第二章

豪雨の夜更け

第7話 帰路

 車に乗り意識か途切れた俺は、気がつくとB.Jが運転する彼の愛車の47Protocol (プロトコル) に乗っていた。


「大丈夫かサイバー?!待ってろ、直ぐにモーテルに着くからな!」


「‥‥ああ。」


とは言ったものの、出血が止まらない‥‥服を破り、包帯代わりに巻き、応急処置はされているものの、気を失っていた時間が長かったのか、意識が朦朧としている。


--伝えなければ。


「聞けB.J。」


B.Jは怒った様な口調で、俺を止める。


「それどころじゃない! 喋るな!」


しかし俺は無視をした。当然だと思った。最悪、俺が死んでもB.Jがやり遂げると考えたからだ。


は居る。奴は恐らく、改造した武装ドローンで狙撃。しかし、それ故に弾を外した。そして、爆弾は事前にウォルターに接触し、仕込んだんだろう‥‥ゲホッ」


口から暗赤色と、少しの鮮紅色が飛び出す。マズい。動脈も傷付いているらしい。しかし、俺はやめなかった。


「奴は恐らく、全盛期のウォルターと関係性がある‥‥いや、ウォルター以外の様々な分野のアウトローと繋がりがある。そして、れを『コントロール』出来る『すべ』を持っている‥‥」


B.Jは半ば泣きそうになりながら、俺に説教をする。--お前は仲間想いが過ぎる。


「お前! こんな時に‥‥どうかしてるぞ!!」


「‥‥だからだ。」


「‥‥ッ!」


すまないB.J。俺は良識の無い人間だ。落ちこぼれさ。だからこそ、--『プライド』が邪魔をする。


俺は、この仕事が好きなんだ。この仕事をこなす事に喜びを感じ、れが『生き甲斐がい』となっていた。いや、この生き方しか知らないんだ。


だからこそ、この仕事をやり遂げないといけない。


『それは一種の強迫観念や、呪いじゃないか!』とお前は云うだろう。が、それで良い。--俺にはもう何も残っていないんだ。


何の為に生まれたのか、何をするべきなのか、もう忘れてしまった‥‥いや、元々もともと無かったのかもしれない。


 そして死期を悟り始めた頃に、B.Jが小さな声で言った。


「‥‥くだらねぇ。」


俺の考えている事など、B.Jには容易に想像出来たんだろう。‥‥流石だな。


「お前は『死』を考えねぇヤツだ。お前はいつも無茶をやってきた。」


B.Jの声が震えている。最初は『怒り』だと思ったが、直ぐに『哀しみ』だと判った。


--今でも俺を信じているんだ。


「だから、お前は死なねぇ。絶対に死なせねぇ。死んでも全身義体化して帰ってくる様なヤツだ。だから今回も、『無茶をやって帰ってくる。』」


そうだ。B.Jは俺を、俺と同じくらい‥‥いや、もしかしたら俺以上に知っている。だからこそ、俺がみちを見失った時、殴ってでも俺を矯正してくれる。


機械と人間が混ざり合い、複雑になり過ぎたこの世界で。俺が『俺』で居られる様にしてくれる。


--アイツは俺なんだ。


「その通りだ。」


「‥‥判ったか?」


「あぁ‥‥バッチリと。」


B.Jが声を震わせる。今度は『怒り』でも『哀しみ』でもなく『含み笑い』で、だ。


俺もそれに応える様に、空元気からげんきで大声を出す。


「笑ってないで早くしろ! 意識が朦朧としてんだ!」


「なら黙ってろ! この!」


こうなったら最後。俺達は誰にも止められない。誰にも負けない。次は脚が飛ぶか、首が飛ぶか。それでも俺達は絶対にやり遂げる。


無茶をやってきたんだ。また帰れる。そう、信じていた。俺達は、いや。--俺は、そう信じていたかったんだ。


--雨は一層強くなる。

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