第6話帰り道

会場から駅までは、地下街を歩いた。

瑞樹は彰の手を離そうとしないので、仕方なく、彰は手をつないで歩いた。

ただ、その仕方なくは彰の心の中の言い訳にすぎない。

しっとりと体温の温かい手は心地よく、瑞樹からほんのり漂う柑橘系の香りは嗅覚をやさしく刺激した。

軽く手を引く瑞樹にされるがままに彰は歩みをすすめる。

人込みをするするとぬけ、気がつけば人が誰もいない地上への出口となる階段の踊場に来ていた。


ゴウゴウと地上の風の音が聞こえる。


くるりと振り向き、

「今日はありがとう、楽しかったよ」

と瑞樹は言った。

細く長い腕を彰の首もとにからめ、顔をぎりぎりまでち近づける。

熱い息が頬にかかる。

体温を直に感じる。

ほんの数センチの距離に瑞樹の潤んだ大きな瞳がある。

白い頬がわずかに紅潮している。

彰は瑞樹の細い腰に腕をまわし、やや強引に、さらに体を引き寄せる。

「ねえ、お願い……」

そう言い、瑞樹は彰の唇に自身の桃色のとんでもなくやわらかな唇を重ねた。

甘い吐息が肺の中に流れ込み、ゆっくりと確実に瑞樹の舌が侵入した。

舌自体がまるで生きているかのように口の中でうごめき、彰の舌をからめる。

舌と唾液と息と体温がからまり、柔らかいそれはえもいわれぬ快楽をあたえてくれた。

脳に電流のようなものがはしり、意識があいまいになってくる。

むさぼり、むさぼりあう。

その感覚は彰が今までの人生で感じたことがないものであった。

百合とはこのような意識がどうにかなりそうなことになったことはない。

一種麻薬めいた気持ちが精神を支配する。

鼓動が速くなり、血液が沸騰するような衝撃に襲われる。

唇を離すと唾液が糸をひくので、瑞樹は赤い爪の指でからめとり、じっとりとした赤い舌でもったいないとばかりになめとった。

ぼんやりとした瞳で彰をみつめている。

「こういうのいや?」

魔女リリスのような妖しい笑みを浮かべながら、瑞樹は聴いた。

「ぜんぜん」

快楽にふらふらする意識をどうにかとどまらせながら、彰はこたえた。





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