1話目 事の経緯
俺はライアン・サイバレイン。『ハイドロ・ダイナミクス社』から極秘に光学迷彩の回収を依頼された、"何でも屋"だ。
何でも屋は傭兵と何ら変わりない様に思えるが、傭兵ほど洗練されてもいない。生まれ持った名前はない。 自分で自分に名前をつける。名付けされる前の『コードネーム』を、そのまま名前にしたり、少しひねりを加えて
名前にすることもある。
殆どの何でも屋は孤児だ。生き方も年上の、孤児だった者に教わる。俺が育った時は内戦があり、大人達は徴兵や労働者として集められていた。俺等の親達もきっとそうなのだろう。
コイツらが俺の本当の家族だからだ。
俺達はゴミの山に捨てられ、生きる為に何でも屋になる。そして、それ以外の生き方を知らない。生への渇望こそ全てだ。つまり、死ぬ奴は死ぬ。俺は文字通り何でもやってきた、暗殺、強盗、恐喝、護衛‥‥
依頼され、金さえ貰えれば何でもやった。だからその道ではある程度の信頼度があった
まぁ、大企業様のことだ。他の連中にも収集をかけている事だろうと思っていた。
しかし、違った。
俺が思索を巡らせながらも、依頼内容と報酬について、しっかり目を通していると、代役のスーツ姿の男が突然、こう言い放った。
--「他の連中は殺された。」
『殺された』? 今、そう言ったのか?
俺は思わず耳を疑った。まるで思考を読まれているかのようだったのもある。
恐らくだが彼は他の連中にも同じ質問をされたのだろう。しかし、何故そんなにも殺されているのだ?
問題はそこじゃあない。何でも屋の中でも、俺以上に腕が立つヤツを幾人も知っている。其奴らは慢心せず、誰にも背を向けず、銃を片時も離さず、いつも殺気に満ちていた。
そいつらが『殺された』?
いや、冷静に考えれば当然なのかもしれない。
俺達『何でも屋』は群れを嫌う。
金さえ貰えれば何でもする輩だ、いつ背後から撃たれてもおかしくない。だから基本的には一人で任務を遂行する。だが、仮にも相手は"ヤツ"だ。
ヤツとは"Traper(トラッパー)"と呼ばれている『凄腕の何でも屋』の事だ。語源はTrap(罠)から来ている。もっとも、教養のないやつが多いこの界隈はこの言葉が合っているのかも、罠師というのを指しているのも、殆どの者は分かっていないだろう。
トラッパーは男とも女とも言われているし、人間ともロボットだとも言われている。生まれたのは200年前といわれ、何に対しても姿を見せず、依頼の受け方は第三者を通すか、電子メール、電話、ずっと昔に有った手紙まで、様々な方法で引き受ける。前金も報酬も桁違いに高いが、依頼は必ず完璧に達成する。
--100パーセントだ。
暗殺においては対象の行動パターンを予測し罠だけで仕留めている、まさに『伝説』だ。
だが、名前を知っていても存在しているかは未だ不透明だ。信じなかったヤツも居るだろう。其奴らは慢心して、死んだ。当然だ。
相手は相当な手練れだろう。仮に自分等が用意周到に準備し、装備も一級品、全身義体化という、最高の状態で、束になっても勝てるかどうかは分からない。
本来は断るべきだ。
しかし、俺はつい先日の仕事で長年使い続けていたオリジナルの義手が破壊され、それを新調するのに相当な額を借金をした。
それにこれほど大きな仕事はなかなか無い。俺は快く引き受けた‥‥と言いたいところだが、やはり気が気じゃなかった。
盗み出された擬似光学迷彩は、磁場を発生させ、光を意図的に屈折させ、使用者を透明にする。というものだ。
しかし、幸いなことに、それは開発途中の物で、継続時間は1秒ほど。一般的に考えれば、まだ希少なガラクタ程の価値しかなく。犯罪に使うなんて言語道断だと云われていた。
だが、ヤツが本当にトラッパーならば。その『1秒』すら俺にとっては命取りとなる
トラッパーの伝説が本当ならば、その光学迷彩を改良し、継続時間を延ばしている可能性だってある。
技術力、戦闘力、智力、全てが桁外れだ。準備や予想だけでは、まだ足りないだろう。
--何かしら改変が必要だった。
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