2話 我が家

 早起きなピエロ共を横目に見ながら、歪んだ古い木製の階段を上り。建て付けの悪い扉を開けて帰ってくると先ず、水の出が悪いぬるいシャワーを浴びる。そして生乾きで臭う、前の家から持ってきた古いバスローブを、骨ばった身体に巻き付ける。


それを終えると目覚めにウィスキーを一杯。以前までは酒を飲む事など一切なかったのだが、この生活には酒は必須なのだ。しかし、それを嗜む事すら叶わなかった。


「あぁ、クソ!」


酒が切れている。何故だ!? 何故忘れていた! 少ない給料では、ウィスキーを買う金も貯めなければならない。それにも関わらず、古本にしては少し高い本を買い、来月の給料日まで酒無しで過ごす事になった。


「クソ‥クソクソ!!」


あぁ! 苛々いらいらする。何だって私は、酒が無いと落ち着かなくなってしまったのだ。


--にもにも、『私』と云う存在の面影はもう無い。



 安い煙草たばこを吸い。飯はベーコンと卵を焼き、トーストに乗せて食べる。大体の場合、この食事が1日の最初で最後の食事となる。


そして、そのまま仕事場の劇場へ向かう。 


今までの人生で、一度は結婚したが私が、私の無能さ故に仕事漬けの日々になり、距離が生まれそのまま事実上の離婚となってしまった。だから、妻は私がこんな生活をしてるとは夢にも思わないだろう。しかし、私達の間に子供は居ないし。あの時、私は嫌な奴だったに違いない。かえって清々しているだろうな。


だが、やはりあの時、私がしっかり向き合っていれば、と思う時が一日に一回はある。今更後悔しても遅いのだが。


 そんな事を何となく考えながら仕事をしていると劇が始まった。今日は喜劇らしい。しかし、ダークなジョークが多い劇だった。

昨晩あの本を読んでから、すっかりそちら側の虜になった私はその劇を観てさらに詳しくなってしまった。前までは本にしか興味なく、他は無頓着で世の中にも疎かった。


だから妻にも愛想がつかされるのだが。

情報が多いのは、この生活で唯一の利点だろう。観客の服装を見れば流行が、劇を見ればユーモアのセンスが、待ち時間の小話に耳を傾ければその他様々な情報が手に入る。


私はその感覚に、少し得意になっていた。

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