第2話 VS鈴木サキエル
「転生させる人選に問題があると思うんです」
「え?」
後輩が発した予想外の言葉に、僕は間の抜けた声を出してしまった。
もっと、職場での人間関係とか、転生させるために他人の運命を弄ぶことに対する悩みかと思っていたのだが。まさかの職場批判とは。
「どういうこと?」
「私、職場では、上から送られてきた候補者リストに基づいて、誰を転生させるのかを決めているんですけど」
「うん」
「候補者リストにろくな人物がピックアップされていないんです」
「うーん?」
結構、鋭いところに切り込んできたな。
そこは見て見ぬふりをすべきところなのに。
「どうして、コミュニケーション能力の無い社会不適合者……ではなく、陰キャを転生させることが多いのでしょうか?」
「それ、言い直しているようで、全然、言い直していないからね?」
「だって、異世界に転生するんですよ? どう考えても、コミュニケーション能力は必須じゃないですか。それなのに、友達も満足に作れないような根暗の人見知りを転生させるなんて、私には理解できません」
「うーん。そうだねぇ」
僕は曖昧に言葉を濁しながら、どのように取り繕うべきかを必死で考えていた。
ここで、本当のことを言ってしまうのは簡単だ。
それぞれの世界の管理者である天使が、自分の担当する世界から有能な人材が引き抜かれることを嫌って、転生の許可を出してくれないからだ。
だから、どうしても転生候補者リストにピックアップされるのは、管理者が許可した世界公認の「どうでもいい人材」が大半を占めることになってしまう。
勿論、将来有望な人材が才能を開花させずに埋もれてしまうことや、ろくでなしがひょんなことから世界に影響を及ぼす大発明をする可能性はある。
逆転ホームランのような現象が、人生では起こりうる。
だが、それはあくまで確率の話。
ダイヤの原石とゴミの原石、どちらを手放すかと尋ねられれば、答えは決まっている。
ゴミは磨いてもゴミ――――そうなる確率が圧倒的に高いのだから。
異世界転生とは、一発逆転が起こる僅かな可能性にかけて、言わば粗大ゴミをリサイクルに出すようなものなのだ。
(でも、そんなことを言ったら、前途有望な新人のやる気に水を注すことになってしまう)
やる気が無くなるだけなら、まだいい。五月病の治療という名目でまとまった休暇を与えて心身ともにリフレッシュさせれば、良い方向に吹っ切れてくれる可能性がある。
だが、世界管理機構そのものに不信感を抱くようなことがあるとしたら……それはマズい。
天使の社会は、人間以上に階級が絶対なのだ。転生したての新人が、組織の上層部に疑問を抱くようなことは許されない。
(最悪、天使の資格を剥奪されてしまうかも……。それはさすがにかわいそうだな)
ここは相談役を任された僕が、後輩のやる気を損なわないように、なおかつ世界管理機構の在り方に疑問を抱かせないように、うまく言いくるめて納得させる必要があるだろう。
まったく、面倒なことに首を突っ込んでしまったものだ。
もしかすると、上司はこうなることを予想していたのかもしれない。
(性格はともかく、頭の切れる人だからな……)
こうして、誰にも語られることのない僕の戦いが始まったのだ。
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