第21話 ぴょんぴょんうさぎとごさく
むかあし。
あるところに、ぴょんぴょんうさぎという、たいそう たちのわるい うさぎが おったそうな。
♪ぴょんぴょんうさぎの あるいた あとにゃ
ぺんぺんぐさも みあたらぬ。
と、わらべうたにも あるように、ぴょんぴょんうさぎが やってくると なにからなにまで ずっだらぼいの ぼいに なってしもうた。
やまの ふもとに はたけが あって、ごさくどんという たいそう きのいい おとこが せっせ せっせと くわを ふるって おった。そこへ ぴょんぴょん ぴょんぴょんと かわいい あしおとを ならして ぴょんぴょんうさぎが やってきた。
ごさくどんは まじめな はたらきものじゃった。おっかあが しんでからは たったひとり はたけしごとに せいを だし はたけと いえを いったり きたり するばかり。だから ぴょんぴょんうさぎの ことも しらなんだそうな。むらの もんは みーんな しっとったのにな。
「おい吾作。抜け作田子作の吾作どんや」
「誰だあ、おらあ、そんな長え名前じゃねえぞう」
「そっちじゃねえよボンクラ、どこ見てんだこの薄らトンカチが。こっちだ足元だ」
「たはあ。こらあ、えれえ。めんこいうさぎどんじゃあねえか」
「めんこいって言うなめんこいって。何が腹立つってそれが一番腹立つんだよ白雲頭め」
「なんだあ、そったらめんこい顔して、口のまあ悪いことったらねえなあ」
「チンタラ喋ってんじゃねーや。ここは『まんが日本昔ばなし』かってんだべらぼうめ」
「ここは柏木村ってんだが」
「たはあーっ! 『柏木村ってんだが』ときたか! 聞いてねーよこんなうらさびれた貧民の吹きだまりみてえな腐れ集落の名前なんか。ってか、名前あったのかよってなもんで」
「名前は、あるなあ」
「けっ! まだるっこしくていけねえや。おい、田子作」
「吾作だあ」
「てっとりばやく要件に入るぞ。おめえこの畑、売らねえか」
「ぱくぱくぱく?」
「この野郎、上等じゃねえか。聞こえねえ振りしやがった。おい家に火ぃつけられてえのか」
「そらあ困る」
「聞こえてんじゃねえか。じゃあ売れ。この畑売れ。どうせ耕したってろくなもん取れやしねーんだからよ」
「ここで取れた大根は、はあ、そんじょそこらの大根にはねえくらい辛いんだ。そば食う時にゃもってこいだ」
「るせーんだよ減らず口。そのしまりの悪い口とけつの穴ぁ、しっかり締めてよく聞きな。おれさまはこの屁のつっかい棒にもならねえ畑をなんと一両も出して買ってやらあ。おめえなんざ一生かかっても手に入れられっこねえ大金だ。え、どうでえ兄弟、いますぐ売ンな。さもねえと明日には半額だ。さあどうする」
「うさぎどん、あんたあ、おらの、兄弟なのか?」
「かあーっ! なんだい? この村あ、時間が止まってるのかい? 空気が薄いのかい? 音が伝わるのに普通の十倍かかるのかい? 話の要点が途中で霧にまかれちまうのかい?」
「霧は、出ねえなあ。もっとも、前の日がなまあったかくて、急に冷え込んだ朝なんかには……」
「聞いてねーってんだよ、このノロマウィルス感染症」
「おらあ吾作だあ」
「おめえよ、こんなところで埋もれていいのか? 一両あればすごいぜ。女が寄ってくるぜ。気に入ったスケとはめまくり、入れたり出したりしゃぶったりよがらせたりの大破廉恥大会だっておめえのもんだ。いい服着てよ、カメラでもテレビでもパソコンでも欲しいもん買ってよ、うめえもんだって食い放題だ」
「うめえもん、くいてえなあ」
「そこかよ! おめえが反応するのはそこだけかよ! まあいいや。おれあな、おめえさんの真面目な働きぶりをずっと見ていてよ、思ったんだよ。『こいつぁ、もったいねえ。みがけば光る珠だ。ここがイギリスならブリテンズ・ゴット・タレントに出演させてがっぽり稼がせてやるところなんだが』ってな」
「ここはイギリスじゃ、ねえなあ」
「知ってるよ歩く泥人形! だからよ、おれはおめえさんにいい思いをさせてやりてえんだよ。だから悪いこと言わねえ。この畑を売って都会に出てみな」
「うふん。そうかあ」
「そうさあ、いまがおめえさんにとって、チャンスなんだぜ。わかるか、逃しちゃいけねえ転職のタイミングってものがあるんだ。」
「裏山の木の世話もあるだでなあ」
「じゃ、その山も合わせて二両で買ってやるから、ちゃちゃっと世話しちゃいな」
「明日、裏山の下草を刈らねばなんね」
「おう、じゃあ明日の夜また来る」
「夏にはツル切りをするんだあ」
「夏だ? 馬鹿かおめーは。なんで夏の話、してるんだ」
「もう少ししたら枝打ちもある」
「もう少しってどのくれーだ」
「そん次は、間引くんだ。そのころまた来てくんろ」
「だからどのくれー待つんだ」
「枝打ちは三年か五年、十年経ったら最初の間引きだ」
「ウラシマ現象か? え? 準光速移動か? 失われた十年か? わけわかんねーよ。自分でも何をツッコンでいいのかも見失っちまうよ。あのな。おれはよ」
「畑の下のウランのことなら、誰にも手出しはさせねえよ」
「んだ、この!」
「これは、はあ、このままここに埋めて置くんだ。このあたりにウランなんかない。誰にも掘らせねえ。柏木の村みんなで決めたことなんだあ」
「かああああ。知ってやがったのか。まったく柏木のやつらは食えねえゴンタクレだ。とんだ時間の無駄遣いをしちまった。あばよ。死ぬまで畑に埋もれてろ!」
くやしがって すてぜりふを のこすと ぴょんぴょんうさぎは ぴょんぴょん ぴょんぴょん やまの なかに にげて いった そうな。ごさくどんは せなかを のばして こしを とんとんと たたくと 「あー めんこい うさぎと はなすと こしが いたくて かなわん」と いったそうな。ぴょんぴょんうさぎが また むらに きたのは もっとずっと のちのはなし。この はなしは これで おしまい。
とっぴらぽんの しゃん。
(「転職のタイミング」ordered by AT-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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