6
NASA指令本部から送られてきたプランは、想定通り、直ちに減速して軌道にとどまり、コールドスリープで救援隊を待つというものだった。
オペレーションルームでオニールは一通りプランを説明したが、クルーたちの顔は明らかに不安に満ちていた。
「船長、そのプランだけに頼って良いものでしょうか? 現状、燃料は残り少ないです。もしプランに間違いがあり、少しでも救援が遅れたら、我々は太陽に突っ込むことになります。それよりもいっそ、水星に戻って着陸して待った方がいいのではないでしょうか?」とハモンドが言った。
「良いか? ゴールドスリープカプセルはどうする? とてもじゃないが全員の分なんて運べない。たとえ運べたとしても、今度は食料の問題がある。コールドスリープでいくら代謝を限界まで下げたとしても、ブドウ糖などの供給は必要だ」
オニールがそう説明すると、ナカムラ博士が挙手をした。オニールがナカムラ博士の発言を許可すると、
「私はNASA本部のプランに賛成ですわ。此処は下手に動くより、本部の考えたプランに従った方が生存率はあがると思いますの。 それに向こうの識者たちが検討重ねた結果の最善策だと思いますわ。ただ、ハモンド少佐の意見もわかりますの。ですから私は本部のプランに加えてこうしたらいいのではないかと思いますわ。それは……」
と彼女は言いかけるとホワイトボードにすらすらと図を書き始めた。
「最初の一ヶ月はプランに従い、減速して軌道を維持します。そしてそのとき使用した軌道補正に使用した燃料、太陽への降下率などを計算します。そこで燃料が底を着くまでの時間を概算します。バラツキを考慮して救援部隊の到着予定日プラス半年以上軌道が維持できれば、本部のプランで行きましょう」
彼女はホワイトボードの大きな円、それをとりまく点線、そしてエクセルシオールを模した矢印、小さな円を示しながら説明をした。
「ナルホド。でも最初の一ヶ月で燃料がつきたらどうするかね?」
ヴァンダイク博士はホワイトボードを凝視しながら彼女に疑問を投げかけた。
「それは……」と彼女は言葉に詰まってしまった。
オニールは、
「博士、その危険性は十分ありますが、通常の経過観察で引っかかりますから、直ぐ判るはずです。一日で十分の一減っていれば、誰でも気が付く。実際にはコンピュータでモニタリングするから、もっと早く気づくでしょう」と、彼女をフォローした。
俺はなんで彼女のフォローをしているのだろうか、やはりあの一件で司令官として冷静な判断を下すべき立場にあるはずの俺は、彼女に対して特別扱いをしてしまうほどに理性より感情に支配されつつあるのだろうか? この決断に私情を挟むべきでは無いのだ。
オニールは彼女への感情が自身の行動に影響を与えているのではないかと懸念した。
髭面のドイツ人は、そんな彼の感情など知ったことでは無いのだが。
「では、すこし話を変えましょう。仮に燃料制御が上手く行ったとします。でもスラスターの故障やまたデブリに遭遇することは考えていますか?」と、丸いめがねの奥から鋭い眼光を放ちながら話を切り裂いてくる。
「残念ですが、デブリとスラスターの故障までは考えていませんわ。でも、それを考慮しても周回軌道に留まった方が助かる確率は有ると思いますわ」ナカムラ博士はそう言うと席に座って考え込み始めた。
「ヴァンダイク博士、貴方の知識と洞察力には感服いたします。しかし、それだけのことを言うからには他に良い御考えは有るのでしょうね?」オニールがヴァンダイク博士に問うと、彼は、
「ええ、もちろん。そうでなければこんな話は致しません」と自信あり気に言った。
オニールは少しむっとなったが、心を抑えて博士に、
「わかりました。では博士のプランをお聞かせ願えますか?」と尋ねた。
ヴァンダイク博士は、すっと立ち上がりホワイトボードのナカムラ博士の書いた図を消去すると、毅然とした表情で話し始めた。
「私は今の装備の状態を維持したまま、地球への帰還することを提案します」
彼の何者にも異論は挟ませないという自信にあふれた表情はかえって皆を懐疑的にさせた。
「博士。いくら何でも冗談が過ぎます。メインエンジン無く、燃料も三分の一しかない状況でどうやって帰るんです?」オニールは半分呆れて言った。
昨日は水星で救援を待つなどと突拍子もないことを言っていたが、今日は言うに事欠いて地球に帰るだと? 何を考えているんだ?
