虚構令嬢

@shakeshack

第1話 プライドの棄てかた

ヤバい、遅刻する…

嫌な予感がして目が覚めた。充電中のスマートフォンに手を伸ばす。ロック画面には10:45の表示。

ああ、また寝坊した。2限の授業開始時刻から30分も経ってしまった。出席日数ギリギリなのに。絶望的な気分になりつつ、もういっそ、二度寝してしまおうと開き直り、横になった。

どこからこんな自堕落な生活になったのだろう。8畳ほどのワンルームの床には、食べ終わった食器やゴミ、脱ぎっぱなしの服が点々と放置されている。辛うじて足の踏み場はあるものの、家のなかでさえも足元に注意を払うのはストレスだ。大学入学とともに始めた一人暮らしも3年が経った。この3年で、自分がどれだけ怠け者で自堕落でだらしない女かを思い知った。

枕元のメガネを探し、スマホを弄る。課題のレポートに取り掛からなくては。でも、このままだらだらしていたい。もっと言えば、働きたくない。

暫く横になっていると、今度は猛烈な吐き気が襲ってきた。昨夜寝る前に暴食したのがまずかったか。しかし、1年生の頃からのクセであるため、不幸にも慣れっこであった。

こんな状況、両親には絶対言えない。大学の先生や友達にも。なぜなら私は、"優等生でなくてはならないはず"だから。入学生トップクラスの成績を"まぐれ"で修めてしまったから。"優秀な学生"の仮面が必要だから…。


私は、とある小さな地方都市出身だ。ごく平凡な地方公務員の両親のもとに長女として産まれ、両親や祖父母の愛情を一身に受けて、何不自由なく育った。両親はとても優しく、私のやりたいことをなんでもやらせてくれた。

高校は地元でトップクラスの公立進学校(全国的にはレベルは低い)を卒業し、地方国立大学に合格。大学進学を期に隣県で一人暮らしを始めた。

端からは、人生勝ち組コースを歩んでいる様に見えるかもしれない。将来は地元に帰って公務員として安定した職を得て、結婚し子供を育てる。高校卒業までは、そんな明るい未来を夢見ていた。

だか、私には友達というものが極端に少なかった。控えめで大人しく、デブでブスを自覚し自分に自信がなく、男子とはほぼ話さなかった。女子に対しても、相手にとって2番手、3番手の友人という関係性しか築けなかった。相手に必要とされてると実感できるのは、教科書を貸してくれと言われたとき。信頼できる友達がいなかった。友達の作り方が、わからないまま成長してしまったのだ。この事が後々自分自身を追い詰め、自堕落な生活に導いた、と今となっては分かる。


自由気ままな一人暮らしを手にいれた私は、その"自由"を謳歌する。好きなバンドのライブ映像を夜中まで見たり、食パン1斤を食べきってみたり。よって私はぶくぶくと太ってしまった。157cm/68kg。恐ろしい。


愛嬌と外ズラの良さだけで一年を過ごし、2年生になった。すると、自分のなかのある面が飛び出てきてしまった。

自らの生物学的な、価値観を知りたい。つまり、性欲が押さえられなくなってきたのだ。彼氏なんて出来たことはないが、一人で処理することを知っていたため、"本番"への憧れが日に日に強くなっていった。


幼いころからあらゆる人から可愛い可愛いといわれて育ったが、成長するにつれて、それは客観的事実でないことには薄々気が付いていた。一重の重ったるい目、低い鼻、でかい顔。どこが可愛いのだ。どこが美人だ。おまけにデブ。どこの殿方が欲情してくれるのだ。大学には可愛くて細くて美人な女の子だらけだ。勝ち目はない。

 

 世の中全体で見て、私が持っているものって何だろう。まず、若さ。そこそこある胸(デブだから当たり前だ)。愛想の良さ。真面目。うーんそこそこあるな(無い)。

世の中を見れば、失礼ながら私より太った女性も存在している。自分はどれだけましなのだろうか。そんな疑問と淡い期待を持ちながら悶々とした日々を過ごしていた。

ある日ふと、出会い系サイトを駆使して多くの高学歴男性と一晩だけの関係を持ち、そのことをTwitterに投稿しているアカウントを思い出した。そうだ、出会い系、やってみよう。有り余る興味と性欲のままに出会い系アプリに登録した。


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