8
オニールが目覚めると、目の前にナカムラ博士の顔があった。
「博士。ここは?」
オニールは当たりを見回しながら彼女に尋ねた。ナカムラ博士は彼の手を取り、
「エルメスですわよ」と答えた。
オニールは徐々に覚醒し、今までの経緯を思いだした。
そうだ、私は爆発寸前のエクセルシオールからエルメスに戻ったのだ。
現在の状況を知りたかった彼は彼女に、
「無事脱出出来たのか?」尋ねた。
「ええ。あと少しでヴァルカン帯に着きますわ」彼女は母親のような笑みを浮かべて答える。
「そうだ、ダニエルとジャックは?」
彼は二人の安否が気になった
「彼らはコクピットですわ。お呼びしますわ」
「いや、大丈夫だ」と彼はやんわりと断った。今は操縦で気が抜けないときだ。
彼がベッドから降りようとすると、
「大佐!まだ無理してはいけませんわ! 腕の骨と肋骨が何本か折れていますのよ!」
と彼女が慌てた様子で言った。
そういえば、全身がすごく痛い。スラスターで加速した惰性のままハッチに突っ込んだからだ。
「大丈夫だ。なんともない」
それでもオニールはよろめきながらコクピットに向かった。
「大佐! 気づかれましたか!」
ハモンドが言った。続いてカーターが、
「ほんとに、ご無事ですか? 骨も何本かいかれてた様ですが」と心配そうな顔で言う。
「大丈夫だ。少し体が痛いが」
これは嘘だ。激痛で気を失いそうな程だ。
「ところでヴァルカンまで、あとどの位だ?」
「あと十時間ほどで着きます。ついたら直ぐランデブー準備にかかります。目標は例の大型船で良いのですね?」とカーター少佐が答えた。
「うむ。着いたら念のため全周波数で呼びかけてくれ。ひょっとしたら持ち主とコンタクト出来るかも知れん……」と、言い終わらないうちに、胸を抱えてうずくまった。
「大佐! 大丈夫ですか?」ハモンドが慌てて駆け寄る。
メインパイロットのカーターもオニールのことが気がかりではあったが、持ち場を離れる訳にも行かず心配そうに見るだけで精一杯だった。
オニールは近づいてきたハモンド少佐を右手を挙げ制止すると、
「すまん。折れた肋骨が痛むようだ。申し訳ないがしばらくは奥の部屋で休ませてくれ。後は頼むよ」と言った。
「大佐。無理をなさらず私たちにお任せ下さい」とカーターは答えると、機器に目を移し操縦に集中した。
「大佐、ベッドルームまでお連れいたします」ハモンドはそう言って、オニールに肩を貸そうとした。
しかし、オニールは、大丈夫だと言いハモンドの申し出をやんわりと断ると、一人でベッドルームに歩いて行った。
「大佐、大丈夫ですか?」
オニールがベッドルームに戻るとナカムラ博士が心配してやってきた。
「やはり少し、脇腹が痛い。肋骨が痛むようだ」とオニールは答えると、続けて、
「痛み止めを処方してくれないか?」と彼女に頼んだ。
「良いですわ。でも痛み止めはあまり使いすぎると、効かなくなりますわ。今回処方したらしばらくは我慢してくださいね」と彼女は優しげな瞳でオニールを見つめながらそう言うと、薬箱からセルゾンの錠剤を出して、彼に手渡した。
「ありがとう」とオニールは薬を手にすると、口の中に放り込んだ。
「大佐、お水は?」
「ああ、大丈夫さ」
彼は痛み止めの白い錠剤を水なしで飲んでしまったのだ。
「まったく。大佐にはいろいろ驚かされますわ」と彼女は彼に微笑んだ。
「私いつ戻るかと冷や冷やしてたのですよ? ほんと何時もこんなのですの?」
横になったオニールの額の汗を拭きながら博士はオニールに話しかける。
「こんなことは滅多にないさ。もっとも日中事変(20XX年の琉球独立宣言の際中国が琉球国周辺に軍艦を展開し紛争に発展した。このとき尖閣諸島は一時中国に占領される事態になった。琉球国はこの事件を際に日本から独立したが、日本は現在まで独立を認めていない)のときは本当に死ぬところだったが」