しかし、そんな場の雰囲気をものともせず、博士は、
「大佐、我々は今何処に向かっていますか?」とオニールに話かけた。彼は何を今更と思いつつ、
「そんなことは判ってますよ。ヴァルカン帯小惑星群です」と憮然とした表情で答えた。
博士はオニールの怪訝な顔を無視し、
「そうです。ヴァルカン帯小惑星群です。 しかし進路をすこし変えるとどうなります? そう太陽に突っ込みます。そして太陽の重力圏から逃れられなくなる。だけど、それをもう少し角度を調整すればどうなるか判りますか?」と、再度オニールに問うた。
意外なことに彼の話を真っ先に気が付いたのは、ナカムラ博士だったようだ。彼女は瞬時にして、彼が何を言わんとしているかを理解し、まるでパズルやゲームを攻略した子供のような笑みを浮かべた。
「ナカムラ博士はお気づきになったようですね。そうです、太陽の重力を使い、スイングバイを行います。少々古典的な手段ですが、うまく利用すれば思ったより早く地球に帰れるかもしれません。すこし複雑な計算が必要ですが、帰れる確率は一段と高くなりますし、なにしろ時間も節約できる。救援用の船の建造が多少遅れてもその分地球に近づけますからね。ひょっとしたら救援船も不要になるかもしれません。帰還は一年もあれば十分でしょう」
なるほど、一見うまくいくように思える。しかし、この計画、何か問題はないのだろうか? オニールは何か心に引っ掛るものがあり、博士に、
「博士、斬新な提案ありがとう。しかし、この方法は何処かに重大な問題を含んでいるので無いのだろうか? 本部がこのプランを検討しなかったことは無いと思うが?」と、言った。博士はその点について、
「そうですね。ただ一つだけ危険はあります。それは計算を間違えた場合、太陽の重力圏に捕まるという事です。ただ、私が計算したところ周回軌道を維持するプランと比べ、その危険度は互角、あるいはむしろ低いといっても良い位です。
もちろん、この案をごり押しするつもりは有りません。船長とみなさん、そして指令本部で検討してもらってからで良いと思います」と、計画の正当性を訴えた。
オニールは、
「判かりました。本部に提案してみましょう」と、博士に言うと、他のクルーに、「他の者は意義は無いか?」と問いかけたが、結局、誰も反対する者は居なかった。誰もが此処で軌道を維持して待っているより、此方の方が最善だと考えたのだ。
だが、誰もが最善と考えたこのプランは後々、彼らにとんでもない試練を与えることになる。
NASA本部にヴァンダイク博士の提案を実現可能か打診したところ、意外にも直ぐに検討に値すると返答がきた。計算などは今しばらく時間がかかり、三日のうちには航行プログラムを送ることができるだろうとのことだった。
「三日ですか。おそらくぎりぎりのタイミングになりますね。すこしでも遅れると、この計画は失敗することになりますが」ヴァンダイク博士は険しい表情で語った。
オニールはオペレーションルームのホワイトボードをペンでカツカツと叩きながら、
「それは向こう《アメリカ航空宇宙局》も懸念してます。とにかく燃料が限られているので早い段階で軌道補正は掛けないとならないと言っていました。そうしないと減速の際の燃料が枯渇する恐れがあると聞いてます」と語った。そして、クルーたち皆に顔を向けると、
「ここで皆に、新しいミッションがある。太陽接近するのは滅多にないチャンスだ。帰還オペレーションに入る前にまだ三日間の余裕がある。その間にクルー全員で協力して太陽とヴァルカン帯の観測を頼みたい」と続けた。
イスにふんぞり返ったカーターは両手を頭の上から外すと口を屁の時に曲げ、
「まあ、良いですよ。 どうせ時間も空いてるし」と皮肉混じりに言った。
「では、早速モニターを初めましょう、僕は望遠鏡と電磁波の測定をやります」とハモンドは彼と比べ割と協力的な様子で答えた。
結局、カーターはハモンドと共にヴァルカン帯小惑星群の、ナカムラ博士は太陽からの影響を監視、ヴァンダイク博士はオニールとNASA本部と並行して軌道の計算を続けることになった。
「すこし懸念することが有ります。ヴァルカン帯をどうパスするかです。今この船はヴァルカン帯に進路を取っています。しかし、ヴァルカン帯はパスして太陽の重力圏、熱影響の限界点ギリギリでスイングバイしなければなりません。怖いのはヴァルカン帯が公転軌道からどれだけばらついて廻っているかです。分散があまりにも大きいと避け切れませんし、はぐれ小惑星があると衝突のおそれがあります。カーター少佐とハモンド少佐には念入りに観測をお願いしたいところです」
ヴァンダイク博士はメガネをシャツの裾で拭きながら言った。
「そうですか。二人には観測に力を入れるよう言っておきましょう」
ヴァンダイク博士は少し不安そうな表情で、
「それと、太陽風、フレア、電磁波も影響を考慮しなければなりません。この辺はナカムラ博士は専門分野では有りませんが」
と続けた。無理もない、ナカムラ博士はそもそも医療系の学者だ。こういうことは専門ではない。
「人が少ないのだから仕方がない。場合によっては君のサポートが必要だよろしく頼む」博士は無言で頷くがすこし心配のようだった。
と、その時、ピピピッ、ピピピッと呼び出しのアラームが鳴った。
「どうした?」オニールが腕のコミュニケーターの通信ボタンを押すと、小さい画面にカーター少佐が映しだされた。
「船長、至急観測室に来れますか? もしそこにヴァンダイク博士がおられるなら博士もご一緒お願いします」
また何か厄介事だろうか?
