第8話思い出

子供の頃、瑞樹はとても体が弱く、入退院を繰り返していた。小さいときの記憶は、ほとんどは病院の天井だった。


このまま、ゆっくりと死んでいくのだろうか。


死というものは当時の瑞樹にとって、とても身近な存在であった。

病気や薬の副作用で苦しく、生きているだけなのに、辛くて辛くてしかたなかった。

死ねるのなら、早く、死にたかった。

病気の症状なのか、副作用なのかよくわからないが、体に一切毛が生えず、皮膚が弱く、日に当たることができない体であった。

生きる希望もなく、緩慢なる死をまっていた瑞樹に変化があらわれた。


親戚の見舞いに来た彰と友人になったのだ。


母親につれられてきた彼は、大人たちが会話している間、病院を探検し、瑞樹の病室に入ってきた。

病気で寝てばかりいる瑞樹に彰は漫画や児童向けの小説を読んであげた。最初、お見舞いにきた親が親戚たちと話こんでいる間の暇潰しであったが、次第に目的は逆転し、瑞樹と遊ぶのが主となっていった。

特撮ヒーローの変身ポーズをとる彰に合いの手をいれたり、一緒にプラモデルを作ったり、週刊誌の漫画を声をだしてよんだりと。

半月ほどの短いあいだの出来事であったが、瑞樹にとってはかけがえのない宝物のような思い出と時間であった。


やがて転機が訪れる。


東京の病院で新薬の治験者をさがしているという知らせであった。瑞樹の病気の症例は珍しく、なかなか治験者が見つからないのだという。新薬の効果のほどは、はっきりとわからないが、うまくいけば治るかも知れないというものであった。


少年はかけにでた。


なぜなら、健康になってもっともっと彰と仲良くなりたかったからだ。


新薬の副作用は少年の肉体と精神にはかなりつらかったが、瑞樹はそれにたえた。


やがて、彼はその病気を克服した。完全ではないが、日常生活に支障はきたすことはない程度に。激しい運動などはできなかったがそれでも彼にとっては十分であった。


病気を克服した彼に神様はひとつのものを与えた。誰にも負けない、ダイヤモンドにもひけをとらない美貌であった。すれ違うひと誰もが振り返る秀麗で端正な風貌。ただ、毛髪は奪われたままだった。


成長した彼は、自分の精神が肉体の性とは異なるということに気がつく。それにともない、彰への気持ちが恋心へと変化し、増長し、際限なく膨れあがり、心の世界を埋めていく。


そして久しぶりに大阪にもどってきた瑞樹は、念願の再会を果たす。だが、彼の隣には、猫のように愛らしく、ふっくらとした女性らしい体をもつ健康そのものの百合がいた。

顔立ちでは負ける気がしなかったが、所詮、どこまでいっても自分は男……。


体についている一部分を見て、瑞樹は言った。

「こんなのいらない」

と。

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