第3話 共闘
やはり海斗はとても強い。ピンポイントで車体下部を狙うなんて並の実力じゃできない。
「次、どうする?」海斗はとてもご機嫌だ。俺に勝った喜びか、一緒にゲームしてる楽しさかはわからないが、満面の笑みを浮かべている。
「オンライン戦でもやるか」と海斗が提案をした。俺も賛成だ。俺も海斗と一緒にスイッチを押し、先程と同じフィールド、「草原」に出た。
揺れる草木に広い土地。さっき見たせいで不思議と見慣れた光景に思える。
「準備出来たかぁ? 」と海斗が叫ぶ。俺はそれに対して、準備出来たと返答し、レバーを前に倒して前進する。エンジン音も相変わらずだ。一回しか乗ってないが懐かしみを感じるのは何故だろう。
「どう動く? 」とりあえず試合に慣れて入る海斗に聞いてみる。
作戦を聞いては見たが、実際は作戦と言うほどではなく、少し残念だった。
作戦は海斗が先程と同様に家の後ろで待ち伏せし、俺は木の密集地に身を隠して相手の進行を阻止するという作戦だ。
しかし4対4のゲームだから相手の数の方が多い上に、4台の内一台は偵察車などが多く、俺や海斗の位置もバレやすく、こっち側が圧倒的に不利な状況に置かれる。
俺も最初は盛り上がっていたものの、前線に近づくにつれて緊張感が走る。額から滴る汗が俺の手を濡らす。
前の試合と同じ道を通って目的地まで向かう。海斗もちょうど配置についたようだ。いよいよ始まる。全く会ったことのない人との勝負だが……やってやる!
攻めてきそうな場所に集中させ、いそうなところに順番に照準を合わせていった。だが、敵は見当たらない。
その瞬間、急激な発砲音が響きわたる。狙いは俺じゃない。海斗をみると家が破壊されている。海斗が撃たれたのか…? いや、海斗が撃ったのだ。着弾したと思われる場所には緑色の自走砲がぽつんと居座っていた。おそらくホロだろう。動きが止まってるし、とりあえず大丈夫そうだ。
それにしてもすごい腕だ……敢えて家ごと吹っ飛ばしやがった。流石だ……。俺は驚くと同時に、海斗のことを尊敬した。
しかし、代償として、海斗の戦車は自分の姿を晒すような形になってしまった。あと2両か3両かは分からないが、破壊された瓦礫は目立つ上にこんな広い草原だ。今攻められたら海斗に勝ち目はない。
敵に見つかる前に見つけてやる。海斗を守らなければ負けるというプレッシャーが重くのしかかった。
「一旦そっちに引くぞ! 」海斗が俺に怒鳴った。
「分かった」集中していたからか俺の回答は素っ気なくなってしまった。今は海斗を狙わせないことが最優先だ。
だが、どこをみても敵が来る気配がない。
俺はこの時違和感を感じていた。相手の残り兵器数は2か3もいるのになぜ攻めてこない?ホロがやられたとはいえ姿を晒してる海斗の四号戦車を破壊すれば大きく戦力差が開くのに。俺は頭をフル回転させて、思考を巡らせた。
一台も来ないということは防衛線でも張ってるのか? いや、それはないだろう。一瞬で否定できる。防衛線を築くならホロが出てくる訳がないのだ。
なら裏をかかれてる? 俺はハッとした。そうゆうことか……!ホロで足止めもしくは一両は破壊して、残りの戦車で後ろから挟み撃ちしようって魂胆だな。俺の顔が自然とにやける。
「海斗! 逃げろ! 回り込んで来るぞ! 」
「ん……? 了解だぜぇ! 」海斗もピンときたようだ。俺らはすぐに木の密集地に身を隠した。
敵が来るならどこから来る?右か左か正面か、この開けた土地ではどこから来るか分からない。
敵を見張り始めて10秒もかからなかった。すぐに敵の戦車が姿を現した。
「左だ! 気をつけろ! 」俺は海斗に向かって叫んだ。気を緩めてはいけない、という気持ちがあった。
轟音が辺りに鳴り響く。初弾は外した……敵の動きが速い。どうやらBTー7のようだ。次弾を急がなくては、そう思った時には
BTー7は破壊されていた。
「やりぃ! 」1発で仕留めるとは流石だとは思った。というか強すぎるんだよなぁ。
その瞬間、発砲音が鳴り響く。明らかに海斗の発砲ではない。右を見てみると弾痕だらけの戦車が横たわっていた。海斗の戦車が破壊されている。
撃たれた方向からティーガーIが現れた。
BTー7に気を取られている間に破壊しようと考えたのだろうか。そして海斗はまんまと罠にかかってしまったというわけだ。
ティーガーIは俺がやるしかない! 俺がやらなくて誰がやるんだ。
思いっきりレバーを倒し、前進させた。一旦ティーガーIの視線から外れ、回り込めば勝てる…そう思ったが、奴はそれを逃さなかった。
お互い初弾は命中しなかったものの、俺は動いている分奴の方が有利になる。次弾を撃たれたらまずい。俺は少し左のレバーを横に倒し、敵から遠ざかる様に方向転換をする。当たればいいな程度に曲がりながら敵に発砲するが、移動しながらだから命中精度は格段に落ちる。当たってくれ! 心の底からそう願った。
だが、もちろん当たるわけがなかった。
クソッ! 多少の苛立ちを覚えながら一旦は離れられそうなことに安心する。
だが、それは甘えだった。奴は離れていく俺の履帯を切ってきた。これがラッキーなのか狙ったのかは分からないが、こうなった以上今やるしかない。
切られて横滑りする車体を制御しようと左の履帯を回転させてバランスを取る。その一瞬砲塔正面がティーガーIを捉えた。チャンスは今しかない…汗で滲んだ手でスイッチを押す。
押した瞬間、目の前に動かないティーガーIとvictoryの文字が浮かぶ。俺を賞賛するかのような揺れる草木に見慣れた青い空。だが、見慣れた光景だからこそそのような気持ちになったのかもしれない。
「海斗、俺はやったぞ! 」嬉しさが込み上げてきてつい声を大きくしてしまった。俺らが勝ったのだ。実感は湧かないが、初めてのチーム戦は俺らの勝利だ。
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