オニールは不意にナカムラ博士の手を掴んだ。
「なあ、博士。エクセルシオールの機関室に居るときいろいろ考えたんだが、地球に戻ったら一緒に暮らさないか?」
あまりにも突拍子もないオニールに対して博士は、
「また、お冗談でしょ?」と笑いながら言った。
「冗談なんかじゃないさ。俺は君と結婚したい。それともこんな爺とじゃ無理かい?」
ナカムラ博士は、まだ冗談かと思っているようで「ぷっ!」と吹き出し、げらげら笑い出した。
「そんな、真剣な顔はやめてくださいよ! ふふふ。 どうしてアメリカの方ってこんなに女性を口説くのが上手なのかしら? ふふふ」
おなかを押さえて笑うナカムラ博士に、オニールは、
「わかった、わかった。じゃ、そうだな、結婚前の練習として一緒に住んでくれないか? 僕の家はトリニティ湾が見える丘の上でね。夜景がとてもきれいなんだよ。いちど来てくれ。絶対気に入るよ」と言った。
「そうね。お泊まりに行くくらいなら、ぜひ行きたいわ」
ナカムラ博士はタオルで笑いすぎてあふれた涙を吹きながら言った。
「ところで…」と博士が言い掛けたとき、通信機がピピピと鳴動した。
オニールが通信機のスイッチを入れると、
「大佐、カーターです。 まもなくランデブーポイントです」とガリガリと割れるような音と一緒にスピーカーから聞こえてくる。
オニールは「わかった。今行く」と一言言って通信を切ると、痛む横腹をさすりながら、ベッドから起きるとコックピットへ向かっていった。ナカムラ博士も心配そうな面もちで彼の後をついて行った。
「あの、でかい奴の横につけろ」
オニールがそう言うとカーターはキーボードにデータを打ち込み、ランデブーの準備をする。
「心配なのは燃料です。いくらエクセルシオールからめいっぱいの燃料を移したとしてもこの機体には限界があります」
そんなことは判っている、とオニールは思ったが黙ってコックピットの先の巨大宇宙船を見ていた。
「あとどのくらいだ」
「これから減速をかけますから、それ込みで一時間と言ったところです。すぐ近くに見えますが、今まで知っている宇宙船とは桁違いに大きいですからね。実際はまだだいぶ離れていますよ」とカーターが言う。
全長二キロメートル弱の宇宙船。たしかに口で言うのは簡単だが想像できない大きさだ。
上手くたどり着けるのだろうか? しかし、もう一歩も後には引けない。
「あと十分で減速します。大佐、博士、座席に座ってシートベルトを付けてください」
オニールはカーターの後ろの座席に座りシートベルトを着用しようとするが肋骨にベルトが当たって酷く痛んだ。痛み止めを飲んでいても、感覚を完璧に抑えているわけではないので仕方ないが、正直辛かった。
苦しそうにしているオニールに博士はタオルを持ってきてベルトと肋骨の間に挟んであげた。
「博士ありがとう。助かるよ」とオニールが例を言うと、博士は軽くウィンクをして無言で答えてくれた。
「準備は良いですか?」とカーターそう言うと、皆がOKと合図をする。
そしてカーターはゆっくりと推進用のレバーを下げ、逆に逆噴射のレバーを上げていく。
ゴォーっと逆噴射の耳をつんざくような音ともに激しいGがクルーを見舞った。
オニールは肋骨にかかったベルトが身体に食い込み、その痛みで気絶する寸前だった。
「大佐…」
博士は自身も逆Gに耐えるのに必死だったが、オニールを心配してつい声をかけてしまう。
幸いにも逆噴射は五分で終わった。
「減速完了。大佐! 大丈夫ですか?」
カーターもオニールの事を気に掛けていたようで、すぐさま声をかけた。
「大丈夫だ。 ありがとう」
オニールは礼を言ったが、その返事とは裏腹にわき腹を抑え苦悶の表情を浮かべる。
「ナカムラ博士、オニール大佐の様子を見てください」ハモンドが言うと、彼女は無言でうなずきオニールのベルトを外すと彼をベッドへ連れて行こうとした。