「何か非常事態か?」
オニールが恐る恐る尋ねると、カーター少佐は意外な答え返してきた。
「いや、非常事態と言えるものではないですが、すこし有り得ない事が見つかりまして」
彼の答えにオニールは少し拍子抜けをしながら言った。
「ありえないこと? なんだ?」
しかし、カーター少佐も困惑した顔で、
「ちょっと説明に困りますので直接観てくださった方がいいです」と答えた。
何か重要なことには違いないようだ。オニールはとりあえず、自分の目で確認する必要があると判断した。
「わかった。すぐ行く」
オニールは通信を切ると博士に、
「ちょっと一緒に来てくれませんか? どうも手に余る事態のようです」と告げた。博士もただ事ではない事を察したようで、
「わかりました。行きましょう」と即答した。
二人は書きかけのホワイトボードをそのままにして、オペレーションルームを出て観測室へ向かった。
観測室は居住区と着陸船格納庫の間の区画にあり、観測用のドームを備えている。実際に人間が直接ドームにでる事はなく、そこはもっぱら遠隔操作の観測機が備えてあるだけだ。カーター少佐とハモンド少佐はそこでヴァルカン帯の小惑星について観測をしていた。
オニールとヴァンダイク博士が観測室へ入るとカーター少佐は待ちかねてたように、二人に話しかけてきた。
「大佐、
オニールとヴァンダイク博士は何事が起きたのだろうかといった表情でモニタを観た二人は絶句した。
距離は地球から月と同じ程度離れているため、まだ不鮮明ではあるが、そこにはいくつもの人造物とおぼしきシルエットが写っていた。それはとても自然に出来たとは思えない幾何学的なシルエットだった。
「これは一体…」オニールは絞り出すような声でようやく口を開いたが、それ以上は言葉が出なかった。
「ヴァンダイク博士は惑星物理学が専門と聞きましたが、自然にこんな幾何学的なものが出来ますか」ハモンド少佐は博士に質問するが彼からしばらく答えは無かった。
「いや、ありえない…。しかもこんなにたくさん…」博士はようやく声を発したが、それだけ言うことが精一杯だった。
別の部屋で太陽の観測データをまとめていたナカムラ博士もこの騒ぎが気になったようで部屋に入ってきた。そしてモニターを見るなり、
「何かSF映画みたい」と一言つぶやいた。
SF映画。そうだSF映画だこれは。こんな大きな人工物は宇宙船にしか見えない。しかもそれが何十とある。
「ナカムラ博士、これはSF映画の写真じゃないよ。現実だ。これがヴァルカン帯の小惑星の正体だよ」オニールはまだ宇宙船かどうかの確証もないのに思わずそう言ってしまった。
いや、まだわからない。光の加減で偶然そう見えるだけかもしれない。しかし、こんなに大量に偶然が重なるものか?
このモニターで確認できるかぎり、ロケット型、扁平な楕円型、宇宙ステーションのような大きなリングと紡錘が組み合わさったもの、葉巻型の先端にいくつものドーム状のものが合わさったもの、円盤とパイプが組み合わさったもの。そして一段と大きいアリゲータのようなもの。
「この小惑星の大きさはわかるか?」
オニールはワニのようなシルエットの小惑星を指して言った。
カーター少佐はモニター上端にあるルーラーアイコンをクリックしそのワニ型小惑星の全長を計測し、
「二キロメートル弱です」と結果を報告した。
宇宙船にしてはかなり巨大だ。人工の都市か何かだろうか? しかしこんな太陽の近くで?
