第7話 それはお前の台詞じゃねえ!!


 向かい側の受付には紫のローブに三角帽子という如何にも魔導師的な人間が書類にタクトを振って整理していた。何となく気だるげな顔はこちらを見ると片眉を上げながら、仕事だとばかりに頭上から板を取り出した。


「それは新しい冒険人であり、手はこのボードにあてられて、泣く «ステータス» 。, 私が能力を自然に知っている の、する その 時。しかし、王国のベースのため現状ステータスが立証できないので、どうぞ慎重であってください」

「こりゃ翻訳が酷いな……何も分からん」

「魔法適性的なやつを計るのでしょう? その板に手を当てれば良いんじゃないんですの?」

「この世界の人間なのによくわからないんだな」

「だって、私のジョブは剣士ですし」


 彼女は手を組んでふんっとそっぽを向いた。余り気にせず、シャーロットが言う通りに板に手を当てるも何も起こらない。気だるそうな魔導師もこちらを怪訝そうに見ていた。大体、翻訳が不完全なのが悪いのだがなぜか俺のせいにされているらしい。

 見かねたジャリヤが肩に手を掛けながらこちらを見てきた。何故、そんなにニヤニヤしているのだろうか?


「違いますよ、手を当てて«ステータス»と唱えないといけないんです。」

「某所の異世界転移系小説だと、よくあるやつだな」

「ところがこの魔法、常時有効なので間違って詠唱したり普通の会話でも発動しちゃって目の前にダイアログを出しちゃうからめっちゃ邪魔だし、危ないんですよね大きめの街とか大規模パーティーだと全体魔法でダイアログ系の魔法を無効化しているところもあるくらいですし、これも多分基底ステータスのみが測れるように調整されたものなんでしょう」

「なるほど」


 確かに戦闘中の大切な時にダイアログがいきなり出てきて視界を邪魔され、倒されたということではあまりにもアホらしすぎる。必要のないときには無効にしておくのは至極合理的な考え方に感じる。


「ステータス」


 ジャリヤの言った通りに唱えると板の木目に緑色の光が走り、ありがちなSEと共に文字列が板の上の空間に浮かび上がってきた。やはり、文字言語は翻訳されないらしく、オル・チキ文字を三回くらい拷問したような文字が浮かび上がってきた。


「あー、めっちゃ平均的な数値ですねえ」

「はぁ? そんなわけ無いだろ、異世界から呼んできた勇者だろ?」

「勇者ってだけで何でも出来るんだったらすぐに魔王のところに送ってるんですよねえ」

「マジで言ってるのか……もうちょっと、素質を選んで呼んでくることは出来なかったのかよ」

「それが出来たら苦労してませんって」


 ジャリヤは俺を押しのけて板に手を当てる。


「ステータスっ!」


 また、ありがちなSE、浮かび上がる文字列。何もかも同じのように思えたが目の前の魔術師の反応だけが明らかに違っていた。机に手を叩きつけて身を乗り出してステータスを凝視する。ダイアログが透けているせいか、自分が見つめられているとでも思っているのだろう。ジャリヤは非対称に目を見開いて魔術師にガンを飛ばしていた。


「それであるものこの数の値…、…!」

「えっ……? 数値がどうかしたんですか?」

「それであり、何とかしてされた! あなたの魔法の才能は普通の人のそれをしのいでいる」

「おいおい、待て一つ質問していいか?」


 俺はジャリヤの肩を掴んで魔術師に背を向くようにした。


「勇者ってのは俺だよな」

「そうですね?」

「なら、俺のほうが魔法適性が高いってのが物語の筋ってもんだろ?」

「何言ってるんですか、この世界が物語の一片なわけがないでしょう」

「お前こそ今更何を言ってるんだよ……」


 シャーロットは二人の会話を待つのに耐えられなかったのか、自分たちの前に回り込んでくる。


「これってもう勇者様必要ないんじゃないんですの?」

「はぁ、もう砂利だけで魔王倒しに行けば良いんじゃねえか? どうせ俺なんか普通の普通だし」

「勇者がイジケてどうするんですの!」

「お前が原因なんだよ、マジでデリカシーねえなお前!?」

「あれ? また私、何かやっちゃいました?」

「それは絶対にお前の台詞じゃねえ!!!!」


 まあ、仲間が弱くなかっただけ良しとするべきか。心境的には微妙だったが、なんとかそれ以上の言葉は喉元に抑えておいた。


「おう、退けよ、てめえら!」

「邪魔なんだよ、カス共が!」


 何やら暴言が聞こえると思って目を向けると混雑したギルドのなかを人を壁に薙ぎ倒しながら進む人影が見えた。ガタイの良い筋肉質の男、数人が上半身を半分出した状態で待機列を吹き飛ばしてギルドの総合受付の前に立った。

 シャーロットは非常に怪訝そうな表情でそれを一瞥するとため息を付いた。


「知ってるようだな」

「ええ、ランク5.5 パーティー“錆鼠さびねずみ”のメンバーですわ。中堅どころのパーティーとしては有名な荒くれ者集団ですわね……」

「ただの荒くれ者じゃ、無さそうですけど」


 男達のうちの一人がカウンターに手をおいて受付の青年に顔を近づけた。嗜虐に富んだ悪趣味な表情が彼を睨めつけていた。

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