エイリアン到来

 小さな頭にぎょろりとした大きな目。

 つるりとした肌におちょぼ口。

 宇宙人はどこかにいると、誰かは言う。


 * * *


「はいチーズ!」


 スマホを掲げてレッツスマイル。

 指ハートなんか作って顔の傍に置く。ちょっとした小顔効果……とか何とからしい。まあ、最終的には加工しちゃうんだから良いんだけどね。

「ねー、M」

「なあに、T」

「エイリアンって居るのかなあ」

「またその話?」

「アトム! アポロ! スペースシャトル! わわわわーわわ。宇宙の星!」

「他の人がびっくりするから突然の熱唱やめて」

「第一章! ジャララララーン! 美人のエイリアンを探してお宝探し!」

「もう良いって」

 早速写真加工アプリを開きながら顔やら体やら足やらいじり始める。

 目はもう少し大きくしたいかなぁ。

「わわわわーわわ、わわわーわわ。シャトルしゅごおおおっ」

 鼻筋入れて、足はもう少し長く……いや、赤ちゃんみたいにしても良い?

「わわわわーわわ、わわわわわーわ。――ハァイ、お姉さん元気?」

「どっ、どわわわ、どさくさに紛れてナンパしてんじゃねぇエロガキ!」

「僕のロケットが火を――」

「止めろ、公共の場だから!」

 耳を無理矢理引っ張ってこちらに引っ張り戻した。

 またどこかに行こうとする所にエイリアンの写真を突き出して引き留める。


 彼には少しおかしな所がある。


「ふぅー……ちょっとはじっとしてられないの?」

「わわわーわ。僕は宇宙に敏感なんです。わわわわ」

「知ってる」

「だから僕好みの女の子見つけるとお誘いしたくなっちゃうのです」

「……何に」

「アアア、僕のロケットが火を」

「だからやめれっ、公共の場!」

「はふふーふ……興奮してきましたぁ」

「おい」

「美人れすね、このエイリアン」

「……勝手にして」

 そこで会話は一度途切れた。

 また勝手にロケット着火しないように今度は片手を握りながら。

 ……。

「ねー、M」

「なあに、T」

「エイリアンって居るのかなあ」

 ……。

「……さあ、どうだろね」

「居るんですか!?」

「見たことないから知らない」

「えー。それは残念ですー」

「そうだね」

「わわわーわ」

「……」

「わぁー」

「……」

「……」

「……っていうかさ」

「はいです」

「Tってさ、何でエイリアンと付き合いたいの?」

「だってムラムラするじゃないですかぁぁ!!」

「ちょ、ばか! 声が大きい!!」

「美白! 眼光! ――あと何かちょっとキモイ」

「おい」

「そういう宇宙の神秘! 不気味! そんな気持ち悪いのが遥か遠くから来訪するんですよっ! ムラムラしませんか! 嗚呼! アトム! アポロ! スペースシャトル! わわわわーわわ。宇宙の星!」

「だから恥ずかしいってば! ちょっと黙っとけ!」

 そこでようやく彼は止まった。

 私の作業も終了した。SNSに写真を貼り付けてネットの宙へと流していく。


 #彼氏と原宿なう


 今日も、暑い。


「ああー……エイリアン混ざってないですかねぇ。美人のエイリアン」

「地球人の中に?」

「そうです」

「……そうだねぇ」

「混ざってたら求婚なのです。わわーわ」

「夢がある」

「そして星雲までハネムーンなのです。わわわわ!」

「はは……ってか案外もう混ざってたりして」

「ええっ!? 本当なのですかっ!? どこっ、どっ――あっ! そこのお姉さん!」

「え!? ちょ! 馬鹿お前! 彼女を見ろ!」

 そう立ち上がりかけて――。

 ――いや、どうせビンタされて半泣きで帰って来る。

 ならばムキになるのも馬鹿らしいか。

 ほぼ諦めて座り直した。

 周りを見れば、どこもかしこも大きな目の集団。小さな口の集団。小さな頭の集団。


 ジュースの氷がからん、と鳴る。

 セミの声が妙に煩い。


 SNSにあげた目だけで顔の半分を占領する我が写真を、何でかもう一度見直した。


 * * *


 我々地球人は写真加工の末の末に遂に人体改造に乗り出した。

 最近のブームは口の端を縫ってうさぎみたいにする、「おちょぼ口」。

 そして眼球に特別なシリコーンだか何だかを注入して眼を肥大化させる「巨眼」。

 少女漫画のようだと、写真加工をした後のようだと、これが若い女子にウケた。

 ご老体は相変わらず「親から貰った体に……」と言うが、今や人体改造は地球人のマストだ。世界の半分が好きなアニメキャラに近付いていくこの現状を直視できないのでしょう。

 倫理問題は追いつかなかった。

 今やこの星は光速を超えている。


 ――嗚呼。


 小さな頭にぎょろりとした大きな目。

 つるりとした肌におちょぼ口。

 知らず、私達は宇宙に近付いていく。


 こうしてエイリアンは、地球に降り立っていく。

(おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

38度の頭蓋の中で 星 太一 @dehim-fake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