第4話 時を経て

あれから1カ月が経った。1カ月前からちょくちょく連絡は取っていたが、その中に1カ月後にまた会おうという約束をしていた。


そして今日がその日だ。昨日の高揚感を残したまま電話で海斗に起こされ、頭の中は戦略や活躍でいっぱいになっていた。デジャヴだなと感じつつ、薄めの上着を着て玄関を出る。まだ少し暑さを感じる外は季節の変わり目を表すかのようだ。犬や猫は涼しいのだろうか、そんなことを考えながら師走駅へと向かった。今日は海斗は少し遅れてくるようだからゆっくりと歩く。


もう既に師走駅は見慣れた光景となっている。中学から高校まで幅広くお世話になったからだ。昔仲よかった奴らは何やってんだろうな。駅で海斗を待つ間に昔の思い出が蘇えってくる。


その中でも圭也は思い出が多い。海斗ほどではないが、高校3年間ずっと関わってきた人物で仲の良かった人物の一人だ。だが、こいつとは成人式以来一度も会ってない。今何やってるんだっけなぁ。などと考えながら周りを見回す。


あわよくば仲のいいやつに会えないかというダメ元だったが、もちろん居るはずもない。

ん……?あ、居た。突然のことに状況が飲み込めないままっぽい人に近づいみる。


「やっぱりそうだよな」俺は圭也っぽい人に話しかけた。は最初、死んだ魚を見るような目で睨みつけられたが、誰だかが分かると、一瞬で表情を変えた。持っている鞄を掛け直しながらやあ、久しぶりと声をかけてくれた。


俺は海斗が来るまでと話して待つことにした。圭也の高校卒業後や彼女とのその後など俺の知らなかった様々な事を俺が喋る間もないくらいに話しまくった。高校卒業後の話は知らなかったから意外な事も多かったが、俺が今日は何しにきたのかを聞かなければずっと話していただろう。


「今日はsbsを買いに来たんだ」カミングアウトに驚く俺を置いて話を続けた。バイトの金が貯まったから買いに来たらしい。言いたいのはこれだけだろうが、バイト友達とかの事も話された。実際は一割ぐらいしか話聞いてなかったけれど。


今日は何を食べようかな、とかこの前行ったラーメン屋とかいいかもな、とか圭也の話に関係の無いことが頭に浮かび始めた時だった。


ぽんぽんと肩を叩かれたことに気づいた。 か?いや、圭也はずっと話し続けてる。後ろを振り返ると、海斗がいた。


「こいつ誰?」海斗は僕が気付いたとわかった途端に表情を変えて俺に尋ねる。


「高校の友達。というより部活仲間? 」自分もなんで疑問形なのかはわからないまま高校の事や今日会った事を簡単に説明する。


海斗は納得したようなそうでないような返事をして目線をへ向けた。


海斗と話しているのに気付いた圭也はいつの間にか話を止めて俺の話を聞いていたようだ。


「じゃあ一緒に買いに行こうぜ! 」まじかとは思ったが、まあ海斗がいいなら行ってもいいけれど……そう思いつつ行く事にした。


駅に行く途中、海斗と圭也が意気投合してることに驚きつつ、電気屋の外から見える映画の予告を目に焼き付けていた。その映画は戦争をテーマにした流行りそうな映画だ。


店に着くや否や休日の人の多さに驚く。この光景は甘いものに群がるアリの行列とでも言うべきか、商品に目を光らせて、手に取っては戻し手に取っては戻しを繰り返していた。そして、それは俺らも例外ではなかった。海斗はもう既に購入済みで、この店に用は無かったが、店の店主と話している。どうやら会計はバイトに任せっきりのようだ。


結局俺はtー34を、圭也はzisー30を購入した。何故かソビエト戦車が俺のマイブームで!いつか使ってみたいとは思っていたのだ。


店を出てみると青かった空がオレンジがかった空へと色を変えていた。今、気温の上昇が連日の話題になっているが、昔はどうだったのだろうか。「もう先の大戦から80年以上経った今、昔の人も同じ空を見ていたのだろうか」思わず映画の予告にあったフレーズをつぶやく。


「いつかあの映画、観てみたいなぁ」二人に向けて言ったのに、二人で喋ってたせいで気づかれなかったのか、何も反応は無かった。


もうすぐ夜になるのか、今日は時間が経つのが早かったな。一日の感想を考えつつ3人で師走駅へと向かう。空の色は既に濃いオレンジ色から黒がかった色が混じっている。


師走駅に向かう途中、ふと横に目をやってみた。するとそこには大会の告知が貼られていた。近所で行われるようだ。3人で大会の詳細を確認し終わった後だった。


「ちょっとこれ出てみない? 」ちなみに俺は賛成だ、と言うことを海斗に伝えた。圭也もう同じ考えのようだ。


明日、やるか! 俺は二人に提案した。明日はバイトもないし、ひたすらやることができる。二人も賛成してくれた。


貼り紙を見た後は至って普通の会話しかしていなかったが、俺の頭は明日のことでいっぱいだった。まだ10分もしていないのに暗くなった夜の中を歩いて駅に向かう。

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LV 999の戦車兵 @barensiaorengi

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