「いや、大丈夫だ。 博士、セルゾンをくれ」と言った。
どうやら薬で抑えこむつもりのようだ。
「大佐、だめです! さっきも言ったじゃないですか! 連続しての服用は薬の効き目が悪くなります。それに肝臓への負担も無視できません」と博士は言った。
しかし、オニールはそれでも、
「いいから、くれ! 今は痛いからといって休んでなんかいられないんだ」と苦悶を浮かべながら言った。
「判りました。それほど言うのでしたら。 でもこれが最後ですよ」
博士は諦めてオニールにピンクの錠剤を渡す。
オニールはまた水なしで薬を飲み下すと、椅子の上でしばし瞑想に耽るように目を閉じたが数分で目を開けた。目の前には件の宇宙船が窓一杯に鎮座している。
「どれくらい離れている?」
「十キロメートルですね」
「まもなくだな」
「ええ。あと数分後にはごく近くまで接近します。ただ燃料も残り少ないです。また減速をしなければいけないですし、なんとかドッキングできればいいのですが」ハモンドは険しい表情で言った。
エルメスの速度からすると当たり前だが、十キロメートルなんて距離は大したこと無かった。あっというまに異星人の船は手が届くほどの距離に近づき、そのディテールもはっきりしてきた。
表面は魚の骨のようにいくつもの溝がうがっており、船尾と思われる部分には巨大な噴射口らしき物が数カ所ほどある。そして船体には無数の砲台が備わっており、まるで巨大な戦艦の様だった。それに引き替え窓のようなものはいっさい無く、艦橋などという物は全く見れない。数多くの死線を潜ってきたのだろう、船体には無数の損傷があり、装甲板らしき物が有ったので有ろう部分は無惨にも構造体が露出しているところがそこここに見られた。
「おい、あそこを見て見ろ!」
オニールがカーターの隣で指をさした。その先には、船体横から突き出した滑走路付きの巨大なデッキがあった。それはエクセルシオールでもすっぽり収まるほど大きな物だった。
「なんとかあそこに着鑑してみましょう」
カーターが言うと、オニールは、
「計算なしで大丈夫か? いくらでかくてもただの空母に着鑑するのと訳がちがうぞ!」
と言った。
「大丈夫です。これでも空母への着鑑は千回以上はやってますから。それにあれはサラトガ(合衆国海軍が保有する原子力空母)より広い」
いずれにしろ、なんとかやってみるしかないのだ。
「よし、おまえを信じる。 やって見せろ」
とオニールが言うと、カーター少佐は、
「アイアイサー、大佐! 任せてください!」と、十代の若者のように威勢良く返事をした。
宇宙船のデッキまでアプローチは自動でも何とかなるが問題は着鑑だ。そもそもこの着陸船は惑星への着陸は想定されているが、空母のような船に着鑑する様なことは想定されていない。そこはもうパイロットの腕に頼るしかないのだ。
カーター少佐がコンピュータにフライト情報をパチパチと入力すると、エルメスは徐々に宇宙船との距離を縮め、背後から徐々にアプローチをかけていった。
やがて、エルメスが、約一キロメートルの位置まで近づくとコンピュータによる航行が手動に切り替わった。
「これから手動で着鑑します。 紳士淑女のみなさん準備はよろしいですか?」とカーターが形式ばった台詞を口にする。
クルー全員は既に着鑑に備え準備済みだ。
船はまっすぐに滑走路に向かっていく、今は相対速度で時速百キロと車並の速度だが、燃料が底をつきかけている。減速しきる前に燃料が切れると着鑑に失敗する。下手をすると壁に激突だ。
カーターは脂汗で額をぐっしょりにしながら操縦桿を握っている。そして距離は五百メートル、四百メートルと近づいていく。幸いにもデッキの中は太陽の光が他の船から散乱されてすこし明るくなっている。
やがて、エルメスはデッキの中に吸い込まれるように入っていった。
始めてみる異星の船だが、驚いたことに中の構造は地球の物とさした違いは無く、至って常識的な構造であった。