いずれにしろ明らかに人類のものでは無い。よほど寒がりの宇宙人か? 身体が金属か珪素でできている宇宙人ならあり得るかもしれないが。
「非常に興味深いですね」ヴァンダイク博士がようやく重い口を開いた。
「あれが何なのか判るまで近づくのに後どのくらいかかる?」と、 オニールは、カーター少佐に質問した。
「ギリギリ判別できるなら、あと二日。クッキリとした画像撮るためにはプラス一日です。今の観測機の解像度を最大に上げてもです」
だめだ、後三日のうちに本部からスイングバイ用の計算結果とプログラムが来る。間に合うかどうか微妙だ。かといって観測を優先には出来ない。我々が帰れなくなる。
「なかなか上手い具合にはいきませんな」
ヴァンダイク博士はぶつぶつと何かつぶやきながらボソっと言った。
「ダニエル、ジャック、とにかく観測を続行してくれ。こんなチャンスは滅多にない。出来るだけ多くのデータをとってほしい」
オニールは大声で両少佐に命令をすると、ヴァンダイク博士に尋ねた。
「博士、あれはなんだと思う? 太陽光による錯覚かなにかか?」
「判りませんね。 いままではそう言うケースが多かったですがね。火星の人面岩とかモノリス、ピラミッド。まだかなり距離が有りますからなんとも言いようがありません。ただ私の個人的な感想を言えば、地球外生命体の遺物であってほしいとは思いますね。大佐とカウフマン博士が見つけたという、宇宙機の事もありますから」
博士はそう言って頭をボリボリと掻いて、
「では私はオペレーションルームに戻りますよ。まだやることが残っていますから」
と言い残して観測室を出て行った。
NASA指令本部からの計算結果と新しい軌道プログラムは、彼らの徹夜での頑張りもあり、一日前倒しで二日目に送られてきた。
少なくとも二日以内に制御スラスターを噴射してヴァルカン帯をかすめるように進路を変更し、あとはそのまま太陽の近傍を通過しスイングバイで角度を変更する。そして、そのまま進み水星の引力を使って加速し、金星の近傍で再び減速、後は地球に接近し、そのままスイングバイとスラスター噴射で減速し救援船とランデブーを行い、彼らに救出してもらう。というのが、今回の作戦だ。
ヴァンダイク博士の計算結果とつきあわせてみたが、特に矛盾点もなく修正なしでいけるだろうという結論に至った。
「博士、準備どれくらいかかりますか?」
とオニールが博士に尋ねると、彼は、
「デコードとチェックサムの計算を含めて半日もあれば出来るでしょう。それよりも機器のチェックの方が厄介ですね。
あくまでもプログラムはスラスターが期待通り働くことが前提ですから。一つでも要求スペックを満たさなければ計算のやり直しです。ですから機器のチェックは念入りにお願いしたい」と、ぶっきらぼうに答えた。殆ど寝ないで考えてたのだから致し方有るまい。
「わかりました。チェックは私とダニエル、ジャックでやりましょう」オニールはそういうと観測室に向かった。
観測室にはいるとカーター少佐はイスの上で、ハモンドは壁にもたれて寝ている。
オニールは壁をドンドンとたたくと普段より五割り増しくらい大きい声で二人に言った。
「休んでいるところを悪いんだが、起きて俺の話を聞いてくれないか?」
二人とも身体をビクビクっと痙攣させ目を覚まし、あたりを見回す。
カーター少佐はオニールが居ることを認知すると、
「なんです? 今度は?」ともらした。まだ意識がはっきりしてないようだ。
オニールは手近な椅子に腰掛けると二人に、
「さっき地球からプログラムと航行プランを受信した。プログラムを入力するのはさほど手間じゃないが、スラスターの動作をチェックしなければならない。今回は私も手伝おうと思っている」と概要を説明した。
「わかりました。早速始めましょう。いい加減モニターとのにらめっこも飽きてきたんでね」カーター少佐はアクビをしながらそう言った。
「助かる。ダニエル。ところでヴァルカン帯の観測はどんな調子だ?」と尋ねた。
カーターは眠そうに眼を擦りながら、
「いや、まだなにも分からないですよ。相変わらずシルエットしか分からないですし」と答えた。
「わかった。続きはナカムラ博士にやってもらおう。お前らはさっき話したことを早速実行してくれ」
「アイアイサー」と二人が敬礼すると、オニールも敬礼でかえした。
