異世界人事部転生
@torajiji
異世界転生者はクズばかり
第1話 VS鈴木サキエル
約束の時間の十分前に喫茶店に入ると、待ち合わせの相手は既に席に座っていた。
目と目が合ったので、軽く手を上げて対面の席に腰かける。
「先輩。今日は相談に乗っていただいて、ありがとうございます」
「いいよいいよ」
申し訳なさそうに頭を下げた後輩の女の子に、僕は営業スマイルで微笑みかけた。
内心では面倒くさいと思っているが、そんなことはおくびにも出さない。
「後輩の相談に乗るのも、先輩の仕事だからね」
実際、上司から新人の相談に乗るように指示されているので、本当に仕事なのだ。
だから、この喫茶店の会計も経費で落ちる。
「君は、たしか数か月前に配属されたばかりだよね?」
「はい。今月で三ヶ月目です」
「それじゃあ、いろいろ戸惑うのも仕方ないよ。僕も君くらいの時には、右も左も分からない状態だったからね」
なるべく相手の言うことを否定せずに、同調する。
一年目は特に多いのだ。
せっかく選ばれたのに、現実を受け入れられずに、思い悩んで、辞めてしまう新人が。
「最初にこちら側に来た時、驚いたでしょ?」
「そ、それはもう、驚きました。自分にこんなことが起こるなんて……。だって、私、自分は死んでしまったと思っていましたから」
「そうだよね」
僕は相槌を打って、おしぼりと水を運んできたウェイターにアイスコーヒーを注文した。
「それで? 何を悩んでいるのかな? 人事部の……えーと、鈴木さん」
「サキエルです。職場には鈴木が沢山いて、皆からサキと呼ばれているので、もしよかったら先輩もそう呼んでください」
「そう? じゃあ、サキちゃん。君の悩みを教えてくれる?」
僕ではあまり力になれないかもしれないけどね、と。
さりげなく、責任は取らないけど愚痴だけは聞きますよというアピールを付け足して、僕は話を聞く体勢に入った。
*
僕の名前は山田タロエル。
三千世界を統括する「世界管理機構」所属の一介天使だ。
僕たち天使の多くは、人間だった頃に選ばれて、天上世界に転生する。
そこでざっくりとした説明を聞かされて、天使としての仕事に就くことになるのだが……。
当然のことながら、混乱する者は多い。
だって、そうだろう?
転生したと思ったら、今度は転生させる側の仕事に就くことになるのだから。
僕たちはこの現象を、皮肉を込めてこう呼んでいる。
異世界、人事部転生と。
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