時のユウに似ているなと桜は思う。

「少しだけだよ」

「ごめん。電車の時間、間違えちゃってさあ」

「相変わらずだよね」

「だからごめんって言うてるやん! 今日は奢るから許して」

「ほんとに? なら許す。うん!」

「桜ねえちゃんも相変わらずな」

 そんな会話をしているとスマホの着信音がした。見るとSNSのメッセージだ。親友の水城からだ。

「友達?」

「うん、水城から」

 水城萌は、高校に入学した桜に初めてできた友達だった。

 とは違い、先に声を変えたのは桜の方だった。

「水城さんってあの元気なメガネの人? ちょっと変わったカンジの……あのひと、面白いよね?」

「うん、お化け見えるとか言って……初対面の人、皆引かせるし。なんか最近、ユーチューバーになるとかなんとか言ってる」

「嘘でしょ?」

「動画、一緒にやろうって誘われて困っているんだけど」

「やればいいじゃん」

「やだよ。恥ずかしい」

「そういえば、なんか不思議なんやけど……」

 ユウが切り出した。

「水城さんって、初めて会う気がせんかったなぁ。まあ……デジャブってやつかもしれんけどな」

 目の前にいるユウは、異界での出来事は覚えていない。というか、今のユウは異界に取り残されなかったユウなのだ。異界での記憶を持っている筈がない。少し不思議に思いながら目の前のユウを見上げた。

「ユウ君、訛り、取れてないよね」

「うん、でも普段は違うで? 桜ちゃんと会うときは別や。気が緩むというか、リラックスできるというか……そんなんでつい出てしまうわ」


 その後、二人は、近くのカフェに入った。


「実は俺、小さい時の記憶が少し曖昧なんだよね」

「え、記憶が……?」

「桜ねえちゃんと一緒に不思議な場所で何かをしていたというか……」

「へえ……どんな?」

「笑うなや」

「笑わないよ」

 ユウは真剣な顔で続けた。

「なんかのドラマかゲームが一緒になってるのかもしれんけど、リアルで妖怪とか出てきたり、逃げたり追ったり……戦ったりもしたかな」

「変な……記憶だね」

「しかも白い蛇や大きな兎、しゃべるネズミやら……やっぱゲームやり過ぎかもしれんわ」

「かもね」

 思わず笑いを堪える桜にユウが顔を赤くする。

「な、なんだよ、桜ねえちゃん! 俺、けっこうマジで言っているんだぜ?」

「ねえ、ユウくん……」

 桜が微笑みながらユウを上目遣いで見た。その桜の表情にユウは戸惑う。

「何故なのか秘密理由……知りたくない?」

 桜はユウの顔を見つめてそう言った。



 天つ空の下で知らぬ君を想う おわり



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