オニールとカーター少佐は制御ルームでモニターによる機器チェックを行っていた。
「ダニエル、そっちはどのくらい終わった?」オニールは支給品の電子たばこを口からはなしてカーター少佐に現在の進行状況を確認した。
「まだ五分の一です。大佐は?」カーター少佐はすこしいらついた声で言った。思ったほど順調ではないようだ。
「こっちは三分の一終わったところだ」
すでに半日以上経過しているのだが、想定より時間がかかっている。テストのやり方が拙くて手間がかかっているためだ。
「大佐もまだ三分の一ですか。ま、自分よりはましみたいですが」
時たまカーターの瞼がぴくぴくと痙攣しており、その顔からは疲労が伺えた。
「このテストプログラムは、いろいろ融通利かないですね。設定する項目が多すぎです。しかもこの言語、いつの時代の代物ですか? これ、二十世紀の代物じゃないですかいまどきHAL/Sなんて使っている奴いないですよ」
「まあ、そういうな。おそらくスペースシャトルの時代からずっと使っているものを、そのまま流用してるんだろう」
オニールはそうは言ったものの、心の中ではカーター少佐と同じ意見だった。ただ此処でグチっても始まらない。今はひたすらテストするのみだ。
「いま、こことここ、あとそれもやってとりあえず休憩します。頭がぼーっとしてミスしそうです」
ついにカーターも限界がきたのか、四分の一も終わらないうちにサボタージュしてしまった。
「ダニエル、限界がきたなら、ジャックと交代しろ。 いいな?」
そうは言ったが、さすがにオニールも限界に近づいてきた。誰か代わって欲しくなった。
オニールが目の疲れから休んでいると、誰かが制御室に入ってきた。ナカムラ博士とハモンドだ。
「大佐、お手伝いしますわ。すこし休んでいらして」ナカムラ博士は、黒い瞳をきらきらさせてオニールに言った。
「ああ、助かるよ。でもこれのやり方判るか?」
「大丈夫ですわよ、これでもこの船の組立は私も手伝ったんですもの。それにハモンド少佐もおりますし」
「ああそうだな。では一時間ほど代わってくれ。すこし休むよ」
オニールは椅子から立ち上がるとふらふらと制御室を出て行った。
ハモンド少佐は博士を気遣ってか、
「大丈夫なんですか? 博士もあまり寝てないでしょうし」と彼女に言ったが、彼女は、
「大丈夫ですわ。 私はまだ若いんですもの」と彼女はガッツポーズをして笑った。
「さて何処から始めましょうかしら?」
彼女はぱらぱらとテストファイルを閲覧すると、
「
ナカムラ博士は黒く長い髪をゴムで後ろでゆわくと、オニール大佐が座っていたコンソールに座る。そして、右側のモニターに映し出されているテスト項目をみると、
「ははーん、ここまでやってありますのね。じゃ、この先をやれば良いのですわよね?」
彼女はそう言い終わらないうちにキーボードをカタカタと打ち始めた。
言葉よりも先に行動するタイプだな、とハモンド少佐も、慌ててテストに手をつけた。
半日経過後、オニールとカーターが休んでいる間に二人は残りの項目をてきぱきとこなして、テストは終了させてしまった。
オニールとカーターは休憩が終わって、制御室に入ってきたころ、すべてのチェックは終了していた。自分達が寝ている間にあっと言う間に片づけてしまった、彼女達を気まずそうに眺めながら、
「すまん、結局半日休んでしまったよ」と頭を掻きながら言った。
これでこの二人には頭があがら無いな。とオニールは思った。
「みんなご苦労。これなら最初から二人に任した方が良かったな」オニールは彼女達をねぎらった。
彼は続けて、ヴァンダイク博士に、
「
「こちらすべてオーケーだよ。プログラムのロード完了している。あと実行ボタンを押してもらうだけです」
「了解。博士、ありがとう」とオニールは彼に礼を言うと、クルー全員に連絡を入れた。
「それでは諸君全ての準備が整った。これより地球帰還ミッションを実施する。なお、プログラム実行後は進行方向の補正の為、暫くは船体にGが架かる。クルー全員は操舵室の所定の位置に着いて、ベルトで体を固定するように。いいな」
オニールの話が終わると、クルーは皆今迄の仕事を止め、操舵室に移動していった。
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