殺人狂
ある日、人を殺した。
ある日、本当に本当にひょんな事で人を殺してしまった。
ナイフを持つ手が震える。
血なんて付いてはいないけど、確かにそのナイフで人を殺した。
たった一つ上の優しい人だった。
悔恨の殺人狂が姿を現した。
それからというもの、些細な失敗を起こす度、その一つ一つを悔やむように。
やらかした自分の人形を滅多刺しにする殺人狂が追いかけてくる。
解答を間違えた。
ざく。
タイミングを間違えた。
ばし。
立ち上がるべきでないところで。
ぐしゃ。
心臓を槍で一突きが常だった。
それ以上を行く時は滅茶滅茶に人形の胸を千枚通しで刺しまくる。――それが数日に渡って行われる。
兎に角罪を犯した自分が許せない。
こんな奴は要らないと、意識の上で自分を処刑する「自分」が絶対的に必要だった。
屍は今ではとうに幾千を越えている。
* * *
……渠が心配。
余りに大きな事件に心を壊してしまったのか、何なのか。
ずっとナイフを手放せないでいる。
きっと渠は誰かに――いや、殺してしまったあの人に許して貰いたいのかもしれない。
それがこう、歪みに歪んだのがあの山だ。
全部同じ顔の人で出来た山……。
少し気味悪い。
「他者」という絶対に傷付かない場所から人を殺す事に今、悔恨など無きに等しい。
傷付いた自分を殺めてその苦しみから解放させることに既に快楽を得ている。
でも、本当にやりたかった事はこれじゃないんでしょう?
元々は、「そんな事してしまった自分はここには居ない」って自己防衛する為ってだけで……。
そう。人間はよく目的を見失う。
小論文のような小さな原稿用紙の上でさえ直ぐに目的を見失う位なんだから。
そう。人間はよく理性を見失う。
自分の主張を言い聞かせる為に熱中してしまう人が多いから、この世では議論の上で火災がよく発生する。
よくある光景だけど。
貴方は本当にそれで満足なの……?
* * *
「満足に決まってるだろ」
ぐさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます