球磨兄妹のif
ぎる市長
プロローグ
人生の分岐点があるとしたら。
たとえば、見知らぬ少女が赤信号なのに交差点を渡ろうとして車に轢かれそうな時、オレがあの時何もせずただ見ていたのだとしたら今も野球を続けていれたはずだ。赤の他人が死んだという事実だけが残るも、それでも兄妹揃って中学でも野球をしていたはずだ。
だけど結局のところ、オレという人間はあの子を助けるために交差点に飛び出しただろう。手を伸ばし、スマホに夢中なあの子を突き飛ばし、自分の足を犠牲にしてでも守ってみせただろう。
なかなか小学生ができることじゃないんだぜ……
ただ、球磨兄妹の人生の分岐点がここだとするのなら、今回は交差点に飛び出したオレを妹が助けようとして後に続いて飛び出してきた、という予測不可能な事態が起きたということだ。
バカ野郎……
犠牲になるのはオレ1人でよかった。オレはあの子を突き飛ばし妹を庇い死を覚悟した。車のヘッドライトが眩しくて視界が真っ白になった。
真っ白になって―――――気が付いたら真っ白な神殿っぽい所に妹と2人立っていて、目の前に女神様が微笑んでいた。
これは夢?幻?あぁ、死んだから天国に来たんだな。やっと天国にいる父さんに会えるのか……などと涙を流したものだ。
「こ、これは……異世界転生前のチュートリアルだわ」
「お前………」
まずは自分とオレの心配しろよと思うんだが。とりあえず、オレの涙を返せ。
「初めましてー。
赤みがかった長い髪の美しい女神様だ。女神なのだから美しいのは当然なのだが。どこかで見た顔だな。知り合いにこいう顔の人いたかなーと思ったり。でも、身長は父さんよりもデカいな。190以上はありそうだ。背中には白い翼を生やしていて、ちょっと浮いてる。白い地面から5センチほど浮いている。やはり人間ではなく人ならざる女神様だと思った。
つーか、この女神様なんか馴れ馴れしい。
「先生、質問があります」
「私は先生じゃないけど何かなー?」
「私達は異世界転生されるのですか?」
ちげーだろ、まずは天国の父さんに会えるか聞こうぜ、我が妹よ。
「転生はね、死んだ人しかできないんだ」
「そうなんですか……」
なにしょぼくれてんだよ。
「でも、異世界転移ならできるよ!」
「それは本当ですか……!!」
あ、元気になった。つーか、できるのかよ。
「ぶっちゃけて言うと、私ちょっとやらかしてしまいまして、球磨兄妹のキミ達に異世界へ行ってもらおうと思っています!」
「わー」ぱちぱち
「………」
要約するとだな、この女神様は車に轢かれそうになったオレと雪那を助けるためにちょっと魔法を使ったのだとか。本来であれば安全な歩道までワープさせるつもりだったらしいが、張りきり過ぎたそうで神殿(ここ)までワープさせてしまったとのこと。
それで、困ったことにも張りきり過ぎたものだから女神様の魔力が枯渇。すぐに元居た場所には送り返せれないときた。
そして、目下の問題はオレ達兄妹の運命力の低さとのこと。このまま家に帰れたとしても、オレ達は運命から逃れないらしい。球磨蒼士の交通事故がなかった代わりに他の何かが起きる可能性があるという話し。女神様が何かしらアクションを起こした世界はオレに定められた運命に修正をかけようとするらしくて、このままだと、結局は高校に入るまでに兄妹は決別して、兄妹でバッテリーを組んで甲子園を目指すことができない……それが女神様からの聞いた話だった。
だから、オレ達が最悪の運命に打ち勝てるだけの力をつけるために異世界へ転送されることになる。何故、異世界?と思われるが……まず、最悪な運命に打ち勝つには兄妹の絆を強固としたものじゃなければならないらしい。生半可な絆では何かしらの事件に対処できず兄妹喧嘩の末に決別してしまうらしい。だから、命掛けの異世界で兄妹助け合って絆を深めろとのこと。バカな話である……
異世界で命張らないと絆を深められない兄妹とか、もう終わってるんじゃん。
「絆エネルギーがどれほど溜まったかは、目視で確認できるようにこのカードを渡しておくよ。これで確認してね」
プラでもスチールでもなさそうな、よくわかない素材で作られたカードを貰った。
絆レベル0―――と、表記されている。
星マークが10個あって、上下5個ずつ並んでいた。レベルが1上がるごとに星マークが1つずつ輝くそうだ。
裏面は何にも表記もなかった。
女神様曰く、星10個―――絆レベル10になれば女神様の魔力も回復して家に帰還できる魔法を使えるとのこと。だから、オレ達は絆レベル10を目指さなくてはならなかった。
