第3話帰り道

仕事帰りにアキラは駅近くの大型書店にたちよった。

「無名な彼女は魔王の娘⁉️」の新作を購入するためである。

とりあえず雑誌の新刊コーナーを周り、コミックのコーナーを眺め、ライトノベルのコーナーにさしかかる。


そこに一人の女性が立っていた。


彼女も新作と他のラノベを数冊、その白く細い手にもっていた。

白魚のような手とはこのことをいうのだろう。

その指をずっと見ていたいという奇妙な欲求にかられたが、どうにかそれを頭の奥においやり、彼も新作を手にとった。

アニメDVDつきの特装版である。

書店特典でポスターもつくとのことであった。

それを見たその女性は手に持っていたラノベを平棚にもどし、

「やっぱりこっちにしよう」

ややかすれた低い声で言った。

ちらりと彼女は大きな瞳でアキラの目をみる。

視線が交わった後、瞬時に耳の先まで熱くなる感覚にアキラは襲われた。

「この本、面白いですよね。アニメも面白いし。今期、力がはいってるって感じですよね。あと、主題歌も最高いいんですよね」

にこにこと嬉しそうに彼女は語る。

「そ、そうですね……」

緊張しながら、こたえる。

とびっきりの美人に突然声をかけられ、アキラは心臓を吐き出すのではないかと思われるほど、緊張した。

「私アニメからはいったほうなんだけど、原作も面白いですよね。ほら、みてください。セブンエンジェルズのCDも買っちゃいました」

えへへっと大きな瞳を糸のように細めながら、トートバッグからCDを取り出し、自慢気に見せつけた。

そのすぐ後、はっと芝居がかった声をだし、もじもじとしながら、

「ごめんなさい。見ず知らずの人に急に話しかけて。無名娘の話できる人まわりにいなくてつい……オタクの悪い癖ですよね」

ペコリと頭をさげ、舌を少しだし謝った。すこしあざとい動作であったが、とんでもなくかわいかった。

「いえ、全然いいですよ」

無名娘とはファンの間で流行りつつある短縮した呼び方であった。

それを知っている彼女は本物のオタクである証明であった。

「あの……よかったら隣のカフェでお茶でもどうですか」

おそるおそる彼女はきく。その言葉には不思議な魔力めいたものがあり、アキラは抗うことができずにすぐに、

「はいっ」

うわずった声で答えた。


書店に併設するカフェで二人は好きなアニメやアニソン、コミック、ライトノベルの話に花を咲かせた。こんなに楽しいのは初めてだとアキラは単純に思った。

一時間とすこし、会話を楽しんだ二人はお互いのラインIDを交換したのだった。


とんでもない美人と知り合いになり、彼女がカフェを立ち去ったあとアキラはスマホの画面を一人でながめ、思わず笑いを漏らしてしまった。

スマホの画面には彼女の自撮りのアイコンと高山瑞樹という名前が写し出されていた。

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