第二章

第38話 エストワール王国記

『エストワール王国記』

――――九番書庫保管書籍。異常発生のため調査任務を要請する。物語の概要は以下の通り。後半はタイムイーターによる侵食のため解読不可。


 エストワール王国は長年、島を二分している隣国のカルム帝国と小競り合いが絶えない国ではあるが、緑が豊かで温暖な国である。この国に二人目の王子、ソレイユが生まれた。第一王子は体が弱く、恐らく将来王として国を治めるのは体の丈夫な第二王子。世間は次第にそう認識するようになった。

 そんな国の期待を一身に背負った第二王子・ソレイユ。大人しい第一王子・クシャンとは打って変わってやんちゃで、城内どころか下町まで走り回る彼を王家は微笑ましく見守っていく。しかし、穏やかな日々も長く続かずにクシャンは十歳でこの世を去ってしまう。涙にくれた八歳のソレイユはそれまでよりも落ち着き、将来は立派な王様になるのだと決める。亡き兄との約束でもあった。

 兄・クシャンの死は病気が原因である。しかし、その死にも憶測が飛び交っているのも事実であった。聡いクシャンはきっと誰それの悪い計画を聞いてしまったに違いない、いやいや、ソレイユがかわいくて仕方がないお后様がクシャンを殺してしまったに違いない――ソレイユはそういった噂話を一切信じなかったものの、いらだちはあった。尊敬する兄と両親が侮辱されたように感じていたのである。早く大人になりたい――そう思っていたソレイユは15歳という若さで王位を継承することとなった。王は年嵩で、自分が生きている内に王のなんたるかを教えるため、早く王位を譲ることに決めたのである。

 戴冠式を控え、お祭りムードとなっている王国の街。しかしそこには帝国の刺客が紛れ込んでいた。王城へと忍び込んだ暗殺者はソレイユへと襲いかかるが、厳重な警護とソレイユ本人の武術で退けられてしまう。すんでの所で暗殺者を逃がしてしまうものの、ソレイユは顔を隠す布の隙間から見えた暗殺者の瞳が忘れられなかった。夜明けの太陽の輝きの色をした瞳――その美しさに心奪われてしまったのである。

 ソレイユは、戴冠式までの間に何度も暗殺者のことを思い出していた。美しい瞳の暗殺者は小柄で、恐らくは女性だった。一人で王城の警備をくぐり抜けて自分に刃を向けた彼女に感心していると言うと、教育係でもある年の離れた従兄弟・ルネは呆れるが同意もしてくれた。ルネにその暗殺者を捕まえたら一度話をしてみるといい、と冗談交じりに言われてソレイユは是非そうしようと本気にするのであった。

 戴冠式の日、ソレイユはパーティの席にあの朝日の輝きのような瞳を見つ(ここから先、解読不能。)

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