「減速します。 衝撃に備えてください」
カーターはそう言って間もなく減速を開始した。
時速百キロと車のスピードとたいして変わらないが、さすがに急ブレーキを加えたときとおなじで強いGがかかる。
「ダニエル、あの枠の中に着鑑させよう」
オニールが黄色いラインで囲ってある部分を指さした。どうも着鑑した小型船を下の階層に運ぶエレベーターのようだ。
カーターは制御スラスターを器用にコントロールしながら指定の場所に近づきゆっくりと着鑑させた。
どうやら弱いながらも人工重力の装備があるらしい。着鑑した機体は甲板にぴったり付いて離れない。
「乗客のみなさま、本船は無事に鯨の胃の中に進入出来ました」カーターは満面の笑みで言う。よほど上手くやり仰せたのがうれしかったらしい。
「ダニエル、ご苦労だった」とオニールがねぎらったが、直後に異変が起きる。
ガクン! 突然船全体が揺れたかと思うと、船体が徐々に下方へ沈んでいく。どうもエレーベータは稼働していたようだ。
「おい、ダニエル! おまえ何かやったのか?」オニールは想定外の状況に驚きカーターに尋ねるが、当たり前だが彼も訳が判らないといった表情で、慌てて計器を調べる。
「特に何もやってないのですが…」
船は徐々に下に下がっていく。船が甲板の下にすっぽり隠れるまで下がると、船の上はすっぽりと別の扉で覆われて真っ暗になった。
どうやら、この宇宙船の格納庫にに連れて行かれるらしい。
「大佐、どうします?」
ハモンドは顔には不安の色も見せなかった。内心はどうかわからないが。
「仕方ないだろう。ここは下手に動かないで様子を見よう」オニールはわき腹をさすりながら言った。
不思議なことに今はさほど痛みを感じない。そして不安も全く感じない。彼の感はここが安全であることを確信していた。
やがて、エレーベータの降下は終了し、前方向に動いていく。しばらくすると大きな壁の前で止まった。
「何が起こるんだ?」
カーターは思わず小声でつぶやいた。
「大佐、気圧です。船外に気圧を検知しました」とハモンドが伝えてきた。
どうやらここはエアロックらしい。
「気圧0.七気圧で止まりました」とハモンドが言い終わらないうちに前方の壁がゴゴゴと大きな音をたてながら、向こう側に倒れていく。向こう側は照明が点灯してるらしくかなり明るい。
前方から小型のカートのようなものがするすると近付いてくる。誰も乗っていない、無人だ。その無人カートはアームをするすると延ばしエルメスの牽引アンカーにひっかけると、引っ張り始めた。
驚いたことに大型トラックよりも重いこの船を簡単に引っ張っていく。どうやら局所的に重力をコントロールしているらしい。この船の直下だけ人工重力はオフになっているみたいだ。そうでなければ理屈が通らない。もっとも人工重力を物にしているほどの科学力なら造作も無いことだろう。
エルメスは無人カートに引っ張られ宇宙船の格納庫らしきこのデッキの中央まで移動させられた。カートはアームを外し、折り畳んで仕舞うとまた何処かに立ち去っていった。
「どうやら、船の持ち主に招待されたらしい」オニールはそう言うと、ハモンドに、
「現在船外の気圧、大気組成、有害ガス、放射線はどうなっている」と尋ねた。
「気圧は0.7、組成は酸素二十パーセント、窒素七十五パーセント、水蒸気パーセント、二酸化炭素1パーセント、アルゴン0,9パーセント、ヘリウム、水素微量、有機ガス成分測定限界以下。 放射線は一時間あたり一マイクロシーベルト以下。エクセルシオール内より低いです」
この宇宙船を作ったエイリアンの技術力が伺いしれる。こんな太陽に近いのに、まるで地上に居るかのようだ。オニールはそう考え込んでいると、前方が赤っぽい光で点滅している。赤い光は特に近づいてくるわけではなく、壁か天井に固定された光源から発せられているようだ。どこか赤色灯のような物であることが想像出来る。
