第22話 怖い上司との付き合い方
会社の廊下の一番端につくられた喫煙室。男が2人、煙草を吸いながら話している。
男1「怖いって?」
男2「ああ怖い」
男1『近藤さんが?」
男2「そう。近藤さん」
男1「怖いってのはどっち方面?」
男2「どっち方面って?」
男1「殺されそうとか」
男2「まさか」
男1「小姑的とか」
男2「よくわかんないっす、それ」
男1「濃ゆ〜い関係を迫られそうとか」
男2「そんなんじゃないっす」
男1「じゃ、どんなんなの?」
男2「私ンとこだけっすかね。訳わからないこと、ワーッといきなり言われたりしません? 『藁束三千条光るに足らずの心意気で行け』とか、『和解するまでなめさすな、だ!』とか」
男1「言われたことねえよそんなの。え、なになに? 井上ンとこはしょっちゅう言われてるわけ、そういうの? 意味わかんないんだけど」
男2「冗談言ってンのかと思ったんすよ、最初は。『ジンジャーエールは誰への応援だと思ってるんだ!』とか言われてさ。上司のギャグだと思って愛想笑いしたら、ジャブで殴られてさ」
男1「予告なしでパンチ? よせよ。酔っ払ってたんだろ、その時?」
男2「酔っぱらってなんかないっすよ。会社ですよ、昼間の」
男1「よくパワハラとか聞くけど、予想外だな、それは」
男2「うん。上の方に相談したんすけど、裏で何かあるらしくて、うやむやにされちゃって。嘘つき扱いされてさ。運が悪かったと思えって」
男1「信じられねえ。社内暴力だろ、それ。処罰の対象だぜ」
男2「ところがどっこい。とがめだては一切なし。とんだ社内規約もあったもんすよ」
男1「残りの課員は?」
男2「つーと?」
男1「井上以外の課員は? 恐々としてるわけ? 危害を加えられないように、勤務時間をやり過ごしたり……、しっ! き、来た! 気づかれるなよ」
男2「あれ? あの人、違いますよ。あの入口の人っしょ? あれは近藤さんじゃないっすよ」
男1「い? いやいやいやいや。岩坂部の近藤課長だよ。」
男2「かつぐ気っすか? 課長の顔を間違えるなんてことは」
男1「何言ってんの? あれ近藤課長だってば」
男2「うちの課長ですよ?」
男1「そりゃそうだけどさ」
男2「うちの課……そういや、残りの課員がどうしてるかってさっき言いましたよね? うちの課には一人しかいないっすよ」
男1「一人?」
男2「はい。一人っす」
男1「おかしいな」
男2「なにが」
男1「たった一人?」
男2「はい」
男1「そんな課あったっけ……」
男2「よしてくださいよ」
男1「大変だ」
男2「なにが」
男1「祟られてるよお前」
男2「タタラレテルウ?」
男1「確か5年前に体罰問題起こして、退職迫られて自殺した、体育会系の課長がいて、たまたまその名前が近藤……」
喫煙室の明かりがふっと消える。
(「怖い上司との付き合い方」ordered by AT-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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