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「ベッキー、二時間後のエクセルシオールの乗員達をシャトルに案内してさしあげなさい」
ニジンスキーはミューズ乗組員の一人、レベッカ・ローズに言った。
レベッカは身長百八十センチの割と大柄な女性だ。ブロンドの長い髪の毛をソバージュにしている、典型的なアメリカ白人女性だ。
「オニール大佐。はじめまして、レベッカです。お噂はかねがね伺っていますが、今まで中々一緒に仕事する機会が無かったですが、今回のミッションで少しだけですが、一緒に仕事できて光栄です。
「こちらこそ、はじめまして。局の食堂で君を見かけたことあるよ。あと、ミューズミッションのパーティーだったかな? 小さいお子さんを連れて来てたね?」
「あら、よくご存知で。たしかに息子を連れて行ったのを覚えてますわ」
「今日は短い間だけど、よろしく頼む」
オニールはレベッカと握手をすると他のメンバーとともにシャトルのハッチまで歩く。
「シャトル内は少し狭いですけど我慢して下さい。十分程度でつきますので」
レベッカはそう言うと、皆をシャトル……といってもフォードエコノラインくらいの大きさだが……のハッチを開け、皆に入るように促す。そして、最後にレベッカ自身が入ると、ハッチを閉めた。操縦席に座ったレベッカはシャトルを始動し、通信用ヘッドセットを装着するとモニタに向かい、
「こちら、レベッカ、シャトルワン発進準備完了です。発進許可願います」と告げた。
「こちら、ミューズ司令室。ニジンスキーだ。発進を許可する」
ガゴンッとドッキングクランプが外れた振動がシャトル内に響く。シャトルは制御スラスターを噴射してステーションからそろそろと離れていった。
そして、ステーションから十メートル程度離れると、くるりと回転し、同じ軌道上にある探査船エクセルシオールのドライドッグに機首を向け、メインエンジンを点火して発進して行った。
ステーションからドライドッグまでは直線で五キロ程度あるが、目視では殆ど見えない。シャトルは五秒ほどメインスラスターを噴射しただけだが、五キロ先のドライドッグへ飛ぶには十分の推力だった。
「さあ、あれがあなた達の船。エクセルシオールよ」
その宇宙船はロケットのように筒状の船体で横から三本のイオンロケットエンジンが支柱パイロンを介してつながっている構造になっている。そして円錐状の先端には着陸用の機体が収められている。
シャトルはエクセルシオールの真横まで行くと減速し、機体を横につける。エクセルシオールからドッキング用のボーディングブリッジがせり出してくると、シャトルはスラスターで姿勢制御しながらブリッジに近づいていく。
船内にガツンとドッキングした衝撃が伝わると、シャトルのコンソールにグリーンのランプが灯り、ドッキングが完了したことを知らせた。
「さ、着いたわよ。ハッチを開けるから出てちょうだい」
レベッカがハッチを開けると、エクセルシオールのボーディングブリッジの照明が点灯する。
オニールらが船内に入ると、ミューズの船員達が最終チェックをしていた。
「どう? 問題なさそう?」レベッカが聞くと作業を指揮しているジェイコブが、
「全て問題なしです。いつでも発進できます」と言った。
「よろしい。オニール大佐、何かございますか?」とレベッカはオニールに尋ねた。
「当初の設計からなにか変更あるかね? 自分らはレビジョン1のマニュアルで訓練してきた。操作方法で変更点があるなら教えてほしい」オニールはジェイコブに向かいそう言った。
「オニール大佐」ジェイコブはオニールに敬礼すると、
「ユーザーインターフェースに関しては特にありませんが念のため、最新のマニュアルはじょのタブレットにインストールしてあるので目を通しておいてください。それとすべてコンピュータがやってくれますので、人間がやることは殆どありません。ご安心下さい。 あとご存知かと思いますが、コールドスリープは半年おきに一度一人だけ解除されます。異常がないか確認するためです。もし解除する順番を変えたい場合は。コールドスリープの項目にプログラム方法がございますので確認してください。一応六ヶ月後最初に目覚める予定になっているのは大佐です」
「ああ、分かった、多分問題ないよ。ミッションまで起こさないでくれって奴は居るかもしれないから確認しておかないとだな」オニールはそう答えると、ジェイコブは敬礼した。
「それでは、自分の役割はここまでです。ご武運を祈ります」ジェイコブは再び敬礼すると、シャトルに向かった。
レベッカもオニール達に敬礼すると、
「じゃ、暫く会えないけど、頑張ってね。みんなが戻ってくる頃にはおばあちゃんになってそうだけど、忘れないわ」と告げると、シャトルに戻っていった。
「じゃ、オニール大佐、それとエクセルシオール乗組員のみんな、成功を祈るわ」スピーカーからシャトルの音声が聴こえてくる。
モニタに映し出されたシャトルはエクセルシオールから離れ、一分もしないうちに漆黒の闇に消えていった。
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