Was the summer of 99'

床町宇梨穂

Was the summer of 99'

寒い夏だった。

僕は少しだけ人生に疲れていた。

何もかもが空回りし始めて、すべての歯車は磨り減っていった。

やがて歯車は回らなくなってしまった。

僕は夏の初めに止まってしまった歯車を修理しようと努力もしないまま放っておいた。

その時の僕にはもう歯車なんてどうでもいいと思っていた。

そう、時間以外のすべてを止めておきたかったのだ。

ただ毎日が早く過ぎる事だけを願って暮らしていた。

しかし、短い夏が終ろうとしていた頃その歯車は僕の前に転がって来た。

そして僕を動かした。

そう、すべてが変わろうとしていた・・・。

とにかく夏らしくない夏だった。

僕の記憶の中では一番寒い夏だった。

世の中では世界の終わりだなんて騒いでいたけれど、結局たいした事は何も起こらなかった。

核戦争も無かったし、隕石も降って来なかった。

もちろん、大魔王もやって来なかった。

ただ寒い夏だった。

僕はそれまでの住み慣れた街を去って新しい街に住む事になった。

知り合いも友達もいない。

もちろん街の地理も分からない。

それでも僕は空虚感から開放されていたので、特別に寂しいとは思わなかった。

彼女の夢も以前のように頻繁にみる事も無くなっていた。

今から思えば僕の生活は充実していたのかもしれない。

今までだって生活環境が著しく変わった事はあった。

しかし、僕の心情や感情、考え方までこんなにドラスティックに変わった事は無かった。

季節が一つ変わっただけで、別人のようになってしまった。

そして、とても寒い夏だったけれど、僕にとって忘れる事ができない夏になった・・・。

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Was the summer of 99' 床町宇梨穂 @tokomachiuriho

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