「ダニエル、あの光はなんだと思う? さっきは無かったが」
カーターは腕を組んでひとしきり考えたが、
「さて何でしょう? 見当も付きませんが。なにかこちらに来いと言っているように思えます」と言って首を振るだけだった。
ハモンドは、
「行ってみましょう。船の持ち主からの招待かもしれません」と言った。 どちらかというと慎重なハモンドにしては随分乗り気だ。
「私はすこし不安ですわ。今は気圧が有るかもしれないけど、いつ排気されるか判らないじゃないですか?」
ナカムラ博士はすこし不安な様だった。
「大佐はどうされます?」
カーターがオニールからの返事を伺う。
「うーむ。しばらく様子をみたい。未だ敵か味方かわからないからな」
オニールはナカムラ博士のこともあり、すこし気が乗らなかった。
「そうですか。 私も大佐と同じ意見です。 もしエイリアンが居るならもっと具体的なコンタクトをとってくるはずです」
カーターはいつもよりも冷静だった。
この中では積極派はハモンドだけか。
オニールは前方の赤い光を見つめていた。
小一時間ほど過ぎただろうか、前方からの赤色灯は相変わらず、明滅を続けていたが、エイリアンからのコンタクトの兆候はいっさい無かった。ハモンドは無線の全周波を使って呼びかけているが、いっさいの応答は無い。
「どうやら、本当に全くの無人の様だな」
オニールはついつぶやいた。
「いつまでここに居てもらちがあかない。行動に出るとしよう」
オニールは席をすくっと立つと、
「全員、機密服を着用、十分後にここを出る。以上だ」と命令した。
「大佐、お怪我の具合は大丈夫なのですか?」
ナカムラ博士がオニールのことを心配している。
「ああ、大丈夫さ。それに博士もいる」
オニールはにこりと笑って彼女にウィンクをする。
十分後四人はエルメスのタラップを降りた。
「いいか、すこしでも息苦しさを感じたら、バイザーを閉じて、循環装置のバルブをあけろ」
オニールが言うと三人は無言で頷く。
四人はそろそろと赤色灯の光っている場所に移動する。人工重力のせいで、機密服の背中に背負っている機材が重く肩に食い込む。
もともと水星程度の弱い重力での運用を前提にしているため、重力の影響は考慮していないからしかたるまい。
赤色灯の所までいくと想定通り、そこは出口らしく、高さ二メートル以上の大きなドアがある。扉には何か、ピクトグラムのようなものが表示されている。人間が歩いているような図案だ。どうやらここのエイリアンは少なくともヒューマノイドで有ることを示唆している。
「大佐、ドアを開けます」
カーターはハンドル上の大きなドアの取っ手をぐるぐると回わして扉を開けた。ドアの向こうをは大きな通路がある。壁にはピクトグラムで場所を指し示しているが、今一つ意味が分かる物をは無かった。
「ここからは二手に別れよう。ダニエルとジャック、君たちは左側に進んでくれ。私はナカムラ博士と右に行く」
オニールはそう二人に命じると、ナカムラ博士に、
「ナカムラ博士、宜しく頼むよ」と言った。
通路内はうす暗かったが、歩くだけなら申し分ない明るさだった。オニールたちは迷路のような通路をひたすら歩いたが、行き止まりや崩壊で散乱した構造物にじゃまされて、調査は捗らなかった。
オニールは時たまカーターたちの班に無線連絡を入れたが、あちらも大した収穫は無いようだった。途中武器庫らしきものを見つけたようだが、あまり使えるような物は無かったようだ。それでも小銃数丁と弾薬を三箱を入手出来たようだ。思わぬ襲撃があった場合に使える。
「大佐。機関室のような場所を見つけました。 驚いたことにまだ動作しているようです。おそらくこの機関室から供給された電力を使っているようですね」
カーター少佐から報告があった。
「面白い! 調査を続行してくれ」
