第5話楽しいね
連絡先を交換してから、一週間が過ぎた。
瑞樹からのラインは毎日かかさず、送られてきた。あいさつからはじまり、アニメの感想や、お昼ごはんに何を食べたかなど、ほんのささいなことであった。自撮り写真などもまじることがある。
でも、それが楽しかったりするのである。
スタンプだけのやりとりが続くことがある。
彰はこっそり瑞樹の自撮り写真を保存し、時々ながめていた。
キラキラとした美貌は見ていて飽きるということはない。
美人は3日で飽きるというが、あれはきっと嘘だ。いつまでも眺めていたい。
瑞樹の風貌はそんなイド全開の欲望にかりたてられる。
彼女がいるのに何をやってるのだと自分をせめるときもないではないが、ラインのやりとりぐらいいいではないかと身勝手な言い訳を自身にいいきかせていた。
「ごめん鈴木、週末のライブいけなくなたわ」
それはセブンエンジェルズの大阪公演を一緒に参戦する予定だった友人からの突然の報告だった。
せっかく頑張ってチケットをとったのに、あまってしまう。
どうしたものかと思い、百合に一緒にいくかと聞いてみると、
「私、声優とかアニソン興味ないし。それよりもバーゲンいきたい」
という素っ気ない返事だった。
ふと思った。
瑞樹を誘ってみよう。
セブンエンジェルズのチケットあるけど、どうかな?
うん、絶対いく‼️すごく楽しみ。
ありがとう‼️
心地よいほどの速さで承諾の返信が送られる。よかった、これでチケットが無駄にならずにすむな。彼は安堵した。
この行為が距離を縮め、距離を離す原因となるが彰はそんなことを露ほども考えていなかった。
ライブ当日、目の前にあらわれた瑞樹の姿をみて、彼は瞬時に心を奪われた。
体がかすかにふるえる。顔が勝手に、自然に笑顔になる。
まず目を奪われたのはデニムのショートからはえた白い足であった。すらりとのびたその長い足は単純にまぶしいと思った。
白い半袖のTシャツの袖からでているその腕も純白であった。
もともとある大きな瞳を糸のように細め、キラキラとした笑顔で彰の手を握った。その手は温かくつるつるとして心地よい。
「開場したみたいよ、ねぇ、入りましょう」
嬉しそうに瑞樹は言い、彰の手を握ったまま、ライブ会場に入っていった。
大きめのライブTシャツを上から短めのワンピースのように着て、瑞樹は子供のようにはしゃいでライブを楽しんでいた。
セブンエンジェルズのライブはかつてないほど盛り上がり、観客の熱気で白いもやがかかるほどであった。
コールアンドレスポンスで声を張り上げ、タオルをふり、ジャンプ曲では観客全員が飛びあがり、アンコール曲まで一気に駆け抜けた。
汗でしっとりと濡れる腕をからめ、瑞樹は彰に密着する。それはけっして不快なものではなかった。観客の声と拍手があまりにも大きいので、瑞樹は彰の耳もとに、
「楽しいね」
と大きめのの声で言った。
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