つーか、レベル1上げるための目安がよくわからないんだが。
「ちなみに舞台は中世ヨーロッパみたいな国が沢山ある、魔法と剣とドラゴンなファンタージな世界だよ。冒険するのもよし。魔王を倒すのもよし。どこかの街に拠点を置いてギルドでモンスター狩りをして賞金稼ぎして暮らすのもよし。それとも現代知識を活かして世界情勢を一変するのも一興だね」
基本何をしてもいいそうだ。自由に生きろってさ。世界征服もできるものならやっていいと……女神の言うセリフじゃなかった。
ちなみに、野球の概念はない世界らしく、現地で野球の文化を広めるのも楽しみの一つだと言われた。暇があれば街の人達に遊び程度に教えてもいいんだとさ……オレと雪那はそれを聞いて顔を見合わせた。異世界での目標が1つできたな。
「それじゃ、キミ達が異世界で生き延びていく術として、私からささやかなギフトをプレゼントするよ」
女神様曰く。ギフトとはユニークスキルやらレアアイテムのことらしく、何か1つ欲しいスキルとかあれば何でも言ってくれと。
「先生、私は魔法を使ってみたいです」
「雪那ちゃん。もう一度言うけど、私はキミの先生じゃないんだよ、これが。でも、安心してよ、魔法はギフトじゃなくても使えるからね。試しにあちらに向かって撃ってみよう」
「はい、先生。では、失礼しまして……すべてを燃やし尽くすは灼熱の魔弾、ファイアーボール!!」
あ、本当に雪那の手のひらからファイアーボールが放たれた。しかし、なんともまぁ恥ずかしい詠唱を考えやがるんだか……あとで女神様に、詠唱無しでイメージだけで魔法が撃てるようにしてもらおう。
「じゃ、魔法も体験できたことだし、それも踏まえてどんなギフトが欲しいかな? あ、一応限度ってものがあるんだけど、流石に『死なない体』とか『死に戻り』とかはなしだけど、ある程度のチートなら大丈夫だよ」
ゲームオーバーになってもコンテニューできるとかはさ、そんなのつまらないじゃないか!などと何故かキレられたりもした。
要は、緊張感を持てということ。生と死の狭間で兄妹助け合って生きていけと。
それで、雪那が欲しいギフトは……
「先生。私、右腕から漆黒の炎を纏ったドラゴンを出してみたいわ。それをくださいな」
「はいよー!」
小学6年生が中二病をこじらせてやがる。もっと慎重に考えようぜ、我が妹よ。
「次、兄さんの番ね」
そして、オレの番。そんないきなり言われてもなー。
さて、困った。
「このギフトって能力によっては、魔力使うのか?」
とりあえず、どこか変な落とし穴がないか、慎重にいかないとな。生死に関わる問題だ。
「チートなギフトほど、魔力を沢山使うよ。雪那ちゃんの場合だと、今の段階の許容する魔力でギフト使ったら3回ぐらいかな?」
「切り札みたいでカッコいいわね」
いいのか、それで……本人が良いのならいいんだけど。
あまりチート過ぎても駄目だな。一度、ギフトを使って魔力すっからかんになってしまったら元も子もない。
たとえば、星を真っ二つにする聖剣とか世界崩壊レベルのスキルは論外か。そう考えると雪那の決めたギフトぐらいが切り札的な感じでちょうどいいのか。うーん…
でも、雪那が攻撃特化な感じなので、オレは守備特化なスタイルの方がいいかなと思う。それか、回復特化か支援特化。しかし、こういうのを考えるのは雪那の方が得意分野だ。何かアドバイスを貰おうかなとおもったが、雪那は女神様に連れられて少し離れたところでギフトの試し撃ちをするそうだ。
黒い炎の龍を右腕から出すんだろ?こわ……
「雪那ちゃん、ギフトもイメージが大切だよ。さあ、集中して魔力をガソリンのように燃やして動力源にするイメージをしてみよう」
「はい、先生……!」
攻撃が最大の防御とも言うがな。
オレ達が生き延びていくためのギフトだ……無限お金が製造できるスキルとかどうだろうか。子供がお金を稼ぐって大変だからな。
それか、冒険をするのだとしたらやはり野宿の時とか雨風しのげる建物がほしい。コテージとかそこらへん。現代っ子に野宿はキツイ。暖かいベットが欲しいよな。だから、ビルダー的なスキルがあったら便利だと思う。で、あればドラ〇もんの何でも無限に収納できるポケットとかあれば便利だよなー……などと、オレはスキルというより便利な道具は何だろうかと考えてしまうのであった。
「漆黒の炎より現れしは我が
ちょっとうるさいぞ、アホども。
とりあえず、あとで雪那にはあの恥ずかしい詠唱をやめさせようと思う。
凄い地響きが神殿を揺るがしているが大丈夫か?
