5話目 想起
空が暗い。夜だ。気が付いた。血は‥‥流れている。つまり、誰かに運ばれたが、手当てはされていない。--敵か。
雨の中、此処には冷たく錆び臭い鉄や、柔肌を傷つける細かく鋭い廃棄プラスチック、虫が湧く様な生ゴミが山になって在る。
俺のフェイスガードも、デバイスも武器も、左手も無い。身体には力が上手く入らず感覚も無い。それに気付く喪失感と、それによる
--しかし、それ以上に最悪の気分だ。
それは、錆び臭い鉄や、廃棄プラスチックや、生ゴミの中で蠢き合っている虫の所為ではない。それはここが、様々な思い出のある。生まれ故郷の、あのゴミの山だからだ。
--あの日も雨だった。
俺はとある思い出を想起させていた。俺達がまだコードネームで呼ばれていた時期、俺が『クリップ』と呼ばれていた時期。俺には特別、仲の良い友達が居た。当時『ジョー』と呼ばれていたB.J以上に仲の良い友達だ。彼女は『グリーン』と呼ばれていた。それは、彼女の瞳が綺麗なエメラルドグリーンだったからだ。
グリーンは身体が弱く、しょっちゅう咳をしていた。きっと、心臓も弱かったのだと今となっては思う。しかし、体調が良い日には一緒に色々な所に行った。ゴミの山を抜け出す様に。
初めは、俺の秘密基地。そこにはゴミの山から使えそうな物を掻き集め、様々なツールを作ろうとして失敗したガラクタや、簡単に作れる便利ツールがあった。それらを見せるのはグリーンが初めてだった。
グリーンに成功作である便利ツールを自慢していると、グリーンが
「これ綺麗‥‥」
失敗作のデバイス
「そんな物は光るだけのガラクタだ。捨て置いてくれ。」
それでも彼女は捨てず、
「でも、こうすれば‥‥」
と言い、デバイス擬きを光る冠にしてくれた。彼女にはセンスがあった。俺が一生かけても手に入れられないセンスが。そこに惹かれた。いや、それ以外にも惹かれていたのだ。
彼女はそれをそっと俺の頭に乗せ、
「王様みたい。」
と俺に優しく微笑んだ。その時だ。俺はこの笑顔をもっと見たいと、彼女の喜ぶ事をしたいと、決心したんだ。その後も、喜ぶ姿を見たくて2人で色々な所に行った。
当時、B.Jが
そして、最後の夜。俺は彼女をKinkCityの外壁近くにある花畑に連れて行った。そこで、彼女に花冠を作ったんだ。練習したが相変わらず不細工だった。
「俺にはセンスがない。」
しかし、彼女はそれでも『綺麗』だと、またあの笑顔で微笑んでくれた。俺はエメラルド色の瞳に恋してたんだ。
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