オニールはそう言うとわき腹をさする。
「未だ痛むのですね」
ナカムラ博士が心配そうな顔で言う。
「ああ、すまん。心配をかけてしまって」
「セルゾンも持ってきましたわ」
ナカムラ博士は機密服のグローブを外すとオニールにセルゾンを飲ませた。
「ありがとう、博士。もう薬が効いてきたよ痛みが消えていく」
「さすがに、未だ効くのは早いですわ。きっとプラセボ効果でしょうね」と博士がクスッと笑った。いくら何でも薬が効くのは早すぎだと思ったのだろう。
しかしオニールは本当に痛みがすうっと消えたと感じたのだ。気のせいではない。
「もう大丈夫だよ。行こう」
オニールは立ち上がり、移動を開始した。
しばらくすると、これまで歩いてきた通路より広い通路に合流した。ブリッジかCICに近いのかもしれない。
さらに歩くとこれまでより大きいドアに出くわした。ドアは開け放たれており、ガラス張りになっていて内部が容易に確認ができる。
オニールと博士は中に入るとそこは いくつもの電子機器が設置してある大きな部屋だった。中央には大きいテーブルとコンソール。真上にはいくつものモニターが設置されている。周りにもおびただしい数のモニター、操作卓があり、一部は中二階構造になっていて、そこは赤光で明るくなっていた。
「大佐!」
ナカムラ博士の声にならない悲鳴が聞こえる。
そこにはいくつもの人骨があった。
「おそらく乗務員の遺体だろう」と、オニールは言った。
それにしてもみる限り人間の遺骨と変わらない。大きさも、取り立てて大きいとか小さいとかはない。
「博士、見てください。この人骨は我々と何ら変わりないですよ」
オニールがそういうと、博士も気を落ち着いたようで冷静になって答えた。
「そうですわね。どういみても人の骨ですわ。でもとても年月がたっているように見えます。まるで原始人の化石みたいに」
オニールは骨の一部を手に取ってみた。見た目はやはりただの人骨だ。ただ経年変化で化石化している。
「ますます謎だな。しかしこれでは、乗務員にコンタクトをとることは難しくなってしまった」
オニールは骨をそっと置くと、無線のスイッチを入れ、カーターに連絡を取った。
「ダニエル、こちらオニールだ。いま、CICらしき場所に入った。いくつか興味深いものを発見した。そちらの状況を教えてくれ」
「こちら、カーター。 こちらはいくつかロボットの残骸を発見しました。戦闘用のものと思われますが動作はしてないようで、害はないと思います。以上」
「よし、それの写真を撮って後で送ってくれ。調査は続行して適当なところで帰還してほしい。以上だ」
「了解。無線を切ります」
これは興味深い。乗務員は居ないとは言え、間違いなく地球外生命体の船だ。化石化している人骨が乗っている船なんてどう考えても現代のものじゃない。しかし、我々と全く同じ人骨はどう説明できる?たまたま人間に似ているエイリアンなのか? それとももっとSFっぽく考えれば、タイムトラベルに失敗した未来人かもしれない。いや、それよりも宇宙人と考える方が自然だ。それとも本当は現代のもので太陽からの未知の影響で加速度的に劣化したのか? もしそうであれば我々も危険だ。いやいや待てよ、いくらなんでも現代の技術ではこんな巨大な戦艦(オニールはすでにこの船は戦艦と断定していた)なんて作れるはずがない。やはりこれは異星人のものだ。
オニールが思索していると、ナカムラ博士が急に、
「大佐、あれは何ですの?」と、言った。
ふとみると中二階部分の壁にゆらゆらとなにかが反射している。
何だろうか? オニールはナカムラ博士になにも答えず、ふらふらと脇から中二階部分に引き寄せられるように近づいていった。
そして、そこには目を疑うようなものが有った。
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