第3話 えっ、アメル先生知らないの?
「シラハヨクリュウが出たんだ!!」
大声が頭蓋を揺らす。飛び込むように入ってきた冒険者様の服装をした男が息を切らしながら、店主の居るカウンターに突っ伏す。店主もジャリヤも驚いた様子で男に注目していた。
「それはどんな種類の物であるか?それは、一体どれが思われたか所のTENであるか?」
「見張りの休憩中に城壁を超えて町中に侵入したらしい。仲間たちが総出で戦ってるが、歯が立たないんだ。応援を呼んでくれって言われてここまで来たんだが……」
あいにく、店内には店主とジャリヤと俺以外誰も居ない。男はへたりながら店内を見回すと嘆くように喘いだ。
「シラハヨクリュウって何だ?」
「C1レベルの魔物ですね……素人が立ち向かうには危険です」
「もしかしてそのレベルってのは、A1, A2, B1, B2, C1, C2って感じになったりするのか?」
「さすがは勇者様! 理解が早くて助かります」
「
いや、偶然なのかもしれない。偶然なのかもしれないけど、それにしても程があるだろ!
叫ぶ俺を見ながら、店主は腕を組む。眉間にシワを寄せながら、何かを考えている様子だった。
「それはさんに不可能であなた、コンタクトを冒険人ギルド都心部と宮殿騎士制度に適用することがほとんどである」
「そうですね、まずは冒険者ギルドに応援を――」
ジャリヤが店主に頷き、外に出ようとした瞬間、轟音と衝撃が襲った。木材が折れて裂けるような音と激しい横揺れに姿勢を保てずに倒れてしまう。見上げれば天井が完全に破壊されていた。
そして、そこには白銀の翼と凶悪な牙を持った
「お前が、勇者かァ! 滅ぼしてくれるわァアアアアアア」
「ま、まずい!」
倒れ込んで茫然自失となっていたジャリヤが立ち上がって両手を白銀のドラゴンに向ける。彼女が呪文を唱えた瞬間、目の前は炎で埋め尽くされた。
「早く、逃げてください!」
ジャリヤの手元から防御魔法らしきバリアが出ている。それのおかげでかろうじて俺は炎からは守られていた。しかし、彼女の顔には大粒の汗が苦しそうな表情と共に現れていた。
「私程度の能力では長くは持ちません! 私のことは置いて早く逃げて!!」
「いや……」
「悩んでる場合ですか、ここで勇者様を失ってはこの世界は終わりなんですよ……。 ゼロレベルの無能の癖にカッコつけないでください! 逃げろってば!!」
ジャリヤの必死の様相にも関わらず、俺は一つの事柄にしか意識がいかなかった。
「違う……」
「何がですか!?」
「なんでドラゴンが人間の言葉を喋ってるんだよ!!! おかしいだろうが!!!!」
俺にとっては当然の疑問だった。
だが、返ってきたのはジャリヤの絶句だった。
「だって、お前そもそも人間と器官の構造が違うのにそんな綺麗に調音できてるのおかしいだろ!」
「……勇者様、薄々気づいてましたけどマジで馬鹿ですか?」
「いやいや、気になるだろ」
ドラゴンの火炎放射もいつの間にか止まっていた。表情が分かりにくいがなんとなくその目が奇妙なものを見るような感じなのが分かる。
「貴様、人間、我が怖くないのか?」
「そんなことより、ドラゴンにはドラゴンの故郷の言葉があるんじゃねえのか? それを喋れねえで人間を滅ぼすとか、無理無理。アメル先生も言ってたろ、“或る民族が奴隸となっても、その国語を保っている限りは、その牢獄の鍵を握っているようなもの”って」
「そんな安西先生が言ってますよみたいに言われても誰にも分からんでしょうに」
ジャリヤがぼやくも当のドラゴンには聞こえていない様子だった。どっちみち異世界の存在に分かるものではなかろう。
「アメ……良く分からんが、ええい、まどろっこしいわァ! 人間も書籍も言葉も全て焼き尽くして言葉のない世界にしてやるわァ!!」
「あ?」
ドラゴンが大口を開けて、ジャリヤも店主も駆け込んできた男も絶望的な面持ちでそれを見ていた。
だがしかし。
気づいた瞬間にはドラゴンは白目を剥いて地面に体を横たえていたのだった。自分でも一体何が起こったのか良くわからないが、誰かがドラゴンを再起不能にしたのには間違いないらしい。ジャリヤが自分の横に立ってその大きい図体を足でいじって死んでいることを確認した。
「はぁ……さすが、勇者様ですなあ。こいつは今日の夕飯のポトフですよ」
「何の話だ?」
「勇者様、ドラゴンが啖呵を切った直後に豹変しちゃって“ドラゴンだ? 貴様この野郎”って言いながらタコ殴りにしてたんですよ」
「ただのヤバイ奴じゃねえか……」
「正直に言って、私は恐れて、それは、利益であるものであるかもしれない」
店主もシャリヤの言葉に静かに頷く。仕草が凄い自然なだけに不自然な言葉が噛み合わない滑稽さを生み出していた。
「そういえば、勇者様は今のでB1レベルになったみたいですね」
「ちなみにB2まであとどれくらいだ?」
「えっと今が、985点らしいのであと少しですね」
「もしかして、経験値って5点刻みで990点でレベルアップだったりするのか?」
「さすがは勇者様! 理解が早くて助かります」
「今度はTOEICかよ!!」
叫ぶ俺を差し置いて、ジャリヤと店主は倒れて動かなくなったドラゴンを腕を組んで見つめていた。
「ともかく、まずこいつをギルドかどっかに処分してもらわないといけないですね」
「私はすでにすでに宮殿騎士制度コンタクトをしていた」
「あー、王宮騎士団ですか。手回しが早いですね」
俺はため息を付きながら、事が過ぎるのを待つことしか出来ないのであった。
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