「いやー、凄い威力だったね。お姉さん、女神だけどびっくらこいたよー」
「これで兄さんに纏わりつく虫を排除するんです、先生」
「………」
こいつ、イケメンか。しかし、バイオレンスだ。
「で、球磨くんはギフト何するか決まったのかな?」
「えと……」
正直、決まらない。考えれば考えるほど、迷ってしまう。
「あーあー、そういうのを優柔不断だというんだよ。男らしくないなー」
「そうよ、兄さん。兄さんが決められないのなら、私が代わりに決めてあげるわ。先生、兄さんにとっておきの魔眼をプレゼントしてください。先生が知っている中で一番えぐい魔眼がいいわ」
「オッケー、わかった」
「いやちょっと待て!!」
こうして、オレのギフトは『えぐい魔眼』になったとさ……効果は未知数。
「というか、1つ聞きたいことがあるんだけど……」
「何かな、球磨くん。その魔眼の効果なら本番までお楽しみにとっといてよ」
「いや、そうじゃなくて……なんで、お前はオレ達にここまでしてくれるんだ? 正直、意味がわからない。理由を教えてくれ」
「それは……」
「もう。せっかく気前のいい女神様なのだから、野暮な質問はなしよ。兄さん」
「お前は気にならないのかよ」
だって、都合が良すぎて逆に変だろ。運命がどうとか、オレ達が高校で野球を一緒にできないとか、そんなのはオレ達だけじゃないだろ。他にも不幸な人たちがいるはずだ。そんな不幸な人たちにもオレ達と同じように助けてくれているのなら、前言撤回して理由も聞かない。
たかが、小6のオレ達にそこまでの価値があるのか? もし本当に野球ができなくても、オレ達はそれを乗り越えてまた価値のある道を開けれるんじゃねーのか。そんな可能性すらオレ達にはないのか??
だから、オレは聞きたい。オレはこいつの動機を知りたい。じゃないと、異世界で本気になれねーよ。
「球磨くん、私がキミ達を助けるのはね……それは私が球磨兄妹の大ファンだからだよ!!」
そんな理由で……いいのか、女神様。
「球磨くんは敬遠以外は全打席ホームランにしてしまう怪物スラッガー。雪那ちゃんは小学生とは思えないMAX140キロのストレートを投げる怪物ピッチャー。どちらもリトルではちょっとした伝説作ってるじゃん!いつも試合を観ていたよ!お父さんが他界して、お母さんも他の男作ってどこか行ってしまって辛かっただろうけど、2人でこれからも頑張って行くんでしょ!天国にいるお父さんの所まで球磨兄妹の名を轟かせるんでしょ!だから……私も、もっとキミ達の野球がみたいんだよ!もっと応援したいんだよ!甲子園へ行くのも楽しみにしているよ!どんなドラマが生まれるのか毎日が待ち遠しくて仕方がないんだよ!だから、運命なんか負けるな!!私がキミ達を助ける理由はこれだけで十分だよバカ野郎!!」
「「せ、先生~」」
オレと雪那は感激のあまり泣いてしまった。今までずっと我慢してきたものが今になって崩壊してしまったんだ。そんなオレ達を苦楽を共にしてきた教え子のように女神様が抱きしめてくれた。何か暖かいもので満たされていく。とてもいい匂いがした。
というか、なにこれ……恥ずかし。
「それじゃそろそろお別れだね、2人とも……兄妹で助け合って強く生きてね。ここから応援して見守ってるからね」
「先生、お世話になりました」
「……バーカ」
また、視界が真っ白になっていく。皆、さようならは言わなかった。たぶん、また会えると確信していたから。
だから、
「あ、ちょっと待って!! 異世界行く前に『球磨兄妹』のサイン書いてーーー!!」
もう遅いっての。サインなら全部終わってから書いてやるよバーカ。
それじゃ、ちょっくら異世界に球磨兄妹の名を轟かせてみようか。
球磨兄妹のif ぎる市長 @gill_shityo
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